337 / 601
33♡悪意と嫉妬
33♡7
しおりを挟む──空気が悪い。
レッスンスタジオに入った瞬間、一斉に向けられた俺への視線にいつも以上の嫌悪を感じた。
アイさんの件があって、社長直々にレッスンを控えるよう言われてしばらくぶりに顔を出した先週よりも、ずっと空気が重たく淀んでいた。
とは言っても、これはあまり珍しいことではないし、俺が一分前の滑り込みギリギリで来ちゃったからみんな怒ってるのかな? ……と、はじめはその程度にしか思わなかったんだけど……。
「ハルってさ、マジでクリスマスの特番で〝ヒナタ〟終わりなの?」
「えっ?」
変わらずダンスのクオリティーとシンクロ率には脱帽の、明後日に向けた通し練習を終えてシューズを脱ごうとした時だった。
固くなった靴紐が解けなくて苦戦していた俺の背後に、リカさんとその取り巻き三人が居た。
誰が聞いても、とても親しい人に向けるものじゃない声は、金髪ショートのリカさんだ。
他のメンバー達は、リカさんと取り巻き三人が俺に話しかけたのを見て一瞬ザワつき、誰一人喋らなくなる。
「そ、その予定、ですけど……」
「ふーん」
「期間延長、てか本メンバーになったりして」
「あり得るよねー」
「……何でですか?」
講師が居なくなるタイミングを見てまで聞きたかったのかな……〝ヒナタ〟の最後を。
俺に話しかけてくるなんて、珍しいどころの騒ぎじゃない。
含んだその言い方には棘がいっぱいだ。
リカさん、何が言いたいんだろう。最後の最後に俺をいびらなきゃ、気が済まないのかな。
「アイ、年明けにLilyを脱退する方向で話が進んでるんだって」
「えっ!? そんな……っ!」
脱退……!? どうしてそんなに話が飛躍してるの!?
事務所がそう言ったの?
でも……っ!
「アイさんと連絡取れたんですか!? だ、だってアイさんと事務所は連絡が取れてないって聞いて……!」
「取れてないよ。また勝手に話が進んでんの」
「えぇっ……」
そ、それが本当なら、事務所はあまりにも勝手過ぎだよ……!
だってここの偉い人達は、講師を伝って大塚社長にコンタクトを取り、アイさんの代わりになる人物として俺を抜擢した──メンバーには何の相談も無く、勝手に。
その事でメンバーに不満が溜まりまくってたの、もう忘れたの……っ?
なんのために、あのとき聖南は大塚の社員さんを引き連れないで来たと思ってるの。一タレントとして、Lilyのメンバー達と一緒に事務所に〝お願い〟したようなものなんだよ?
もっと話を聞いてやれって。不満が溜まりきる前に、話し合う場を設けろって。
聖南の言葉、何にも届いてなかったの……?
「事務所も経営ヤバいって聞くしねー」
「そうそう」
「や、ヤバいって……」
「あーあ。私達も大塚所属だったらなぁ」
「ホントだよね」
「…………」
話が違う方向になってきた。
解こうとする靴紐はどんどん固結びになっちゃうし、この場から逃げたくてもスタジオの外の一部分は土足厳禁。
ちょっと怖い目で見られるくらいなら、まだ我慢できる。でもこのあからさまな悪意はほんとに嫌だ。
事務所も変わってなければ、リカさん達も何の変化も無いんだなっていうのが今の台詞で伝わっちゃったし。
〝大塚が良かった〟──俺はこの台詞、大ッキライ。
ETOILEのオーディションの時も、ルイさん以外の候補者さん達が全員似たようなことを言ってた。
〝ここで夢を掴みたい〟
〝大塚なら〟
この業界は事務所の大小も確かに関係あるのかもしれない。俺が運良く大きな事務所に拾ってもらえたから、みんなの気持ちを理解できなくてその言葉に反応しちゃうだけなのかもしれない。
でもそれって……それって、本当に〝夢〟って言えるの?
