狂愛サイリューム

須藤慎弥

文字の大きさ
358 / 632
35・アイドルの本気

35♡

しおりを挟む

♡ 葉璃 ♡



「──また俺、皆さんに迷惑かけたんでしょ? もう俺……自分にムカついてムカついて……」
「いや葉璃、それは不可抗力ってやつでな、……」


 フォローしてくれようとする聖南の顔を、まともに見られなかった。

 だって、だって……俺いつの間にここにワープしたの?

 ミナミさんがシャワールームに連れてってくれた事までは覚えてる。でもその後はずーっと夢の中で、気付いたらベッドの上だった。

 傍らには母さんが居て、窓の外は暗かった。

 ここは明らかに消毒液みたいな匂いがして、目が覚めた俺を見て母さんが慌ててナースコールを押したから、病院にいるんだって事は分かった。

 だからって、寝てただけの俺がなんで病院に居るのかまでは分かんなかった。

 説明下手な母さんから大体の経緯は聞いたんだけど、……話が飛び飛びでもっと混乱した。

 Lilyのメンバーから悪意を向けられて眠らされたと言われても、とうとう俺の存在がそこまでの行動を起こさせたんだって悲しくなって、聖南にも〝ごめんなさい〟としか思えなくて。

 俺は、ナースコールで飛んできたお医者さんと看護師さんから異常なしと判断されると、すぐに聖南に連絡しようとした母さんに待ったをかける事しか出来なかった。


「ていうか目が覚めてどれくらい経った? すぐに連絡してほしかった。……生きた心地しなかった」
「あっ、それは……俺が母さんを止めてて……」
「……なんで?」


 なぜかお医者さんのコスプレで現れた聖南は、すごく心配そうだ。暗くてよく見えないけど、眼鏡の奥が濡れてるような気もする。

 俺の前でしか泣かない強がりの得意な人が、ツラそうに眉間にシワを寄せて俺を見てる。

 もちろんすぐに聖南に会いたかったよ。

 会いたかったよ、……。


「何回心配かけたら気が済むんだって、聖南さんに呆れられてないか怖かったんです……怒られるのは当然かもしれないですけど、出来れば怒られたくなかったし……」
「なんで俺が怒るんだよ! 呆れられてねぇか不安だったのは俺の方だ!」
「えっ? なんで聖南さんがっ?」


 俺の肩を抱き寄せてきた聖南は、さらに苦しげに「怒れよ」と呟いた。


「こんな時まで卑屈ネガティブ発揮するなよ……。もっと俺のこと罵っていい。不甲斐ない恋人だなって文句ぶつけろよ」
「文句なんてそんな……! そう言われても、母さんからちょっとだけ話は聞きましたけど何もかも俺が悪いですもん!」
「なんでだよ。葉璃は何も悪くねぇ。どこまで話聞いてるか分かんねぇけど、葉璃は完全な被害者なんだぞ」
「でも……っ」
「葉璃」
「…………っ」


 ドクター聖南の視線は心臓に悪い。

 本物のお医者さんから異常なしって言われたのに、聖南に名前を呼ばれて見つめられると途端に胸が苦しくなる。

 息を呑んだ俺は、それだけで言葉を続けられなくなった。


「葉璃、そこまで強くなる必要無いから。どれだけ自分下げても、相手が上がらない場合もあるんだよ。義理立てする相手でもねぇし」
「俺そんなつもりは……」
「それが葉璃の本心だって分かってるからこそ言ってるんだ。今回に限っては、俺は許すつもりねぇよ」


 聖南の発言も、眼力も、揺るぎないように見えた。聖南が「許さない」と言えば、それが難無く実現出来てしまう影響力を思うとちょっとだけ怖くなる。

 俺はただ、そんな行動に走ったLilyのメンバーの気持ちを客観的に考えた時、〝ヒナタ〟を受け入れられないのも仕方がない事なのかなと思っただけ。

 どうしてそこまで悪意を溜め込めるの?って、理解しがたい気持ちもある。

 でもはじめに、俺がこの任務を引き受けなかったらこんな事にはならなかったよね。

 いくら社長さんの頼みでも、限りなく拒否権が無い立場にあっても、あの場には聖南が居た。俺は断れる環境、状況だったにも関わらず、引き受けるって決めたんだ。

 俺は別に何もされてない。

 おでこがちょっとだけ痛むけど、これは俺が自分でぶつけただけ。眠らされたと言っても、疲労回復出来ちゃったくらい夢も見ないでグッスリだった。

 だから俺は、聖南の気持ちや言葉を聞いてビクビクした。

 いったい何をする気なの、聖南……?


