狂愛サイリューム

須藤慎弥

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37・星の終幕

37★3

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★ 恭也 ★



〝恭也とならがんばれる気がするんだ〟


 右に左に揺れる赤と青の光を見つめていると、頭の中で葉璃の顔が浮かんだ。

 それはどこか困ったような、何かのタイミングで泣き出してしまいそうな、ひどく不安そうな表情だった。


〝恭也とだから、がんばろうと思えたんだよ〟


 そう言ってはにかむ葉璃と一歩を踏み出すと、瞬く間に現状は変わっていった。

 根暗仲間な俺たちにはあまりにも不相応な世界で、事務所が望むような結果にならなかったらどうしようって恐怖しかなかった。

 でも俺も、葉璃とだから、想像もしてなかった世界に飛び込む勇気が持てた。何があっても頑張ろうと思えた。

 葉璃に出来ない事は、俺がやればいい。

 逆もそうだ。

 俺たちは補い合って初めて、ETOILEの看板を背負える。


〝恭也が居なかったら、俺はがんばれない〟


 俺だってそうだよ。

 葉璃がこの世界を辞める時、俺の引退も決まる。

 日々見聞きするファンの人達を思うとほんの少し未練は残るけれど、俺ひとりじゃとても頑張れない。

 葉璃が居なきゃ、どんなに頑張ってもETOILEは成立しない。

 「あなたが何を考えているか分からない」と親にまで言わしめるほど無口で根暗な俺に、似た者同士だと言ってそばに置いてくれた葉璃を、失いたくない。

 がんばれないと葉璃が言うなら、俺がその何倍も努力するから、出来るだけ……出来るだけ長く同じ景色を見てようよ。


〝恭也は大切な親友で、大好きな人なんだよ〟


 俺が抱くにはおこがましい嫉妬心をぶつけた時、葉璃は何の違和感も無く受け止めて、やわらかく微笑んでくれた。

 そしてこんなに嬉しいことを言ってくれた。

 俺も大好き。大好きだよ、葉璃。

 ネガティブで卑屈で、そのわりには他人への慈悲が深い性格も、理不尽なことが許せなくて時々ブチ切れて爆発しちゃうところも、心を開くと無自覚でたっぷり甘えてくる愛らしいところも、全部。

 葉璃のすべてが、大好き。

 俺の行き過ぎた友情を受け止めてくれる葉璃が居るから、慣れない日々の仕事も苦無く打ち込めるんだよ。

 だから俺は、今この時も変わらず頑張れる。

 葉璃と出会った頃に毎日聴いていた思い出の曲を、まさかひとりで、この場所で歌うなんて、気を失っちゃいそうなほど緊張してるよ。

 間奏から大サビにかけて、熱が入った俺はスタンドマイクに手を添えた。

 生意気だと思われないかな……そんな事を考えてられたのはBメロくらいまで。

 あとはひたすら、辺り一面に広がった揺らめく二色の光を見ていた。

 病院に向かっている葉璃が車中で観ているかもしれない事を照れくさく思いながら、精一杯、俺の気持ちを歌に乗せる。

 これが、俺に与えられたETOILEを守る術。

 セナさんの粋な計らいで、まるで病欠の葉璃をいたわるかのような温かな空間に、歌唱中ずっと俺の心は震えていた。

 大サビのラストを全力で歌い上げると、視界が滲んだ。葉璃とのこれまでを思い返し、目の前の綺麗な光景に胸を打たれ、こみ上げてくるものがあった。

 スタンドマイクに添えていた両手をじわりと下ろし、瞑りかけた瞳を開く。

 〝絆〟のアウトロはやや長め。

 葉璃はきっとこの優しい旋律と優しい会場を観ていると期待して、寄ってきたカメラではなく遠くを見つめたまま、俺は……。


「──葉璃が居ないと、右隣が寂しいよ。早く治して、戻っておいで」


 マイク越しに、葉璃へ語り掛けていた。

 すると、熱狂するような曲調でもないのに、アウトロが終わるなり会場が黄色い悲鳴に包まれる。

 さながらドラマのワンシーンみたいで気障だったかな、と気付いた時にはもう遅かった。


『──恭也さんの思い、届くといいですね。ハルさん、一日も早いご快復をお祈り申し上げます。……さて、このあとは遠藤ミホさんの登場ですが、その前に一旦CMで~す!』


 ……サラッと流してくれればいいものを、一言そう付け加えた司会者の言葉によって、俺と葉璃のカップル疑惑がさらに信憑性を増してしまった。

 ETOILEの人気の理由は、俺たちの近すぎる距離感で新たな層のファンを掴んだ事も大きい。

 歌番組でも、バラエティーでも、二人セットの雑誌の撮影時でも、それを求められる前から俺と葉璃はイチャついてるように見えていると思う。

 なんたって葉璃が俺から離れない。

 背中に隠れて俺の腕をギュッと掴んで、俺にしか聞こえない声で話しかけてくるから、その尊い声を聞き逃すまいと俺は屈むことになる。

 意図してなくても〝親密な二人〟の完成だ。


「ありがとうございました!!」


 袖へ捌ける間際、両手を上げて客席に手を振り、地声を張った。

 葉璃の居場所を守る──そう言ったセナさんの言葉通り、俺が捌けてしまう直前まで赤と青のサイリュームは美しいままだった。


「お疲れ、恭也。一発本番なんて無茶言って悪かったな」
「いえ。……出番をなくさないでくれて、ありがとうございました」


 舞台袖で待っていてくれたセナさんに労われ、俺はその場で頭を下げる。

 明らかな華の違いに打ちひしがれるかと思いきや、俺をリードしてくれたセナさんとのsilentはすごく新鮮で、楽しかった。

 意味のある思い出の曲を、フルで歌わせてもらえた事に深く感謝した。

 葉璃の居場所を守ると同時に、俺にETOILEを守らせてくれたセナさんの土壇場での良案。

 セナさんじゃなきゃ、他の誰も考えもつかなかったはずだ。


「恭也」
「……っ?」


 ありがとうございました、ともう一度お礼を言うと、ふいに肩を抱かれて戸惑った。

 頭を上げると、セナさんはなんとこんな場所でスマホを構えていた。内カメラで調整している画面に、軍服姿の二人が映る。


「セナさん、何を……」
「恭也、敬礼して」
「えっ?」
「ほらほら早く。敬礼だ、敬礼。いくぞ、三、ニ、一、……」


 ──ピロリン♪


 何が何だか分からないまま見様見真似の敬礼をすると、ニヤリと笑ったセナさんも同じポーズで、軽快な音のシャッターが切られた。

 舞台袖で自撮り……?

 俺いますごく、感極まっていたんだけどな……。


「よし、葉璃に送っといた」
「葉璃に?」
「そ。俺らイケてただろ? って」
「…………」


 ……あぁ……。セナさんらしいな。

 ごめんなさい、が得意な葉璃の罪悪感を、ことごとく消し去ろうとしてるんだ。

 でもこれは、セナさんの素である可能性もある。

 コスプレ好きな葉璃へ、「俺カッコイイだろ? この衣装持って帰るから、風邪が治ったら分かってるよな?」……なんて裏の意味を含ませていたりして。

 まぁ、葉璃がセナさんの術中にハマってしまっても、それはステージへの執念と同じくらい当たり前の事で、葉璃にとっての生きがいでもあるんだろうから……。

 俺はこれまで通りフェイクの恋人に甘んじて、本物の二人をそっと見守るとしようか。





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