狂愛サイリューム

須藤慎弥

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32❥狙い

32❥6

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… … …



 某ドームにて行われるクリスマス生放送特番の四日前。

 聖南は午後の仕事を終え、事務所内のマネジメント部署のある三階に居た。ちなみに葉璃は、クランクアップした恭也と共に特番に備えて十九時までダンスレッスン中だ。


「──あっ、セナさん。お疲れ様です!」
「お疲れ。アレ、最終出た?」
「あぁ、はい。アレですね」


 ある事を確認するため林のもとへ行くと、すぐにタブレット端末を持ち出し聖南の知りたかった情報を教えてくれた。

 林が職務に就いて二年。それはETOILEの二人と同じ歴という事になるが、彼は成田のようになりたいと意欲満々だからか、たった二年で特殊な業界のマネジメント業務をソツなくこなすようになった。


「……ん。出演順は問題無さそうだな」
「はい。今回も、Lilyでの出番後ハルくんはすぐにETOILEの控室を使えるようになります。あと、CROWNの三人も同室可能の旨を伝えていますので、控室の準備が出来次第セナさんに連絡を入れます」


 葉璃の極秘任務を頭に入れている彼は、マネージャーとして番組スタッフに要望を出し、出演順の変更と控室の手配まで抜かりない。

 さらに成田と連携し、葉璃の任務を知るCROWNの出演順まで変更させた。それは恐らく、聖南と葉璃の関係をも知る彼の計らいだろう。


「オッケー。ありがとな、林」
「そんなっ……! セナさんにお礼を言われる日がくるなんてっ。感無量です! ありがたき幸せ……!」
「オーバーだな」
「オーバーじゃないですよ!」


 一見すると貧血気味のように見える線の細い男だが、仕事に対する熱意と情熱はこの二年しっかりと見てきた。

 成田を信頼している聖南と同じく、葉璃と恭也も林に厚い信頼を寄せている。そんな人物が身近に居るというのは、決して当たり前ではない。

 タレントとマネージャーは双方の信頼関係によって成り立つため、林をETOILEのマネージャーに新人として起用した社長の采配は正しかったと思わざるを得ない。

 色々とあったが、社長の先見の明は少しも衰えていないという事をつくづく思い知らされる。


「えーっと……」


 林のオーバーリアクションにフッと笑みを溢した聖南は、じわじわと遠ざかろうとしていた長身の男に近寄って行った。


「おい、ルイ」
「…………っ」


 そろりと振り返ったルイの顔が、ピシッと引き攣っていた。

 どうにか気配を消して聖南の前から立ち去ろうとしていたらしいが、そう簡単に消せるようなオーラではない。

 顔の造作や立派な体躯もさることながら、その芸能人オーラは生まれ持ったものだ。

 聖南は親指を廊下に向け、至って通常通りに「ついて来い」と言った。


「ちょっと話そう」
「……はい」


 気まずそうなルイを連れ、同じ階の個室へとやって来た。

 脚の長い四角いテーブルの周りにパイプ椅子が四脚あるその一つに、ルイを座らせる。

 聖南はやや離れた位置で壁に凭れ、腕を組んで彼の表情を観察した。

 ヒナタの正体を知った翌日からも、ルイはいつも通りだと聞いている。はじめは葉璃も安堵していたが、数日が経った今あまりにもそれが不自然なように感じると嘆いていた。

 またルイは、無理をしているのかもしれない。彼はそういう性格だと、他でもない葉璃が言っていたのだ。

 一度話をしなければと思っていたところに、良い機会が出来た。


「ルイ、……葉璃の前では普通にしてくれてんだろ」
「何がっすか。俺はいつでも普通っすよ! 今も普通っしょ?」


 聖南の言葉にいつもの調子で返してくるルイは、確かに〝普通〟だ。

 けれど今は、それは正しくない。

 正体を知って普通で居られるはずがないと、聖南も葉璃も気を揉んでいる。


「……そうやってルイは、おばあさんの事で落ち込んでた時も自分の気持ち隠してたよな」
「それ言われると……」
「動揺してんの、葉璃に悟られねぇように立ち回ってくれてんだろ。 ヒナタが葉璃だったって事、まだ受け止めらんないだろうに」
「いや……」
「でもな、葉璃は気付いてる。ルイに申し訳ねぇって毎晩言ってるよ」
「えー……マジっすか……?」


 ああ、と頷く聖南に、ルイからは苦笑しか返ってこない。

 祖母の容体が心配で、ひとりぼっちになるかもしれない恐怖からETOILEの加入にも前向きでいられなかったルイは、葉璃にそれを打ち明ける事で気を保っていた。

 しかしそれも、葉璃には強がって見えたのだそうだ。

 生い立ちゆえか、負の感情を隠す性分なのか、ルイはあまり表立って不安を見せる事がない。

 男ならば当然、というのも分かるけれど、葉璃に頼れなくなったルイは一人で鬱々としているのではないかと心配だった。

 お調子者で快活で真っ直ぐな彼は、当初険悪だった葉璃に心を許している。だとすると尚の事、葉璃に心配かけまいと〝普通〟を演じている可能性大だ。

 聖南は、葉璃が信じた人間を信じている。

 心が狭いと思われたくない……その節もある。

 だが葉璃の嘆きは、聖南にも備わっているお人好しの心を動かした。


「俺さぁ、葉璃の事となるとすーぐ頭に血が上っちまうんだよなー。嫉妬深いし器は狭いし、あんま褒められた彼氏じゃねぇんだ」
「はぁ、……」
「ただな、俺って信じてる奴にはめちゃめちゃ寛大なんだよ。葉璃がそばに居てほしいと思ってる奴は、見てれば分かるし。てか分かりやすいし」
「セナさん、何が言いたいんすか」



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