503 / 632
46❤︎最善策
46❤︎9
しおりを挟む❤︎ ❤︎ ❤︎
「── ん、じゃあそういう事で。打ち合わせ日決まったらそれ優先してスケジュール組み直していいから。……あぁ、よろしく」
通話を終え「ふぅ」とひと息吐いた聖南は、眼鏡を装着するなり車を発進させた。
「密着取材のオファーを受ける」── その一言で、あからさまにホッとした様子の成田から「分かった、ありがとう」とお礼を言われた。
CROWNの三人ともが密着を嫌うせいで、毎年三回は局に断りを入れなくてはいけない成田も胃が痛かったのかもしれない。
今回、年齢=芸歴の聖南が芸能人生初の仕事を受けたわけだが、それをきっかけにアキラとケイタもどうかと便乗のような形でオファーがいってしまうのは目に見えている。
だが聖南は、自身が矢面に立つことで二人に無茶をさせないための言い分を、すでに考えていた。
今断るのは得策でない、と彼には珍しく語気強めだった成田の考えが手に取るように分かるので、ここは聖南が折れるべきなのだ。
「あ……もうこんな時間か」
車内に内蔵されているデジタル時計に目をやると、〝20:48〟と表示されている。
ついさっきまで、聖南はCROWNとETOILEがお世話になっているレコード会社に居た。リテイクによって延びた、レイチェルのデビューに関する話し合いが行われていたのだが、不自然なほど聖南の口数は少なかった。
言ってしまえば、葉璃と別居する羽目になったのは彼女が原因なのである。わだかまりがある以上、進んで発言しようという気にならなかったのが本音だ。
ただ、まさかあの葉璃が「プチ遠距離恋愛みたい」などとプラスに捉えてくれるとは夢にも思わなかった。
どうして自分達が犠牲にならなければ……と大きな不満を抱えていた聖南だが、他でもない葉璃のおかげで取り乱さずに済んでいる。
理解の早い葉璃ママも寛大で、非常にスムーズに最善策を進められる事になった。
ちなみに、葉璃が実家へと一時帰宅する理由として、葉璃ママには密着取材のみを話す事にした。二人で話し合った結果、母親に余計な心配をかけたくないという葉璃のたっての希望だ。
それは聖南も同感で、長丁場を覚悟した葉璃へ「レイチェルの件は密着取材の期間中に必ずカタをつける」と約束した。
常々、自身を〝卑屈ネガティブ野郎〟と卑下する葉璃が、あんなにもポジティブに別居を容認してくれたのだ。
聖南もその思いに応えなくてはいけないだろう。
だからといって、それが葉璃のすべて── 本心だとは思っていない。もしかすると、聖南にとってはとてつもなく恐ろしい案を隠している可能性もある。
不安でたまらなかった聖南は、心の奥底に殺しているかもしれないその本音を聞き出そうとした。
あれは話し合いの翌日、つまり昨日の夜の事だ。
『なぁ葉璃。……葉璃も俺と暮らせなくなんの寂しい?』
『え?』
〝セナ〟であれば絶対に見せない、まるで年上とは思えない不安気な表情で問うも、彼は凛と答えた。
『寂しいですよ。寂しいに決まってるじゃないですか』
『そ、そっか……そうだよな』
じゃあやめちまうか、と喉まで出かかった聖南だが、葉璃の瞳が爛々としていて言えなくなった。
『寂しいなら一緒に居ようよ』も、プチ遠距離恋愛に心を弾ませている葉璃には通用しなさそうだった。
何しろ彼は、いつでも出て行けるようにと昨夜のうちに身の回りの物をまとめてしまったのだ。
万が一に備えて、聖南の物である言い訳が難しい品はすべて段ボールに仕舞い、クローゼットの奥に隠すように置かれている。
『な、なぁ、いくら何でも気が早くねぇか? そんな急いで身支度しなくても……』
『でもオファーを受けたらすぐに取材開始だって言ってたじゃないですか。だったら、早い方がいいです。いつどこでレイチェルさんが見張ってるかも分かんないし。荷物はまとめちゃったんで、俺明日にでも出て行けますよ!』
『明日にでもって……葉璃ちゃーん……』
ふふんっ、と得意げな葉璃は、キビキビと動き回る姿が新鮮でとても可愛かった。
今までのように卑屈にならず、ネガティブな考えも鳴りを潜め、自分が何をすべきかを葉璃なりに考えて行動しているので、聖南は葉璃の後ろをついて回りながらも止められなかったのだ。
こんな事にならなければ、葉璃はずっと聖南のそばに居られたはずで、荷物をまとめさせるという面倒をかける事もなかった。
聖南は機敏に動く葉璃を捕まえ、背後からギュッとその身を抱く。すると、ぶつけようのない怒りが沸々と込み上げた。
〝愛し合ってる俺たちを引き裂きやがって〟と、今すぐにでもあの粘着質な箱入り娘を怒鳴りつけてやりたい気分だった。
しかし肝心の葉璃が、そうさせてくれない。
聖南の腕にそっと手を添えた葉璃は、穏やかで聞き心地の良い声で『聖南さん』と宥めるように呼んだ。
『お仕事が終わったら、何時になってもいいので電話してください。寝ちゃってたらごめんなさいだけど、出来るだけ……聖南さんの声を聞いてから眠りたいんです』
『……分かった』
『あと、忙しかったらしょうがないですけど、週に一回は会いたいです』
