狂愛サイリューム

須藤慎弥

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27♡不穏な影

27♡6

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… … …



 俺がLilyに関わる前……五月はじめにレコーディングしたETOILEの3rdシングルが、来年の二月中旬に発売される予定だ。

 恭也に断りを入れて一足先に完成した曲を聴かせてもらった俺は、自分の歌声はともかく聖南の紡いだ〝セナらしい〟メロディーと詞に、いつもながらすごく感動した。

 めきめきと歌唱力を上げている恭也の声が、アップテンポで早口な楽曲にもうまくマッチしていてかっこいい。

 まるで、華やかな笑顔を浮かべて清涼飲料水を飲んで微笑む、現在も頻繁に放送されている聖南のCMに流れていそうな、明るくてポップな爽快感溢れるETOILEの新曲。

 バラードが席巻する冬にあえて発売する事で話題を生み、まだまだ新人という扱いの俺達がその年の夏冬特番への出演が出来るよう見越した、これは聖南の戦力だ。


『その代わりCROWNも便乗するけどな』


 ……と笑っていた聖南に、俺は何も返せなかったよ。

 だって、なんで俺達に便乗するの。 どう考えても逆でしょ?

 CROWNは五月の終わりにレコーディングが終了し、発売は三月下旬予定。 二組の新曲発表時期を一ヶ月空けた、兄弟グループの二ヶ月連続発売は当然話題になる。

 実質全体の指揮を取っている聖南が、スタッフさん達との打ち合わせの場で言い放った言葉なんて容易に想像できた。

 アーティスト側にも事務所側にもプラスになるよう、これまでの経験を活かしつつすごく頭を働かせて、マーケティングにも口を出す。

 誰よりも〝CROWN〟と〝ETOILE〟が大好きな聖南の事だ。 相乗効果が見込める結論でなきゃ、聖南は認めない。

 様々な仕事の傍ら率先して裏方までこなす聖南の仕事量は、確かにルイさんが苦笑いしていた通りで。

 レイチェルさんへの楽曲提供とプロデュースも追加された聖南はまた、一人でパンクしてしまいそうなくらい多忙を極めている。

 俺へのスキンシップは欠かさないけど、きちんと睡眠が取れてるかも危ういほど、朝は早く夜の帰りも遅い日々が続いていた。





 あれから十日ほど経った。

 恭也の握った特ダネと聖南のゴシップ両方に進展は無く、もちろん聖南と社長さんの仲も依然として悪化状態のまま。

 負のループに迷い込んでるような、静かであればあるだけ後が怖いというか、見えない影が日ごと大きくなっている気がして何だか不気味だと思ってしまうのは、俺がネガティブだからなのかな……。


「ハルポン~? おーい、ハルポン酢~?」
「……俺をポン酢にしないでください」
「ボーッとしてるからやん。 もみじおろしとネギ入れてかき混ぜたろかと思たわ」
「……美味しそう……」
「せやろ?」


 いけない……またボーッとしちゃってたか。

 ほっこりする動物の動画を鑑賞する番組の収録休憩中、一旦楽屋に戻ったはいいけど、ほっこりし過ぎて気が緩んでた。

 俺をポン酢に例えたルイさんは、いかにもやれやれと言いたげな声色で「うわぁ」と呟いて、タブレット端末とにらめっこしてる。


「ハルポン見てみ。 来月のスケジュール、マジで真っ黒やな」
「わぁ……ほんとだ。 去年より増えてる、かも……」
「そらええこと。 ETOILEが業界に認められて、世間に受け入れられてる証拠やん。 来年デカいCMも決まりそうやしな」
「え、そうなんですか?」
「ああ。 俺と林さんで最終交渉中やで」
「すごい……CMなんて。 どんなCMなんですか?」
「それはまだ秘密ー」
「えぇ……じゃあ言わないでほしかったです……気になるじゃないですか」
「フフン」


 十一月も下旬に入ると、オファーのあったアーティストは来月の年末特番に向けてモチベーションの舵を切り始める。

 当然CROWNは早いうちから決まっていて、ETOILEも先週出演が決まった。

 ヒナタの任務がある俺にとって、問題はLilyの方なんだけど……実はまだ、予定していたスケジュールが本決まりではないって事を小耳に挟んだ。

 ギリギリにオファーされる事もあるのかもしれないし、この世界のルールがよく分からない俺に出来る事は、とにかく休まずレッスンに行く事だけ……。

 
「え、……うわ、……えっ、どうしよう……っ」


 通知すべてを切ったスマホが、俺の目の前でピカッと立ち上がった。

 長机の上にペットボトルと並べて置いてたそれを何気なく見てみると、とんでもない相手からの着信だった。

 表示された登録そのままの名前を見ただけなのに、急に心臓がバクバクしてくる。

 慌てて俺は、隣のルイさんに助けを求めた。


「なんや、どうしたん」
「ルイさんっ、……!」
「社長やん。 なんでそんな狼狽えてるん? はよ出り?」
「い、いやだって、俺に直接かけてくることなんてほぼ無くて……っ」
「ええから!」
「あっ! はい……っ」


 オロオロしてる間に、勝手に通話開始を押された。

 滅多に……というか初めて社長さんから掛かってきたんだよ? どんな時でも聖南を通していた社長さんが、俺に直接電話してくるなんてよっぽどの事がない限り……って、そうだ。

 いま、よっぽどの事が起きてるんだ。


『……ハルか? 大塚だが』
「はいっ、あの……はいっ、お疲れさまです……っ」
『収録の合間なんだろう、すまんな。 ハル、仕事終わりに事務所に寄ってくれ。 重要な話がある』
「…………っっ!」


 え……切れちゃったんだけど。

 事務所に寄れって、……絶対そうじゃん。

 俺を単独で呼び出すなんて聖南の件以外あり得ないよ。




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