狂愛サイリューム

須藤慎弥

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47♡日常

47♡10

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♡ ♡ ♡



 CROWN・セナのプロデュースで俺と恭也がデビューして一年半。そのうち、音楽番組とバラエティー番組の出演は半々……もしかするとバラエティーの方が多いくらいだ。

 ETOILEは、完全に歌一本で売り出す方法もあったけど、俺と恭也のキャラ的にもっと多くの人に周知されるような番組に出て、息の長い〝アイドルタレント〟を目指した方がいいってことになったんだそうだ。

 事務所のスタッフさんと、主に聖南の意向でね。

 俺の裸以外は基本的にNGが無いETOILEは使いやすいのか、まんべんなくいろんな局の番組からオファーがくる。

 他にも、喋るのが苦手な俺にはモデル、上背もあって顔も声もいい恭也には演技、二人に合った仕事を林さんが厳選することができるほど、ありがたい事にそれ自体がたくさん舞い込んできている状態。

 コミュ障仲間だった恭也がどんどん苦手なことを克服してく隣で、俺は蟻んこの歩みでついてくだけなのに、どういうわけか仕事は絶えない。むしろ月が変わるごとにスケジュール表が黒くなっている。

 頭がパァになっちゃった年始ほどは忙しくないにしても、レッスンと仕事を両立しながらの毎日に〝聖南ロス〟は……俺のメンタル的にめちゃくちゃ痛い。


「葉璃、そろそろ本番、だよ」


 恭也にそう声を掛けられて、ハッとする。

 メイクも衣装も完成済みで、バラエティー番組の収録の待ち時間。気が付けば俺は、二十分も星形のキーホルダーと睨めっこをしていた。


「あ、あぁ……うん。分かった」


 わずかな合間にも、こうして聖南からの贈り物を眺める時間が増えた。

 落としちゃったら大変だからって大事にしまっておいたのに、最近は仕事中でも常に衣装のポケットに忍ばせていて、暇さえあれば手のひらに乗せて聖南に思いを馳せている。

 そんな俺を、恭也はあえてそっとしておいてくれるんだ。

 訳あって聖南と離れて暮らすことになった── と、恭也には実家に帰る前にもう伝えてある。

 それから一週間、十日と、だんだん無口になってく俺を恭也が心配しないはずもなく……。


「葉璃……。もう一週間、だっけ?」
「ううん、十日。……十日……」
「……そっか」


 恭也は、俺の様子にいよいよ放っておけなくなったみたいだ。

 奥二重の瞳が、すごく心配そうに俺を見てる。


「寂しいんだね?」
「え、う、……うん」
「そうだよね……」


 毎日顔を合わせる恭也に、本心は隠せない。

 それに、今さら強がる気も起きなかった。隣でずっと俺のことを見てる恭也には、たぶんどんな誤魔化しも通用しないもん。


「あ、葉璃。見て」


 ふと視線を逸らした恭也が、消音で付けっぱなしのテレビを指差した。それにつられて画面を観た俺も、「あ……」と小さく声を上げる。

 テレビでは、今居る局のお昼のワイドショーが放送中だった。

 恭也と俺が画面を食い入るように観ちゃったのは、memoryのツアーがファイナルを迎えた事と、その会場にCROWNと ETOILEの連名で花が届いた事が取り上げられていたからだ。


「こんなことがニュースになっちゃうんだ……」


 memoryのツアーファイナルは、昨日。

 一ヶ月前の予約じゃなきゃ受け付けてくれないスタンド花を、聖南はホントに一日で仕上げてもらって、無事に春香たちへのサプライズは成功したんだけど……まさかそれがこんなに大々的に取り上げられるなんて。

 さすが〝CROWN〟。どんなに小さなことでも芸能ニュースのトップを飾っちゃうんだ。


「memory、ツアー完走、したんだね。春香ちゃんたち、喜んでただろうなぁ」
「うん。昨日までホールの近くのホテルに泊まってて家には居なかったから、今日の夜はハイテンションで絡んでくるだろうなぁ、春香」
「ふふっ……。想像つくよ」
「……でしょ」
「それにしても、お花を贈ったこと、俺知らなかったな」
「あ、……! 勝手なことしちゃってごめんね。CROWNとETOILEの連名になってたの、あれ聖南さんの提案なんだ」