『うん。絶対会いに行く』
『あと、あと、今までみたいに時間が空いたらでいいので、メッセージくれると嬉しいです』
『当たり前だろ。今まで以上に送るから覚悟しとけ。「聖南さん、ちょっとウザいです」なんて言わせねぇからな?』
『あははっ、そんなこと言うわけないです』
遠慮を滲ませた控えめなお願い事に、聖南の心はキュンと甘くときめいた。
そこまで言うなら、聖南も寂しがってばかりはいられないと思った。
どれだけ聖南の体内に負の感情が渦巻こうと、愛おしい愛おしい恋人が一瞬にしてそれを払拭してしまった。
葉璃は、少しも不満を抱いていない。自分が離れる事で聖南を守れるならどれだけでも待つと言ってくれるほど、聖南の身を案じてくれている。
〝誰か〟に対する怒りを持つ事はおろか、聖南の前で悲しむ素振りも見せない。
そうする事で、聖南がもっと駄々をこねてしまうと葉璃は知っているのだ。
『……俺だって、実家に帰りますなんて言いたくなかったです。これを言う時は、聖南さんとお別れする時だなって勝手に思ってたんで』
『なっ……!? やめろよ! 冗談でもそんなこと言わないでくれ! お別れなんて物騒なこと言うな! 俺は絶対に葉璃とは別れねぇからな!』
『せ、聖南さん、落ち着いてください!』
真面目な顔で恐ろしい台詞を吐かれ、背筋が寒くなった聖南は葉璃の体を持ち上げんばかりにキツく抱き締めた。
── あれには肝が冷えたぜ。まったく……。
葉璃がぐるぐると思い悩む事無く、ひどく冷静でいてくれるのはありがたい。
とはいえそこまであっけらかんと振る舞われると、複雑な心境にもなるというものだ。
葉璃依存症の聖南は、もはやもう寂しい。
「でもま、……凹んでてもしょうがねぇよな」
具体的な日取りはこれからだが、おそらくこの一週間のうちに色々と物事は決まっていく。
すでに気持ちを切り替えている葉璃のために、聖南が成すべき事は一つなのだ。
4
あなたにおすすめの小説
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
灰の底で君に出会う
鮭茶漬け
BL
両親を亡くした高校生、神崎透は叔母の家に引き取られて暮らしている。しかしその家は、家族と呼べる場所ではなかった。家事、雑用、そしてバイト。どれだけ働いても感謝されることはなく、透は「穀潰し」と呼ばれながら日々を過ごしていた。
それでも透は思っている。ここに置いてもらえるだけでありがたい、と。
これは――居場所を持たなかった少年が、初めて愛を知るまでの物語。
氷の婚約者様に破談を申し出たら号泣された
楽矢
BL
目が覚めると、レースの牢獄のような天蓋付きベッドの上だった。
何も覚えていない出来損ない下級貴族ミラ。無能だクズだと冷酷な罵詈雑言を浴びせてくる氷の騎士セティアス。
記憶喪失から始まる、2人のファンタジー貴族ラブコメディ。
----------
※注)
かっこいい攻はいません。
タイトル通りそのうち号泣しますのでご注意!
貴族描写は緩い目で雰囲気だけお読みいただけると幸いです。
ハッピーエンドです。
激重感情をこじらせた攻→受な関係がお好きな同志の方、どうぞよろしくお願いします!
全16話 完結済み/現在毎日更新予定
他サイトにも同作品を投稿しています。
様子を見ながらそのうち統合するかもしれません。
初めての一次創作でまだよく分かっておらず、何かおかしなことをしでかしていたら申し訳ないです!
守り守られ
ほたる
BL
主治医 望月診療所の双子医師
患者 瀬咲朔
腸疾患・排泄障害・下肢不自由
看護師
ベテラン山添さん
準主人公 成海真幌 腸疾患・排泄障害・てんかん
木島 尚久 真幌の恋人同棲中
強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない
砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。
自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。
ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。
とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。
恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。
ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。
落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!?
最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。
12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる