狂愛サイリューム

須藤慎弥

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37・星の終幕

37♣16

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♣ ルイ ♣



 セナさん達が出て行ったすぐ後、成田さんと林さんがLilyの女の子ら全員をどこかへ連れて行きはった。

 この時間やしそろそろ帰さなヤバイと思てんやろな。

 俺はここに来てからずっと気になってた事があって、それをどうしても聞かなおられんで勝手に残ってる。

 セナさんが「あとはよろしく」言うてたけど、賢そうな顧問弁護士も社長も、スーツの三人のオッサンも、誰一人動かんと黙ったまんま。

 みんな特に話が無いなら、俺の疑問を解消させてもらうで。


「おっちゃんは……梅田社長はどないしてん」


 名指しすると、オッサン連中はハッとして俺を見た。

 まるで無関係そうな俺から、SHDエンターテイメントの代表取締役の名前が出るとは思わんかったんやろな。


「おたくらがそんな偉なったの、ここ最近ちゃう?」
「……なんだね、君は」
「無礼な」
「ルイ、……わきまえんか」
「あぁ……これは失礼。すんませんでした」


 あかん。いつもの調子で喋ってしもてた。

 社長の顔を立てて、憤慨したツラのオッサンらにわざとらしく頭を下げる。

 聞きたい事がまだ聞けてへんからな。

 ズイッと前に出て、よくよくオッサンらを眺め回しても俺にはまったく面識の無いヤツらばっか。

 スナックに遊びに来てた、俺もよう知っとるSHDの幹部が総入れ替えしとる。

 これはどういう事やねん。


「あのぉ、梅田のおっちゃんはどないしてんのかなーという質問に答えてくれんですか」
「……梅田社長なら、六月より病床に付している」
「なんやと!? それほんまか、社長?」


 そんなん全然知らんやったぞ!

 ばあちゃんがスナック開けとったギリギリまで、毎晩のように来てはった梅田のおっちゃん。

 自分も昔俳優やっとって、育てる側に回りたい言うてSHDエンターテイメントを創った社長さんや。

 大塚社長同様、俺を可愛がってくれてた気のいいおっちゃんが……。

 信じられん思いで社長を見ると、「あぁ」と頷かれてショックを受けた俺は、頭を抱えた。


「私もつい先日知ったのだ。いつ事務所に問い合わせてもこの者らが応対するのでおかしいと思ってな。問い質すとようやく……」
「公表してない、いう事はヤバイんか」
「おそらくな」
「…………」


 次から次に……逝ってほしくない人らが倒れてく。人の命ってのはマジでいつどうなるか分からんのやな……。

 大塚社長と梅田社長の関係は良好やった。

 ハルポンの妙ちくりんな任務も、てっきり俺は梅田社長からの頼みやから断れんかったんやろと思てた。

 でもこの様子やと、梅田社長はこの件に関与してへん。それどころか……。


「それでは私はこれで失礼する」


 席を立った社長が、弁護士と目配せして俺の背中を押した。

 ここでなんや言い争ったって時間の無駄。

 そう思たに違いない社長は、別室に控えさせとった大塚の社員を新たに二名会議室に招集して、自分は退散した。

 昨日から車で来てた俺に身一つの社長から「送ってくれないか」と言われ、もちろんやと答えた。


「──なんで梅田のおっちゃんがおってそんな事になるねんと思てたんやが、全部の辻褄が合うたわ」
「……ルイは梅田社長と親しかったからな」
「そやねん。子役辞めた後の俺をしつこくスカウトしてきよったし。おっちゃんは社長と並ぶ頑固ジジイやったんやが気前が良くてな……。ヤバイんか……そうか……」
「梅田社長が入院したのは、ルイのばあさんが病床に付して間もなくだったそうだ。ルイの耳に入らなかったのも当然だろう」
「…………」


 溶けかけの雪道を慎重に走っとると、シャリシャリいう音がして新鮮やった。

 世間に公表してない、親しかった大塚社長も知らんかった、……梅田のおっちゃんもばあちゃんと同じくらい見栄っ張りのようや。

 見舞いに行こうにも煙たがられるかもしらんな。どんな状態かも分からんし。

 梅田のおっちゃんが居らんとなると、あんな:狡(こす)い経営する幹部じゃどうあがいてもSHDを立て直せるわけない。


「SHDエンターテイメントは終わりやな」
「……あれでは、こちらが動かずとも内部告発されるのは時間の問題だ」
「そうやろなぁ。セナさんはLilyを放ったらかしにはせんらしいけど? 社長も同意見なんか?」
「いいや、あれはセナの独断だ。私の考えではない」
「ぶはっ……! セナさんの独断専行かいな」
「うむ……」