 急遽決まったことで、いくら聖南でも現実問題お花を手配出来るか分かんなかったから、恭也に報告するのを忘れてた。

 「ごめんね」ともう一度謝った俺に、恭也は「謝ることじゃないよ」と優しく返してくれる。頭ポンポン付きで。


「そういえば聖南さん、memoryにでっかい借りがあるんだって。恭也、なんのことだか分かる?」
「借り……?」
「そう。だからお祝いのお花奮発するって言ってた」
「確かに、豪華だったね。風船とかリボン、たくさん飾ってあって」
「うん」


 聖南が手配したお花はとんでもなく大きくて可愛くて、でもファンの人を出迎えるには派手すぎるような気がしなくもなかった。

 あれは〝でっかい借り〟のお返しらしいけど、俺にはそれが何なのか見当もつかない。

 だけど恭也には心当たりがあったみたいで、何秒か斜め上を見上げたあと、「もしかして……」と呟いて立ち上がった。


「セナさん、memoryに借りがあるって、言ってたんだよね? もしかして、一昨年のライブの時のこと……かも」
「……ん??」
「あの日のこと、葉璃にはあんまり、思い出させたくないんだけど……。俺たちのお披露目の日、CROWNのライブに……」
「あぁ……!」


 思い出した、あの時のことか……!


「そうだ! あのとき場を繋いでくれてたの、CROWNのダンサーさんとmemoryだったんだ!」
「そうだよ。佐々木さんが、手配して。ほんの三十分くらいで、みんな集まってくれて。一時間近く、CROWNのライブ、繋いでくれてた」
「そっか……そうだったね……」


 それについて聖南から顛末を聞いたのは、随分経ってのことだった。

 色々聞きたいことがあったはずなのに、俺がそれどころじゃなかったっていうか……。

 聖南が何気なく話してくれるまで、春香からもそんな話を聞かなかったからすっかり忘れちゃっていた。


「葉璃は、このこと、知ってたの?」
「ううん。ちゃんとは知らなかった。あの日、流れで聖南さんがうちの実家に泊まったんだよ。しかも朝ご飯まで作ってくれてさ。その衝撃でポーンっと色んなことが飛んじゃってた」
「ふふっ、そうなんだ。春香ちゃんも、何も言ってこなかったの?」
「そうそう、なんであの場に春香たちが居たのか聞こうと思ってたんだけど、俺が忘れちゃってたから話題にも上らなかったよ」
「そう……。あの時のこと、葉璃に思い出してほしくなくて、春香ちゃんなりに、気を遣ったのかもしれないね」
「うん……」


 俺が拉致されてしまって、ライブどころじゃないと聖南のひと声で危うく中止になりかけたステージの大きな穴を、別事務所の春香たちが急遽駆け付けて埋めてくれた……。

 この〝でっかい借り〟、聖南じゃなくて俺が返すべきじゃない……?

 佐々木さんにもmemoryにも、そのあとの俺への配慮まで含めたら、お花じゃ到底足りないくらいの借りがまだ残ってるよ。


「── ETOILEさーん! 前室にお願いしまーす!」
「…………っ!」
「ふふっ……」


 スタッフさんの強めのノックに、一際目立ってるスタンド花を凝視していた俺はビクビクッと肩を揺らして驚いた。

 それを見て、恭也が堪えきれずに吹き出す。ルイさんが居ない今日みたいな日は、毎回恒例の流れだ。


「はーい」
「……っ、はーい」


 息ピッタリに返事をした俺たちは、顔を見合わせて微笑み合った。


「じゃ、行こうか。今日も、俺の代わりに、たくさん回答ボタン、押してね?」
「うー……約束は出来ないけど、がんばる……」
「ふふっ。俺のために、がんばって」


 そ、そんなこと言われても……。

 毎回「がんばるぞ」って意気込みだけはあるんだけどなぁ……。いざ収録が始まると緊張で唇が震えちゃうんだもん……。

 一番苦手かもしれないクイズ番組で、前回俺は張り切って三回も回答ボタンを押した。

 一時間の番組内で、問題は五問。

 VTRの中に問題と正解があるから、しっかりモニターも見ておかなくちゃならない。回答が合ってようが間違ってようが、番組を盛り上げるために俺と恭也は常に積極的な姿勢で収録に臨んでる。

 だから、緊張してるだ何だと恭也の背中に隠れがちだった俺が、すすんで回答ボタンを押して声を発したことを恭也はものすごく喜んでくれて、「偉かったね」とたくさん褒めてくれた。

 そのがんばりを、今日も期待されてる。

 滅多に俺に発破をかけない恭也にしては珍しく、「俺のために」だって。

 ツアーを完走した春香に負けないくらい、聖南に会えない寂しさも忘れちゃうくらい、目の前の仕事を「がんばれ」って……恭也はそう言いたかったのかな……?







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