狂愛サイリューム

須藤慎弥

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33♡悪意と嫉妬

33♡

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─葉璃─



 打ち合わせと簡単なリハーサルを終えて、あとは収録を待つばかりとなった〝ETOILE〟の楽屋。

 ついさっき、林さんはスタッフの人に呼ばれて出て行った。

 仲良く隣同士に座った俺と恭也は、いつものバラエティー番組の収録前でドキドキと戦っていて、楽屋内は物凄く静かだ。

 だって今日は、収録が三時間近くもある。放送が年明けだから、今日収録するのは年始の特番って事。

 まだクリスマスもきてないのに、「あけましておめでとうございます」って挨拶しなきゃいけない。

 うっかり口を滑らせてしまわないように、何回も台本を確認する。

 VTRを見てクイズに答えたり、恭也の背中に隠れて司会者の人と雑談したり、放送回によってはたまに進行役が回ってくる事もあったりして……まだまだ不慣れな俺は、バラエティー番組に出演する時こそ〝やらなきゃスイッチ〟が欲しいといつも思う。

 今日こそはちゃんと喋ろう。

 今日こそは恭也に頼りっきりにならないようにしよう。

 そうやって収録前に毎回ヨシッと気合いを入れても、スタジオに入るとカチコチになっちゃって……。

 こればかりは慣れるしかないって聖南に言われた。

 頑張らなくていい、そのままでいいじゃん、とも言われたけど、見るに耐えない俺のオドオドが毎週世間に晒されてるなんて、俺が耐えられない。

 今日こそ……! 今日こそは何か一つでもちゃんと喋んなきゃ……!

 台本を最後のページまで読んだ俺は、一度お水で水分補給して、チラッと恭也の横顔を見た。

 そのとき同じタイミングで恭也が動いて、ビクッとなる。

 おもむろにポケットからスマホを取り出した恭也は、画面を見るなり「え……」と呟いて目を見開いた。


「……セナさんから、電話だ」
「えっ!?」


 ……えぇっ!? 聖南が恭也に電話!?

 俺を通さないなんて珍しい……と俺も目を見開いてると、律儀な恭也がお伺いを立ててきた。


「出てもいい?」
「う、うん、もちろん! お、お、俺は聞かない方がいいかな!? 外に出てようか!」
「大丈夫だよ。……はい、あ、お疲れ様です」


 気を使って立ち上がりかけた俺の腕をガシッと掴まれて、渋々着席した。

 ほんとにいいの?なんて聞く間もなく、早くもスマホを耳にあてた恭也はまだ、俺の腕を掴んでる。


「あの、今日収録なんで、葉璃もいま、隣に居るんですけど……はい、……はい、あぁ、あります。少し、待ってください」


 何かを指示されたみたいで、立ち上がった恭也はスマホを俺に託し、私服のズボンからワイヤレスイヤホンを取って戻ってきた。

 ちなみに今日の衣装は、年始用に二人とも着物だ。恭也はシックで深い青色(藍色に近いかな?)、俺は……鮮やかな赤色。

 背が高い恭也はすごく似合ってて様になってるのに、俺はどう見ても七五三みたい。

 この色は目立つから、せめてもう少し落ち着いた色が良かった……。


「はい、これ。左につけて」
「えっ? うん、……?」


 大人っぽくていいなぁ、と恭也を眺めていると、小さくてコロンと丸っこい左耳用のイヤホンを手渡された。

 俺も聞いてていいのかな。

 聞こうにも、恭也はすぐに会話を再開しようとしてたから、俺は急いでイヤホンを左耳に嵌めた。

 すると当たり前なんだけど、左からだけ聖南の声がして一人でときめいてしまう。


『あのな、こっちも二十五日の生特番のリハーサル前で、十分しか時間が無えんだ。いきなりで悪いんだけど簡潔に言う』
「……はい?」
『水瀬の連絡先分かるか』
「あ、……」
「あっ!!」
「なに、葉璃? どうしたの?」


 恭也の声に被せるようにして、思わず大声を上げた。滅多にそんな声を出さない俺に驚いて、恭也が勢いよくこちらを向く。

 あぁ……そうだ……そうだった……!

 聖南が水瀬さんの名前を出した途端、ここ何日も頭の片隅で「なんか忘れてるような……」と首を傾げてた、重大過ぎる報告を忘れてた事に気が付いたんだ。

 水瀬さんのDV疑惑はともかく、アイさんと付き合ってたというのは確かだって、わざわざ恭也が俺の雑誌撮影の現場まで来て教えてくれたんだった。

 しかもアイさんは恭也のファンで、水瀬さんとお別れする条件?でサインとボイスメッセージを要求されたって事まで、俺は聞いてたのに……!

 近頃色々あり過ぎて、頭の片隅に追いやってた自分が腹立たしい。

 こんな大事なこと、いの一番に聖南に報告しなきゃいけなかったのに……!


「あ、あ、あの……っ、恭也っ! そのこと、聖南さんに報告するの忘れてた……!」
「ええっ!?」
『何? 葉璃なんて言ってんの?』
「忘れてた、そうです。その方について、重要なお話、あったんですけど」
『マジで? それ今聞かせてもらえる?』
「はい、……」


 俺のせいで、恭也は同じ話を二度する羽目になった。

 話を聞くだけ聞いて聖南に情報共有しなかった俺は、ドジって言葉じゃ足りない。いっそバカだ……っ。


「うぅ……聖南さん、すみません……お詫びに断崖絶壁から飛び降りようと思います……ほんとにごめんなさい……」
「葉璃っ、何を言ってるのっ」
『バカな事言うなよ! 葉璃ー! 気にしなくていいぞー! あれもこれも抱えた葉璃を責めるわけねぇだろー?』
「そうだよっ。人間なんだから、忘れる事もあるよ!」
「うっ……ごめんなさい……ほんとにほんとにごめんなさい……」


 謝ってもどうしようもない事なんだけど、それこそ昨日、俺はガックリと肩を落とした聖南を見たんだ。

 ティータイム中に聖南パパから電話があってお話した聖南が、アイさん探しに進展がないらしいって報告を受けて落ち込んでて……「何か手掛かりねぇかなぁ」と俺に抱きついて溜め息吐いてた。

 なんでこんなに重要なこと、忘れちゃってたのかな……。

 断崖絶壁って、……どこにあるの?


『──よし、じゃあ恭也が水瀬と連絡取ればアイに繋がるって事だな?』
「そうです。連絡、取りましょうか?」
『ああ、早急に頼む。日時は向こうに任せていい。何が何でも時間作る』
「分かりました」
 

 切る間際、恭也のスマホだっていうのに聖南から『葉璃~収録頑張れよ~♡』とエールを貰った。

 いやいや、もちろんそのつもりだったけど。

 〝今日こそは〟と気持ちも新たにがんばる予定だったけど。

 なんとも情けない自分のうっかりに絶望した。

 俺、生きてていいですかって本気で思っちゃってるよ。



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