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38♡特大スキャンダル
38♡
しおりを挟む─葉璃─
大わらわだった年末が終わり、あっという間に年が明けた。
俺は退院してからもずっとベッドの住人で、世間で言う年始の休みが終わるまで自宅待機を命じられている。
誰にって……異常なくらい過保護なアノ人に。
でも、大人しく言うことを聞いてるように見せかけて、俺は毎日ぐるぐるしていた。
寝室に新たに設置されたテレビで、聖南が生放送で出演している年末特番を観るだけの生活は、寂しいのと歯痒いのとでおかしくなりそうだった。
何たって俺のせいで……ETOILEは、クリスマス特番以降の年末特番出演が軒並みキャンセルになった。
理由は〝ハルの体調不良〟。
恭也にはもちろん、突然の出演キャンセルで番組側にも不義理をしてしまった。
でもこれは俺の意思じゃなくて、聖南と社長さんの独断。この二大勢力相手じゃ俺みたいなのが一人抗ったところで、何にもならなかった。
俺がどれだけ「もう大丈夫ですよ」って言い張っても、心配性な聖南は全然取り合ってくれなくて。
結局、年末恒例の事務所のパーティーにも今年は参加させてもらえなかった。
会場に顔だけ出してすぐに帰ってきた聖南と、お家でのんびり過ごせたのは良かったけど……例のリテイクでアレルギーを発症した聖南は、多忙も相まってあんまり元気が無い。
だから俺は、強く言えなかった。
仕事だからって聖南が気を張ってるのを、俺は知ってたから。
今は支えてあげることに集中しないとって思わされるほど、聖南は疲労困憊している。
「葉璃ー」
あ、聖南が帰って来た。
俺はいそいそとベッドから下りて、とてとてと聖南を迎えに行く。
「聖南さん、おかえりなさ……うわっ」
「葉璃ちゃんただいまー。充電させてー」
ベッドルームを開けた瞬間、目の前にいた聖南から抱き上げられて……米俵にされた。そのまま洗面台に俺を拉致した聖南は、左肩に人間を乗っけた状態で器用に手を洗い始める。
うーん……担ぐ必要あったかな。うがいまでしてるけど、聖南やりにくそうだよ。
「……聖南さん、お疲れさまです」
「ん~」
落ちないようにしがみついてるのがやっとな俺は、「今日はさすがに疲れた」とぼやいた聖南の頭を、体を捻って撫でてあげることしかできない。
聖南の愛情表現は特殊だし、米俵に何の意味があるのかとか深く考えちゃいけないんだ。
聞いたところで、きっと「葉璃とくっついてたいから」と何食わぬ顔で当然のように返してくる。
「あ、聖南さんっ、コーヒー淹れましょうか」
「んや、自分で淹れるからいいよ」
「……そうですか」
リビングに移動した聖南に、いつ帰ってきてもいいように保温状態にしてたケトルを指差して見せたんだけど、俺を下ろすつもりはないみたいで聖南は自分でコーヒーを淹れてしまった。
そして今度は、書斎に移動する。両手に熱々のマグカップを持って、右肩に俺を乗せた聖南は帰ってきて早々仕事をするらしい。
ちなみにマグカップの一つは聖南のブラックコーヒーで、もう一つは手際よく作ってくれた俺専用の甘いコーヒーだ。
「聖南さん、俺邪魔じゃないですか?」
パソコンの電源を入れたり、モニターの位置調整をしてる間もずっと俺を担いだままだから、いよいよ鬱陶しいんじゃなかと思って聞いてみる。
「…………」
「えっ……」
直後、ピタッと動きを止めた聖南と、ものすごく近いところで目が合う。
あ、これ……拗ねてる?
ジーッと俺を見つめる目が、お家だけでしか見ない甘えたものになってるよ。
今にも〝葉璃は俺とくっついてたくないの〟って言いそうだ。
「なに、葉璃は俺とくっついてたくないの? まだ充電できてないんだけど」
「ぷふっ……!」
やっぱり言った……!
予想通りの発言に、俺はつい吹き出してしまう。……と、聖南はもっと膨れっ面になった。
「なんで笑うの」
「いや……聖南さんが聖南さんだったので、……かわいくてつい……」
「かわいーのは俺じゃない。葉璃ちゃんだろ」
何言ってんの、と唇を尖らせる聖南に、俺は笑いながら下ろしてくれるようお願いした。
くっついてたくないわけじゃなくて、米俵にされてるとお腹が苦しくなるってこともちゃんと伝えると、……。
「仕方ねぇな。じゃあぎゅーして、葉璃。朝あんま充電できてねぇから今日の仕事しんどかった」
肘付きの回転椅子にドカッと腰掛けた聖南が、言いながらもすでに両腕を広げて待ち構えている。
こんなのは日常茶飯事だから俺も慣れたもんで、聖南の膝にピョンと飛び乗った。恥ずかしがってグズグズしてた方が〝恥ずかしい〟ことになるって、俺はもう知ってるし。
「そうですか……どうやって乗り切ったんですか?」
「葉璃の画像と動画で何とか」
そっか……一月二日の今日は、再来週放送の歌番組とバラエティ番組の収録をはしごするって言ってたもんなぁ。
お正月特番は長丁場が基本で、待機時間……つまり拘束時間も長い。
今年はレイチェルさんのリテイク作業があるからって、年末年始のお休みが一日も無かった聖南にはツラい現場だったんだ……って、ちょっと待って。
聖南いま、何で乗り切ったって言った?
「ちょっ……聖南さん! 俺の画像とかまだ保存してたんですか!? 消してくださいよっ」
「なんで。ヤダよ。消すどころか毎日増えてんだから、いたちごっこになるだけじゃん」
「毎日!? ……あっ、その言い方……! 聖南さん、まだ俺のこと盗み撮りしてるんですねっ!?」
「堂々と撮ってるから盗み撮りではねぇかな」
「俺が撮られてるのに気付いてないのは盗み撮りって言うんですよ!!」
「堅いこと言うなって。それがあったから今日乗り切れたんだし。てかいつもそれで元気もらってるし」
「~~っ、もう!」
そんなにキュンキュンのセリフを、こんなに綺麗な笑顔付きで言われちゃうと、聖南に恋してる俺は何も言い返せない。
おまけに膝に乗った俺をギュッと抱きしめて、とんでもなくいい声で「充電完了」なんて囁かれたら……俺にはもう打つ手がないよ。
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