狂愛サイリューム

須藤慎弥

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32❥狙い

32❥2

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 そうそう、と口を開いた聖南の目線の先に、成田が運転する社用車が駐車されているのが見えた。

 彼にも聞いておいてほしい話なので、聖南は急いでメッセージを送る。

 降車する直前にそれを開いた成田は小走りで聖南の車へとやって来ると、二人の顔を見るなり素直に驚いていた。


「なんだ、お前達。こんなところで何してるんだ?」
「成田さん、後ろ乗って。例のゴシップの件話してっから」
「え!? わ、分かった!」


 助手席にはアキラ、聖南が座る運転席側の後部座席にはマネージャーである成田が乗車した。

 ここにケイタも居てくれると話がスムーズなのだが、こればかりは仕方がない。

 彼の到着まで打ち合わせ時間に待ったをかけているらしいので、聖南は掻い摘んで成田にこれまでの経緯を話し、アキラに向き直った。


「──で、Lilyも出演するクリスマス特番なんだけど。memoryがツアー中の兼ね合いで出演を辞退したって聞いた。だからもし樹が動けそうだったらうさぎちゃんの護衛頼もうと思ってんだよ」
「ん? 樹って佐々木さんの事だよな? でもセナとうさぎちゃんにはボディガードついてんだろ? 必要無くねぇか? 成田さんも居るし」


 腕を組んだまま険しい表情を崩さないアキラに、聖南は「いや……」と首を振った。


「ボディガードはドームの関係者入口からは入れねぇよ。なんて口実付けんの? ひっきりなしにスタッフと演者がウロチョロしてるうえに、待機場も無い。それに成田さんは当日俺らについてんだろ。林ならともかく、スタッフからツラ割れてる成田さんがずっとうさぎちゃんについてたら、めちゃめちゃ怪しまれる」


 佐々木に護衛を任せようとしている事を、アキラとケイタ、成田には伝えておきたかった。

 聖南にとって彼は今も目の上のたんこぶに変わりないが、葉璃に好意を抱いている点以外の働きぶりは文句のつけようがない。

 犯人の名前を聞き、推測される動機を考えた時、聖南は一番に〝ヒナタ〟最後の日を警戒した。自分のポジションを奪ったと逆恨みしているアイが、邪魔しに来るかもしれないと睨んだのだ。

 葉璃を連れ去りLilyの出番を妨害するか、一方的な恨みから直接的に葉璃へ危害を加えるか。アイの事を全く知らないので想像する事しか出来ないものの、聖南を揺さぶって事態を動かそうとした彼女の行動パターンを見る限り、その二点の可能性しか浮かばなかった。

 ただしそれ以外にも目的があるとしたら、聖南に考えられるのは残り一つで……。

 先程アキラに言いかけた話であるが、ひとまずそれは後回しだ。


「あ~だから相澤プロの佐々木さんを、か。身元が確かな分、少なくとも怪しまれはしねぇな。相澤プロのアーティストが出演してればウロついててもおかしくねぇって事か。当日林はうさぎちゃんの任務の手伝いでバタついてるだろうしな」
「そういう事。樹なら腕っぷしも洞察力も長けてるから信頼出来る。俺が居ない間うさぎちゃんを守っててほしいって言ったら二つ返事で引き受けてくれるかもしんねぇ」
「それなら早めに連絡しといた方がいいんじゃねぇの? memoryがツアー中なら日程ぶつかったらアウトだぞ」
「佐々木さんは他事務所なんだが……」


 アキラに急かされ、早速スマホを取り出し〝樹〟の名前をタップした聖南は、成田に向かって「シーッ」と唇に人差し指をあてて見せた。

 そんな事は分かっている。しかし頼めるのは彼しか居ない。

 なんと言っても、葉璃が危害を加えられそうだと知った佐々木の行動力は、聖南と並ぶのだ。それほどの男でなければ葉璃を任せられない。


『──はい?』
「あ、樹? やほー。元気~?」


 何回かのコール音の後、ふと理知的な眼鏡面が浮かぶほど整然とした声が電話口に出た。

 アキラと成田にも会話を聞かせようとスピーカーに切り替え、いつもの調子で聖南が返すと小さな溜め息を吐かれる。


『はぁ。なんですか。ふざけた電話は二度としないでいただきたい』
「あ! ちょちょちょ! 切るな! 待てよっ」
『……はい』
「頼みごとがあって電話した」
『……あの子に関する事であれば』
「その子に関する事だ」
『聞きましょう』
「食い気味じゃん」


 やはり葉璃を匂わせると話が早い。

 佐々木への経緯説明は、成田以上に簡潔に話しても伝わった。聖南は本日三度も同じ話をしていて、要点だけを語るのが上手くなったとも言う。


『──そんな面倒な事になっていたんですか。夏の特番で揉めていたようですけど、あれは解決したんですか?』
「表向きはな。でも女の世界でヘイト向けられたうさぎちゃんへの態度は、そうそう変わるもんじゃねぇよ。うさぎちゃんもその辺は割り切って無になってる。卑屈な性分で助かってるんだと。あの子一回落ちるとこまで落ちてんだ。危ねぇから向こうに行くのやめろって言っても、〝最後までやりきる〟って俺の言うこと聞かねぇんだよ」
『……あの子は意外と頑固なところがありますからね……って、うさぎちゃん?』
「あの子の事」
『あぁ……なるほど。可愛いですね。うん……可愛い。俺も裏ではそう呼ぼう。……うさぎちゃん、か……。企画でも何でもいいから公の場でうさ耳付けてくんねぇかな……エロいんだろうな……想像しただけで抜けるわ……』
「おい、妄想しながらブツブツ言うのやめろ。うさぎちゃんは俺のだぞ」


 電話の向こうで、瞳を瞑り妄想にふける佐々木の姿が目に浮かんだ。

 瞬時にムッとした聖南を黙って見ていたアキラは、露出度の高い衣装を着た葉璃の〝ヒナタ〟に欲情していた佐々木と聖南の、一触即発だった光景を思い出した。

 あの時はケイタが止めに入ったので良かったが、本性を現した佐々木と、葉璃に関してのみ器が狭過ぎる聖南。この二人は葉璃の居ない場ですぐに喧嘩が始まる。

 案の定、佐々木は聖南を煽るように鼻で笑った。


『フッ……分かってますよ。想像するくらいいいじゃないですか。セナさんはケチですか』



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