 せやけど異論はナシって顔やな。

 いつもの癖で後部座席に乗ってはる社長をバックミラー越しに窺うと、そこまで難しい表情はしてなかった。


「……しかし、問題行動の多かったLilyは眼中に無かったのだが、万が一SHDエンターテイメントが機能しなくなった時……役者部門の者達を受け入れるつもりではいた。あそこの役者は皆粒揃いだ」
「そうなんや」
「うむ。タレントもレッスン生らも、むしろその方が良いだろうがな。梅田社長の跡を継ぐ者が居なければ、新たに選択肢が広がるのだから。うちに所属するもしないも自由、という事だ」
「せやな。……しっかし、あの詐欺まがいなレッスン料にはビビッたな。あんな運営続けてたら、マジでいつか訴えられるで。どないするつもりやったんやろ」
「浅はかなんだよ。まったく……経営とタレントを馬鹿にしている」
「ハルポンの任務の事もそうやん。そもそもあっちから言い出してきてんやろ? それやのに逆に脅してきよるとは」
「あぁ……。だが私も内心ではヒヤヒヤしていた」
「なんでよ。セナさんの言うてた事がすべてやん。ハルポンの評判も事務所も下がるような働きしてないで。「マジで!?」とはなるやろうけど、ETOILEが今後もっと注目されるんは間違いないな」


 俺も、堂々とハルポンを持ち上げてたセナさんの言葉には激しく共感した。

 ヒナタちゃんがハルポンやった──その事実をなかなか受け止められん俺がそうなんやから、そら世間をあっと驚かせるやろ。

 けどな、あそこまで他人になりきって、この短期間でLilyに溶け込んだヒナタちゃんの力量は、ファンと業界には衝撃もんや。

 もちろん、良い意味で。


「セナは少々盲目な節があると案じておったが、ハルのステージへの熱意を見せられた後では、セナの発言に私も納得せざるを得なかった」


 ゴホンッと咳払いした社長が、また俺に心中を吐露した。

 なんや晴れ晴れとした顔付きで、ほんの少し嬉しそうに目尻が下がっとる。


「へぇ、ハルポンはそんなに休みたないって言うてたんや?」
「あぁ。ルイも聞いただろう? セナが厳しい言葉で止めなければ、ハルはあのままステージに上がっていた。本当にギリギリまで、セナ相手に出演させろと駄々をこねていたよ」
「そうかぁ……」


 社長、ハルポンの意気込みを知れて嬉しかったんか。

 セナさんが特別甘いんとちゃう。ハルポンがそうさせてるって気付いたんかもしれん。

 それからしばらく車内は無言になった。

 ハルポンとの出会いから今までを振り返った俺も、感慨深くなる。

 セナさんと喧嘩してもうて、なんとか仲直りしたくて今日まで立ち回った社長も、意味深に目を瞑ってはった。


「──いつまでも報道規制をかけていると怪しまれるからな。頃合いを見て公表するのも良い考えかもしれん」


 後部座席で黙りこくってたかと思えば、何を言い出すやら。

 ヒナタちゃんの件は、あえてこっちから公表するもんでもないやろ。

 迂闊にSHDの思惑に乗って、芋づる式にセナさんのゴシップ写真ばら撒かれたらどないするん……と浮かんだ線が、ふいに繋がる。


「まさか……あのゴシップ写真と絡める気とちゃうやろな」
「さぁ。私のゴーサインはセナ次第だ」


 うーわ、マジかいな。

 一つの事務所を潰しにかかる算段をつけた社長は、ほんまにセナさんからの信頼を取り戻したい一心なんやろな。
 
 それにしては、ちょっとばかし重荷を背負わせ過ぎやないか?

 金髪美女とのゴシップ写真二枚のうち、一枚はアイかその仲間が撮ったもので、もう一枚はどこぞのパパラッチが撮ったやつやった。

 報道規制を解除したら、遅かれ早かれ情報が回ってまう。せやけどセナさんは金髪美女との交際を断固否定するやろ。

 その時初めて、それに紛れてヒナタちゃんの事を公表すれば、報道規制をかけた大塚の意図は〝CROWN・セナの恋人発覚を恐れたため〟やなく、〝大塚芸能事務所とSHDエンターテイメントの契約が世間に広まらないようにするため〟にすり替わる。

 そうなったら、図らずもハルポン(ヒナタちゃん)がセナさんのゴシップを打ち消す役割を果たす……いう事や。


「スゴ……。よう出来た話やな。これ、台本か何か組んでた話か?」
「まさか。セナとハルが主役のノンフィクションだ」
「ドキュメンタリー超大作やん」
「……そこへルイが加わらないといいが」
「はい~? 俺~?」


 なんで俺がその超大作に加わるねん。

 ぽっと出の俺なんか、通行人Aとかその程度のちょい役がええとこやろ。

 冗談は休み休み言いや、社長。






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