「ちなみに、ゆ、許すつもりないって……どういう意味、ですか……?」
「Lilyを干す」
「えっ!?」


 干す……!? って、そんな物騒な……!

 仰天して瞬きを忘れた俺から離れた聖南は、怖い無表情のままふいに立ち上がった。その動向を見逃すまいと、俺は聖南を目で追う。

 何をするのかと思えば、備え付けの小さな冷蔵庫からペットボトルの水を取り出して、それをプラスチック製のコップに半分くらい注ぎ、残りは口を付けて自分で飲んでいる。

 喉渇いてたのかな……。

 もしかして大慌てで来てくれたの?

 雨なのか雪なのか分からないけど、外は見るからに悪天候で、クリスマス・イブの華やかなイメージとはかけ離れてる。

 俺は病院専用のパジャマみたいなのを着せられて頭はボサボサ、寝すぎてきっと顔もむくんでるし、目の前で水を一気飲みしてしまった聖南も、今はアイドルじゃなくイケメンなお医者さん。

 ジッと見てると、俺の視線に気付いた聖南と目が合ってドキドキした。

 うぅ……! かっこいい……!

 こんな時にこんな事を思ってるなんて知られたら、それこそ呆れられちゃうよ……!

 意味もなく足をモソモソ動かして、聖南のコスプレが大好きな俺は密かに悶えた。

 ところが聖南は、俺のドキドキを「でもな」の一言で一瞬で吹き飛ばした。


「……で、でも……?」
「正当なやり方で、干す」
「いや、ほ、ほ、ほ、干すって、業界追放みたいな事ですよねっ? そんなの……っ」
「なに、まだ恩情見せようっての? 葉璃ちゃん……お人好しも大概にしな?」
「…………っ」


 えぇっ……そんな!

 〝干す〟なんて聞いたら、みんな同じ反応すると思うけど……!



しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

灰の底で君に出会う

鮭茶漬け
BL
両親を亡くした高校生、神崎透は叔母の家に引き取られて暮らしている。しかしその家は、家族と呼べる場所ではなかった。家事、雑用、そしてバイト。どれだけ働いても感謝されることはなく、透は「穀潰し」と呼ばれながら日々を過ごしていた。 それでも透は思っている。ここに置いてもらえるだけでありがたい、と。 これは――居場所を持たなかった少年が、初めて愛を知るまでの物語。

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

氷の婚約者様に破談を申し出たら号泣された

楽矢
BL
目が覚めると、レースの牢獄のような天蓋付きベッドの上だった。 何も覚えていない出来損ない下級貴族ミラ。無能だクズだと冷酷な罵詈雑言を浴びせてくる氷の騎士セティアス。 記憶喪失から始まる、2人のファンタジー貴族ラブコメディ。 ---------- ※注) かっこいい攻はいません。 タイトル通りそのうち号泣しますのでご注意! 貴族描写は緩い目で雰囲気だけお読みいただけると幸いです。 ハッピーエンドです。 激重感情をこじらせた攻→受な関係がお好きな同志の方、どうぞよろしくお願いします! 全16話 完結済み/現在毎日更新予定 他サイトにも同作品を投稿しています。 様子を見ながらそのうち統合するかもしれません。 初めての一次創作でまだよく分かっておらず、何かおかしなことをしでかしていたら申し訳ないです!

守り守られ

ほたる
BL
主治医 望月診療所の双子医師 患者 瀬咲朔 腸疾患・排泄障害・下肢不自由 看護師 ベテラン山添さん 準主人公 成海真幌 腸疾患・排泄障害・てんかん 木島 尚久 真幌の恋人同棲中

強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない

砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。 自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。 ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。 とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。 恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。 ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。 落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!? 最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。 12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生

処理中です...