狂愛サイリューム

須藤慎弥

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40♡恋路

40♡4

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 バラエティー番組の収録は、内容に限らずほとんどが楽しい時間。

 美術さんや大道具さんが頑張って組み立てて造っている凝ったセット。細かな気遣い溢れる小道具さんやADさん。番組によって台数や位置がまるで違うカメラも、それを操るカメラマンさんやアシスタントさんが居なきゃ、まず番組収録に至れない。

 場を仕切るディレクターさんやプロデューサーさんは大体ピリついてるけど、収録自体は一時間以上経ったとは思えないくらい、俺にとっっても楽しい空間だと思えるようになった。

 相変わらずうまく喋れないし、恭也がいないと不安でたまんないから、楽しいって気持ちが必ずしも結果として表れてるかと言えばそうでもないんだけど。

 仕事復帰して一週間、休み無く働いてた俺はたった七日間で緊張と疲労がピークだった。

 そして分かった。

 聖南のことを少しでも疑った俺は、最低だったなって。


「うぅ……」
「どしたの、葉璃」


 お風呂上がり、真っ先にベッドで横になった俺は、あとから布団に潜り込んできた聖南にぎゅっと抱きついた。

 さっそく俺を抱き枕にしようとした聖南を見上げると、その枕に動きを封じられてるのに何だか嬉しそうだ。

 俺より長い時間仕事してるはずの聖南は、毎日数件の仕事をこなすことくらい余裕なんだろうな。

 俺は、聖南の車で帰ってきてそのままお風呂に直行したけど、聖南はついさっきまで書斎で仕事をしていた。

 今年の終わりか来年の頭にはCROWNのツアーをしたいからって。

 〝企画から練るのが俺の仕事だから〟って、明日も早いのに睡眠時間を削ってる。


「ごめんなさい、聖南さん……」
「うん、何? なんのごめんなさい? 葉璃から謝られるとヒヤッとするんだけど」
「いえ……ホントにそう思ったんです……ごめんなさいって……」


 年末、聖南はきっとこんな俺なんか目じゃないほど忙しかったと思うんだ。だってあの聖南が、ホントに〝おやすみ三秒〟だったんだよ。

 俺と聖南を比べるもんじゃないのは重々承知だけど、疲労感が分かりにくい聖南の困憊具合がちょっと異常だった。

 十日間も禁欲させてたっていうのは間違いで、あの、あの、あの聖南が、疲れきってそういう気が起きなかっただけだと今の俺なら分かる。

 いきなり聖南に抱きついて謝る俺を、聖南は
「なになに?」ってすごく訝しんでるけど……大きな手のひらで頭を撫でてくれた。

 心の中で、聖南とレイチェルさんの関係を少しでも疑った自分が恥ずかしい。

 あの聖南の状態だったら、〝話したつもり〟になってもしょうがないのに。


「ほんっとにごめんなさい、聖南さん……」
「いや……葉璃から甘えてくんのめちゃくちゃかわいーし鼻血もんなんだけどな、マジでなんのごめんなさいか分かんねぇから怖え」


 ……苦笑いまでかっこいいなんてずるい。

 俺が何の説明もなく聖南に抱きついちゃってるから、普段あんまり自分からこういうことをしないせいでものすごく怪しまれてる。

 実は疑ってました、なんて言いたくなかった。

 でも言わなきゃ聖南はモヤモヤしたままで、きっと寝かせてはもらえない。

 それに、横になると少し体力が回復した気がする俺は、まだまだだ。あの時の聖南の状態を思い出すと、申し訳なくなるくらいの仕事量でこんなにヘトヘトになるなんて。


「葉璃、俺に謝んなきゃいけないことしたの?」
「……しました」
「はっ!?」
「えっ……」


 ちゃんと言うぞ、と覚悟を決めて頷くと、俺を優しく撫でてくれていた聖南が飛び起きた。

 上体を起こしたことで布団が捲れ、そのうえおっかない顔になってる聖南の雰囲気で突然ひんやりとした空気が漂った。

 な、なに……?

 俺まだ何も言ってないのに……なんでこんなに怒った顔してるの……?


「せ、聖南さん……?」
「いつそんなヒマあった? ここ一週間、ってか来週の月曜までETOILEは休みナシって聞いてるけど」
「ヒマなんて無いです。だからごめんなさいって……」
「分かんねぇな。相手、誰?」
「え……?」


 相手……? なんの……?

 俺もそろりと上体を起こして、聖南と向かい合う。ギッと睨まれた俺は、よく分からないながらも聖南を見返した。

 聖南のこの顔と声は、ブチギレの一歩手前くらい。何がそうさせたのか、つまりものすごーーく怒ってるってことだけは分かる。

 働き詰めで疲労困憊だった聖南が、〝話したつもり〟になってたのは本当だったんだって、今頃になって納得がいった俺は謝りたかっただけなんだ。

 こんなにも愛情過多な恋人を疑うなんて、いくら俺が卑屈野郎だからって許されることじゃない、と思ったからで……。


「俺、言わなかった? 葉璃が俺に謝んなきゃいけないのは浮気した時だけだって」
「……あ、……」
「相手は? ソイツ殺してく……」
「ち、違います!!」


 〝相手〟って、〝いつそんなヒマあった?〟って、そういうことか……!

 ついにはベッドを下りようとまでした聖南を、慌てて引き留めて背中に抱きついた。

 すぐにそういう発想に至っちゃうのは、これは……どう考えても、寝ぼけて誤解を生む発言を色々しちゃった俺が悪い。

 俺が聖南に謝る理由はその一つだけだってことも、たしかに少し前に言われてたし。


「違うって?」


 抱きついた聖南が、近いところで振り返ってくる。

 ムスッとした顔が幼く見えて可愛くて、でも直視出来ないくらいの美形だからどんな表情をしていても綺麗で、こんな時に聖南に見惚れそうになった俺は慌てて首を振った。


「そ、そうです、違うんです! 俺浮気なんてしてないです!」
「葉璃ちゃん経験積みたいとか何とか言ってただろ。もう誰かと経験積んだんじゃねぇの」
「そうじゃないんです! 俺、それについても謝んなきゃと思ってたところで……っ」
「ほら、またじゃん。謝ること多すぎ」
「聖南さんっ」


 大きな声で反論する俺を見て、聖南はきっと自分の誤解に勘付いたはずなんだ。

 だって、プイッと俺から視線を逸らした聖南の横顔が、おっかないものじゃなくなった。

 〝ドキドキさせやがって。拗ねてやる。〟──こんな心の声が聞こえる。

 しょうがないけど、しょうがなくない。

 俺は自分の恋人を疑ってしまったことを、ちゃんと謝れてないんだもん。

 聖南に後ろから抱きつくなんて、ちょっとどころじゃなくかなり緊張してるけど、そんなこと言ってられない。


「違うんですよ、ホントに……! 俺はただ、疑ってしまったことを謝りたくて……!」
「……疑ってた? 何を?」
「レイチェルさんとのこと……」



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