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47♡日常
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聖南と離れて暮らすことになっても、日常は変わらない。レッスンや仕事に行って、夕方過ぎに帰って、ごはんを食べて、少し熱いお風呂に入って寝る。
隣に聖南が居ないだけで、一日のタイムスケジュールも過ごし方もほぼ一緒だ。
「聖南さんが居ない、だけ……」
それだけなんだけど。
たった一週間でホームシックにかかっている俺にとっては、〝だけ〟じゃない。
薄情だけど、実家から聖南の家に引っ越した時はこんなに寂しい気持ちにはならなかった。
仕事に慣れなくちゃならない時期で心にそんなゆとりが無かったっていうのもあるけど、一番は大き過ぎる聖南の存在のおかげ。
聖南はいつも、ホントに毎日毎日俺に気持ちを伝え続けてくれていた。
「葉璃ちゃん、好きだよ」を聞かなかった日は無い。「俺もです」と俯いて照れなかった日も。
朝も夜も俺が居たら鬱陶しいんじゃないか。俺と暮らしたら幻滅されるのも時間の問題かもしれない……なんて、無用な心配だった。むしろそんな事を考えてたと知られた日には、「俺のことが信じらんねぇの!?」と聖南はきっと激怒する。
聖南の愛情に溺れてたせいで、それがどんなに幸せなことだったかを忘れかけていた。
機械越しの聖南と短いやり取りを、〝足りない〟と思う日が来るなんて。
「会いたいなぁ……」
たった今、聖南との「おやすみ」通話が終わったところ。
ベッドに横になって分厚い毛布を二枚かけても、やっぱり足りない。簡単に身動ぎが出来るんだもん。
現場が重なれば会えると軽く考えてたのに、この時期は特番らしい特番も無くて全くと言っていいほどCROWNとETOILEの主演が被らない。
今週から少しずつ、俺と恭也はETOILEの新曲宣伝でいろんな局や撮影スタジオに出向く。歌番組の収録も、生放送の番組にも立て続けに出演予定だ。
でもそこに、聖南は居ない。
当たり前だけど、聖南はETOILEのプロデューサーであって、メンバーではないからだ。
この分だと、俺たちが会おうとしない限り会えない日数はどんどん増えていく。
別居の期間は、少なく見積もって三ヶ月。それなのに俺は、一ヶ月も保たずに音を上げてしまいそうだ。
「うぅ……っ」
少し眠そうな掠れた声が、鼓膜に残ってる。
『葉璃、おやすみ』
目を瞑ると、それが鮮明によみがえってきて寂しくてたまらない。
だけど俺は、「寂しい」とは言えなくて。
喋り方と相槌の打ち方で、あの聖南がめずらしく疲れてるように感じたんだ。
慣れない密着の取材が、きっと相当なストレスなんだと思う。
聖南は良くも悪くも、一人で生きてきた人。
協調性はあるしコミュニケーション能力に長けてもいるけど、他人に踏み込んでほしくない領域ってものがあって、明け透けに語ってるようで実はプライベートを一切匂わせないアイドルで有名だった。だから、恋人居ます宣言が必要以上に話題になっちゃったんだと、後に成田さんがこっそり教えてくれた。
過去のスキャンダルも仕事のうちだと言うような人が、一日中カメラを回されて平気なはずない。
ストレスで早々に弱ってしまいそうな聖南を、今こそ支えてあげたいのに……俺は何にも出来ない。
おまけに近々、レイチェルさんとも話すって言ってたし。
心配事が尽きないなかで、俺がわがままを言っちゃったら聖南を困らせるだけだ。
「会いたいです」は、今じゃない。
♡
memoryのツアーファイナルは、都内の三千人規模のホールで行われるらしい。
それを前々日に知った俺は、春香に内緒で何かサプライズで出来ないか、濡れた髪をワシワシ拭きながら一生懸命考えた。
右手にスマホを構えてブラウザを立ち上げてみたものの……検索バーになんて入力したらいいか分からず、数分画面を睨んで終了。
アイドルがアイドルに、しかもツアーのファイナルの贈るサプライズプレゼントだなんて、どう検索したって見つかりっこない。
そこで、その二時間後に聖南からかかってきた〝おやすみ通話〟の時、思いきって聞いてみた。
こういう時は、芸能界の先輩に尋ねてみるのが一番だと思ったんだ。
「── ってことなんですけど……」
『そっか。もうツアーファイナルなんだ。まだ終わったわけじゃねぇけど、memoryなら問題なく完走出来んだろ。おめでとうって言っといて』
「はい、伝えておきます。……で、聖南さん。何かいい案ありませんか?」
『んー……そうだなぁ』
約三ヶ月、全国を飛び回ったmemoryのみんなに、ささやかだけど俺も何かしてあげたかった。
聖南なら〝アイドルがアイドルに贈るサプライズ〟を提案してくれると思ったんだけど、意外にもスマホの向こうのトップアイドル様もしばらく悩んでいる様子だ。
何にも思いつかなかった俺がおかしいわけじゃなく、同業者に贈る何かが聖南もいまいちピンとこなかったみたい。
何分か悩んだ末に『あっ』と声を上げた聖南は、わざわざパソコンで調べてくれてたのかスマホ越しにマウスのクリック音が聞こえた。
『花贈ったら?』
「花、ですか? ……花束? えっ? 花束ですかっ? いや、俺そんな大それたことはちょっと……っ」
『プッ……! なに、葉璃ちゃん花束抱えてステージ上がろうとしてんの? 「ツアーファイナルおめでとうございます」っつって? それはちょっと事務所通してもらわねぇと』
「えーっ? だって聖南さんが花束って言うから……!」
『花束とは言ってねぇよ』
「えぇっ!?」
あれっ? 聖南、『花束贈ったら?』って言わなかったっ?
まさに聖南の言う通り、花束を持った俺がいきなりステージに現れて、memoryのファンからブーイングを食らう想像をしてゾッとしていただけに、それはどうやら違うみたいでホッとした。
『スタンド花っつーのかな。ほら、CROWNのライブん時、入り口から控室の廊下までぎっしり飾ってあったじゃん。でっけぇ花束みたいなやつ。あれだよ、あれ』
「あぁ……!! あれですねっ?」
『そう、あれ』
「あれかぁ……っ」
あれならサプライズプレゼントになるかも!
俺は、春香だけじゃなくスタッフさん達を含めたmemoryのみんなに何かを贈りたかったから、聖南の言うスタンド花はナイスアイデアだ!
よくあるもんね。名前付きで飾ってあるでっかい花束。
CROWNのライブの時もそうだけど、俺はもう一ヶ所、それを見たことがある。
聖南が入院していた病室だ。
聞いたことある有名なアーティストの名前入りで、あそこにあったのは生花と造花が入り混じっていた。
贈る側の気遣いが見えるという点では、こないだコンクレの社員さんから貰った可愛いドーム型の筒に入ったお花もそうだ。
ポジティブカラー……だっけ。
今それは、何の変哲もないどこにでもあるような勉強机の上に飾ってあるけど、そこにあるだけでホントにその一帯が明るくなるような気がする。
聖南がくれたキーホルダーだってそうだ。
貰って嬉しいもの。見るだけで、触れるだけでテンションが上がるもの。前向きになれるもの。贈った側も、贈られた側も、幸せな気持ちになるもの──。
贈り物は、そうでなくちゃ。
3
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