狂愛サイリューム

須藤慎弥

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35・アイドルの本気

35♡10

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〝続いてはETOILEのお二人でーす!〟


 ──うぅ! よ、呼ばれた!! silentが流れてる……!


「う……っ!」


 楽屋に居ても漏れ聞こえていた凄まじい歓声の渦と拍手、そしてドーム内に爆音で流れるETOILEのデビュー曲のなか、女性司会者から紹介を受けてうっかり心の声が漏れた。

 一組、また一組と袖からステージへ向かって行くのを、恭也に寄りかかって震えながら見ていた俺の一歩が重い。


「葉璃、手つなごう」
「えっ!? で、でもそんな大胆な……っ」
「早く。時間無い」
「う、うんっ?」


 俺の顔色を見てまともに歩けないと判断した恭也が、右手を差し出してきた。

 恭也がゆっくり喋らない。という事は、今の恭也は〝俺についてこい〟モードだ。

 それなら……と俺も左手を伸ばすと、素早く強引に握られた。モタつく間もなく、心身共に俺を引っ張る恭也が眩しい場所へ颯爽と連れて行ってくれる。


〝来年二月に新曲の発売が控えているお二人、今日も仲良く手を繋いでの登場でーす! ファンにはたまらないですね! ──さぁ、続いては遠藤ミホさん……〟


 ステージの上は通常照明の他、四方からのライトに照らされている。眩しすぎて、段差がよく見えない。

 それでも恭也が手をつないでくれてるから、転ばずに何とか中段くらいまで降りられた。……のに、司会者の女性がそんな事を言って会場を沸かせたもんだから、一気に顔面が熱くなる。

 客席からは俺と恭也を呼ぶ声と同時に、悲鳴のような黄色い声が上がった。

 ──もう熱が上がりそうだよ。

 俺たちが階段を全段降りるのを待たず、次の女性歌手さんが呼び込まれると全視線がそちらに移る。……助かった。

 打ち合わせ通り、あとは上手側で他のアーティストさん達の登場を見守るだけ。

 震えを誤魔化すために、恭也に寄りかかってる俺もお客さんと一緒に拍手をしてみる。

 アイドルなのに相変わらず音楽業界に疎い俺は、まるで緊張なんてしてなさそうな笑顔で華麗に降りてくるアーティストさん達の名前が、ほとんど分からない。

 俺が知ってるのは……大好きなのは……いや大ファンと言っていい人達のことならよく知ってる。


〝さぁ続いては皆様お待ちかね、CROWNの登場でーす! ……っ、わぁっ、どよめきが起こりました! 来年三月、新曲の発売が決定しているCROWNの皆さんには、今回特別にヒットメドレーと題しまして三曲披露していただきます! 合間のトークにも期待しましょう! ……さぁ続いては……〟


 十五組目に華々しく登場した〝CROWN〟。

 呼び込まれた三人が姿を現すと、凄まじい歓声は巨大なドームを揺らした。

 すごい……他のアーティストさん達の比じゃない。……何万人か分からないお客さんの黄色い声が、大袈裟でも何でもなく〝絶叫〟に聞こえる。

 アキラさんはわずかに微笑みながら左手を振って、ケイタさんは満面の笑みで両手を振って二人ともファンサービスに余念がない。

 いつもはケイタさんとはしゃぎながら登場する、中央を悠然と歩いてくる聖南は……今日はなんとすまし顔でおとなしかった。

 モデルの肩書きも持つ聖南は、ゆらりと歩くだけで様になる。こっちに近付いてくるトップアイドルを見る俺の目が、ファンの人達と同じハートマークになってたと思う。

 だって、だって、……。

 とにかく、とにかく、誰よりも、……。


 ──かっこいい……。


 まだオープニングは続いてる本番中なのに、ただただ聖南に見惚れてた俺は単純だ。

 背後に感じる圧倒的なアイドルオーラにドキドキしていて、同じステージに俺の敵が潜んでることも忘れていた。





「──今だけは葉璃の顔を立てるよ。状況的にぶっつけにも限度があるしな」
「……はい」


 楽屋に戻ってからも、ドキドキが治まらない。

 歌番組でCROWNと被るのは嬉しいんだけど、毎回俺はこうなっちゃうんだよなぁ……。

 だから、慣れ親しんだ人達だけの空間で聖南が当たり前のように腰を抱いてきた時、俺ってば「ひゃうっ」て変な声出しちゃったし。

 ヒナタに変身するため、俺はせっかく整えてくれたハル装備を全部脱いで質素な私服に着替えていた。

 今回のLilyの出番順はかなり早い。ほんとはのんびりしてられないんだけど、聖南がなかなか離してくれなくて……。


「葉璃、さっき俺が言ったこと覚えてるか?」


 ん……? さっきって……ここに到着してすぐに聖南から意味深に耳打ちされた、あの事?

 それなら……。


「覚えてます」


 ロボットみたいな動作で頷いた俺の頭を、聖南がふわふわと撫でる。だけど優しく微笑んでくるだけで、それに対する答え合わせはしなかった。


「……本番前だから堪えるけど。葉璃、何かあったらすぐ林に言えよ」


 聖南は、たった今ステージの上でLilyのメンバー達を見ちゃったから、イライラが抑えきれないんだ。

 今すぐにでも怒鳴り込みに行きたいはずなのに、キラキラになった聖南がLilyの楽屋を出入りしてたらさすがにおかしな噂を立てられるかもしれない。

 パフォーマンスに支障をきたすのは良くないし、本番前に波風立たせたくないっていう俺との意見も合致して、我慢してくれてる。

 それは俺の想像を遥かに超えるくらい、きっととてつもなく強大な我慢だと思う。


「……はい。堪えてくれてありがとうございます、聖南さん。でもさすがに今日は何もされないと思うんですよ。絶対、とは言い切れないとこがちょっと怖いですけど、そんな事でビクビクしてるより本番の方が大事です。なんというか……色んな緊張ですでに頭の中がパニック寸前なので、もうがんばるしかないかなって……」
「ああ、頑張って来い。……林、頼んだぞ」
「はい! 今日は何がなんでもハルくんについてます! まかせてください!」


 聖南の不安を少しでも拭えるように、つたない言葉を必死で絞り出した。

 Lilyの楽屋に付き添ってくれる林さんは、用心棒に抜擢されてすごく張り切ってるけど……俺は怖くはないんだ、ほんとに。

 俺はただ、何事もなく〝ヒナタ〟をやり遂げて、今日を最後に俺には重すぎた肩の荷を下ろす。

 一言物申したかった気持ちは、緊張しながらもステージから見た景観に圧倒されて薄らいでいた。

 こんなに綺麗で、ドキドキに満ち溢れていて、興奮と幸せが集まった場所は他には無いんだよ。

 俺なんかにはまだまだ相応しくない居場所なのかもしれないけど、それを奪われたくないと強く思った気持ちだけは誇れる。

 悪意と嫉妬なんかに囚われてちゃもったいないよ。




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