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37・星の終幕
37♡18
しおりを挟む聖南が髪を乾かしに行ってる間、なんとか気持ちを落ち着かせようと何回も深呼吸した。
屈託のない笑顔と俺を揶揄う声はいつもの聖南に違いないのに、冷静さを失うほどドキドキするのはおかしい。
ファン目線になっちゃうからにしても、どうしてずっと聖南を目で追ってしまうんだろ。
やっぱ家のドライヤーが最強だよな、なんて言いながら半裸の聖南が戻ってくる。「ですね」と返事した俺の声は、足音にかき消されるほど小さかった。
「お出迎えテンション、落ち着いた?」
「…………っっ」
バ、バレてる……! 俺の頭の中、聖南にぜんぶ覗かれてるの……!?
深呼吸して落ち着こうとした事まで当てられて、緊張と動揺でおかしい俺は瞬きを忘れた。
「眼鏡かけてねぇのに、葉璃の瞳にハートマーク浮き出てるけど?」
「うっ……!」
「今さら俺に緊張するって何? かわい過ぎな?」
「うぅ……っ!」
サラサラになった髪をかき上げながら、聖南はさっきと同じ場所……俺の右手側に置かれた固い椅子に腰掛けた。
そして当然のように手を握られる。
体温が高い聖南は、手のひらもいつも温かい。おまけに大きくて男らしくて、それなのにゴツゴツしてない綺麗な掌。
背丈に見合った、ちんちくりんな俺の手とは全然違う。にぎにぎしてくる指も長いし、爪の形まで美しい。
非の打ち所がない人間って、実在するんだ。
もの言いたげにジッと見詰めるだけで相手をクラクラさせる特殊能力を持った聖南にだけは、ハートマークになった俺の瞳を揶揄われたくない。
俺は悪くないもん。
聖南がかっこよすぎるからいけないんだもん。
視線に捕まって逃げられない俺は、足掻くように薄茶色の瞳を見つめ返した。
すると聖南が、ふいに目を逸らす。それから「負けた」と言ってクスクス笑った。
「俺が最終兵器に勝てるわけないじゃん」
「それを言うなら聖南さんこそっ」
いつの間にか始まっていた見つめ合い対決は、俺の勝ちらしい。でもまったくもって嬉しくないよ。
聖南は出会った時から、俺の瞳を〝最終兵器〟だなんて超大袈裟に例えてくれる。すごくいい意味で使ってくれてるのも知ってる。
だけどね、俺に「最終兵器の破壊力自覚して」って言うなら、聖南にもその言葉をそっくりそのまま返したい。
恋人つなぎした手をにぎにぎされたあげく、こんなに綺麗な人からジーッと見つめられたら、風邪引いてなくても熱がどんどん上がっちゃうって。
「なぁ葉璃、覚えてる?」
「はいっ?」
いきなり真面目なトーンで喋りかけてくるから、声が裏返った。
だめだ……。俺、ほんとにおかしい。
佐々木さんと春香が帰っちゃっても寂しくなかったし、母さんが来れない状況だって知ってすぐに断ったのも、聖南がここに来てくれるかもしれないって期待してたからなのかな……。
そうだとしたら、俺はかなり身勝手だ。
「あの時と立場逆転してるよな」
「……あの時?」
首を傾げると、聖南はくるりと室内を見回した。
「ほら、俺が入院してた時だよ。俺もこの病室だったし」
「あっ……!」
「ま、俺の入院は褒められた理由じゃなかったけどな。葉璃とは違う」
「いや、そんなこと……っ」
「あの時の罰は受け続けてる。この傷を戒めにして、死ぬまで葉璃を愛すって意味に変換してるけどな。……勝手だろ、俺」
「…………」
薄くなった傷痕に視線を落とした聖南に、俺はかける言葉が見つからなかった。
まだそれを〝罰〟だと思ってた事が、なんだか切なくて。
あの時と同じ病室で、今俺が居るベッドに傷付いた聖南は居た。
意識が戻らないって事をニュースで知った俺は、アキラさんからの連絡ですぐに学校を早退して、制服のままここに飛んで来たんだっけ。
……懐かしいな。
まだ聖南のことを全然知らなくて、自分の気持ちもよく分かってなかったのに、我ながらものすごい行動力だったと思う。
聖南はあの頃から、〝好き〟と〝愛してる〟を惜しみなく言ってくれる。毎日俺に伝えなきゃ死んじゃうくらいの勢いで、愛情過多。
当時の一件やその他諸々の罰として、死ぬまで俺を愛す刑に処されてるのは初めて知ったけど、いいのか悪いのか……聖南を好きになってしまった俺もその罪が適用される気がする。
なぜなら、あの日のドキドキと今日のドキドキは種類が違うから。
聖南のことを好きになってもいいの? 本当に信じていい人なの? 俺のこと好きって……本心?
こんな疑問と不安だらけだったのが、今じゃ俺から〝期待〟するようになっちゃってるんだよ。
聖南の俺への気持ちが目に見えて大きく膨らんでるように、俺も聖南のことが毎日大好きで、大好きで、大好き。
「聖南、さん……」
「ん?」
呼ぶと、甘い笑顔が返ってくる。
ちょっと前の俺なら、罰だなんて言わないでほしいと思ってた。それが今では、同じ場所に傷痕があることを幸せだと思うようになってる。
……やっぱり、与えてくれる愛情に酔ってる俺も聖南と同罪だ。
今なら〝なんでギュッてしてくれないんですか〟とか〝なんでキスしてくれないんですか〟とか平気で言えてしまいそうな俺は、他でもない聖南に変えられた。
「え、あの……聖南さん、……?」
ふとリモコンを操作してリクライニングベッドを平らにした聖南は、いよいよ俺を寝かしつける気だ。
「またいつ熱が出るか分かんねぇんだから、夜ふかしは厳禁だろ」
「聖南さんも一緒に寝るんじゃ……」
「俺はソファで寝るからいい」
「え……っ?」
最初からそのつもりだったの……っ?
どうりで全然ベッドに上がってこないわけだ。
聖南のことだから、俺の体調を気遣って今日くらいはゆっくり寝なさいって言いたいんだろう。
そんなの、俺は納得しないけどね?
「アドレナリン出まくってたのを無理やり抑えてんだ。葉璃と一緒に寝たら俺がどうなるか……分かるよな?」
「わ、分かりますけど……っ」
「じゃあ早く目を閉じてくれ。その瞳はよくない。最終兵器で誘うな」
「…………」
そう言って優しく布団をかけられても、意地でも目は閉じなかった。
苦々しく笑った聖南に、不満たらたらな視線を送る。
だって……右隣が寂しい。
俺は、聖南に羽交い締めされたい。
首筋を嗅いで、俺が聖南のものだって確認してくれないと不安になる。
期待してた上に、この場所で思い出深いキスをした事まで蘇らせちゃった俺をこんなにドキドキさせてるのは誰?
困ったように見詰めてくる聖南は、さっきから俺に傷痕を曝け出してるよね。
──どっちが誘ってるっていうの。
「葉璃ちゃん、なんか言いたそうだな」
聖南の苦笑が濃くなる。
俺は、聖南のせいで生意気になった。ワガママにもなった。
〝セナ〟の言うことは聞くけど、我慢してる〝聖南〟の言うことは聞きたくない。
「あの……俺、誘ってるつもりはなかったんですけど、誘えるんなら誘いたいって言ったら……聖南さんはどうしますか?」
「は?」
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