不器用な指先が、感情に負けてもっと靴紐をグチャグチャにしちゃってる。
悪意は見たくない。感じたくない。
黒いものが渦巻く場所に居ると、うまく呼吸が出来なくなる。息が苦しくなる。
早く靴紐解かなきゃ。
早く……っ。
「ハルってさ、相澤プロのレッスン生だったんでしょ? どうやって大塚に媚び売ったの?」
「媚び……?」
とうとう俺の前に回り込んできたリカさんから、とんでもない事を言われた。
座っていつまでも靴紐を触ってる俺を見下ろしてくる、冷たい視線。
何を言われたのか、すぐには理解出来なかった。今まで一度も、誰からも、こんなに汚い感情を向けられた事がなかった。
理解したその瞬間、胸がジリッと焼け付いて、カァッと頭に血が上った。
「媚び……っ? 俺はそんなの売ってないですよっ」
「またまたぁ。セナさんにもめちゃめちゃ気に入られてるし? 恭也くんとのユニットも、BL戦略が当たってたった一年でトップアイドルの仲間入りでしょ?」
「マジでどうやったの?」
「もしかして枕とか? やっちゃった感じ?」
「えー! セナさんと!? そんなの羨まし過ぎ!」
「……枕? 枕ってなんですか?」
問うても、誰も教えてくれない。
リカさん達の、皮肉めいた冷たい笑顔が怖かった。
向けられた悪意と嫉妬、意味不明な単語、……頭に血が上って体もカッと熱くなってたはずなのに、どんどん俺の心は冷え切っていく。
だって……。
こんな事しか言えないの……?
ファンの人達に恥ずかしくないの……?
事務所が悪いって決め付けてるけど、実はリカさん達がずっとこんな態度で歩み寄らないから、相談すらしてもらえないんじゃないの?
なんのために、アイドルを目指したの?
どうしてそんなに……悪意に染まっちゃったの……?
10
あなたにおすすめの小説
売れ残りオメガの従僕なる日々
灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才)
※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!
ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。
無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。
隊長さんとボク
ばたかっぷ
BL
ボクの名前はエナ。
エドリアーリアナ国の守護神獣だけど、斑色の毛並みのボクはいつもひとりぼっち。
そんなボクの前に現れたのは優しい隊長さんだった――。
王候騎士団隊長さんが大好きな小動物が頑張る、なんちゃってファンタジーです。
きゅ~きゅ~鳴くもふもふな小動物とそのもふもふを愛でる隊長さんで構成されています。
えろ皆無らぶ成分も極小ですσ(^◇^;)本格ファンタジーをお求めの方は回れ右でお願いします~m(_ _)m
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新!
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新!
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。顔立ちは悪くないが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?
2025/09/12 ★1000 Thank_You!!
貢がせて、ハニー!
わこ
BL
隣の部屋のサラリーマンがしょっちゅう貢ぎにやって来る。
隣人のストレートな求愛活動に困惑する男子学生の話。
社会人×大学生の日常系年の差ラブコメ。
※現時点で小説の公開対象範囲は全年齢となっております。しばらくはこのまま指定なしで更新を続ける予定ですが、アルファポリスさんのガイドラインに合わせて今後変更する場合があります。(2020.11.8)
■2025.12.14 285話のタイトルを「おみやげ何にする? Ⅲ」から変更しました。
■2025.11.29 294話のタイトルを「赤い川」から変更しました。
■2024.03.09 2月2日にわざわざサイトの方へ誤変換のお知らせをくださった方、どうもありがとうございました。瀬名さんの名前が僧侶みたいになっていたのに全く気付いていなかったので助かりました!
■2024.03.09 195話/196話のタイトルを変更しました。
■2020.10.25 25話目「帰り道」追加(差し込み)しました。話の流れに変更はありません。
【完結】お義父さんが、だいすきです
* ゆるゆ
BL
闇の髪に闇の瞳で、悪魔の子と生まれてすぐ捨てられた僕を拾ってくれたのは、月の精霊でした。
種族が違っても、僕は、おとうさんが、だいすきです。
ぜったいハッピーエンド保証な本編、おまけのお話、完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
トェルとリィフェルの動画つくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画
プロフのWebサイトから、どちらにも飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
愛され少年と嫌われ少年
透
BL
美しい容姿と高い魔力を持ち、誰からも愛される公爵令息のアシェル。アシェルは王子の不興を買ったことで、「顔を焼く」という重い刑罰を受けることになってしまった。
顔を焼かれる苦痛と恐怖に絶叫した次の瞬間、アシェルはまったく別の場所で別人になっていた。それは同じクラスの少年、顔に大きな痣がある、醜い嫌われ者のノクスだった。
元に戻る方法はわからない。戻れたとしても焼かれた顔は醜い。さらにアシェルはノクスになったことで、自分が顔しか愛されていなかった現実を知ってしまう…。
【嫌われ少年の幼馴染(騎士団所属)×愛され少年】
※本作はムーンライトノベルズでも公開しています。
【完結】抱っこからはじまる恋
* ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。
ふたりの動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります。
YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる