狂愛サイリューム

須藤慎弥

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48❤︎日常2

48❤︎3

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 聖南のドヤ顔に、これ以上ない根拠を示されたアキラは渋々とだが納得したように頷いた。


「そりゃ相当な賭けだぞ、セナ」
「あぁ、分かってる。でも今の俺と葉……じゃなくて、うさぎちゃんなら大丈夫だって信じてる」
「今頃うさぎちゃん使うなよ。……てか悪い。俺もうっかりしてて名前出しちまった」
「それだけうさぎちゃんの存在が馴染んでるってことだろ」


 苦笑を溢すアキラの気遣いに、聖南は自然と優しげな笑みを浮かべていた。

 何らかの機材が隠されていないかなど、ここへ入室したと同時にいつもの癖で確認済みだ。

 CROWNの三人はバラエティー番組への出演にも意欲的な方で、テレビ局の楽屋に超小型カメラが仕込まれていることが稀にある。

 視聴者側はどう感じているのかは分からないが、少なくとも聖南達が事前にそれを知らされている事はほぼ無い。

 知らぬ間に素の表情や会話を撮られ、様々な〝何か〟が起きて三者三様のリアクションを取る。デビュー間もない頃に数回そんな事を仕掛けられているうちに、三人はカメラの隠し場所を探し当てられるようになってしまった。

 聖南が葉璃と交際を始めてからは特に、アキラとケイタはその辺を徹底してくれている。

 「悪い」と言いつつ、ジャケットを脱ぐ動作の合間に視線がウロウロと動いていたアキラも、この場にその手の物が無いと分かっていたはずだ。

 聖南との会話をする声もいくらか小さめであった事も含め、飲み物全般を聖南から遠ざけたり等さりげない気遣いを感じる。


「二人とも遅れてごめーん! お疲れー!」


 そこへハツラツとやって来たのは、CROWNの末っ子だ。

 真剣にメールやハガキの選別をしていた二人の集中を途切れさせるほどの声量に、聖南とアキラは顔を上げた。


「お疲れ」
「お疲れ」


 本番の二十分前、ドラマの撮影終わりに大急ぎで駆けつけたらしいケイタは、駐車場から駆けてでも来たのか軽く息を切らせている。

 そんな彼に向かって、二人はローテンションに挨拶を返した。


「……って、また何か雰囲気重め? 俺出直した方がいい?」


 キリ良く会話が終わり、真剣モードに入っていたからそうなっただけで深い意味は無かったのだが、探りたがりなケイタにはそれが意味深に映ったようだ。

 主役の一人であるにも拘わらず、来て早々踵を返そうとする冗談に付き合う聖南とアキラは、世間のイメージ違わずノリが良い。


「出直すなよ」
「出直すな。ただでさえ遅刻なんだぞ、ケイタ」
「ごめんってばー! 撮影押したら遅れちゃうかもって、先週のうちから言ってたじゃん! 仕事なんだから遅刻はしょうがないでしょ!」


 二人から責められむくれたケイタだが、文句を言いながらも大急ぎで着席し、ノートパソコンを起動させた。

 集合時間に遅刻をしたからと、理由が明確である上に聖南も人のことは言えないので何とも思っていない。アキラもそうだ。

 ただバツの悪さを感じているケイタが本気で言い返してくるのが可笑しく、聖南とアキラは悪い顔で末っ子イジリを始めた。


「そんなムキになるなよ。どうしたケイタ」
「俺ら何も言ってねぇじゃん。なぁ、セナ?」
「あ、ドラマの役が入ったまんまここ来てんじゃね?」
「あぁそういう事か。でもケイタって憑依タイプじゃねぇよな?」
「憑依タイプ?」
「プライベートまで役を引っ張る役者、結構居るんだよな。俺も案外そっちタイプでさ」
「マジ? あーそういやアキラ、うんちく垂れまくる時もあれば逆に無口過ぎな時あるよな。あれ役を引きずってたの」
「そうそう、ダメなんだよ。セリフが頭に入ってるうちはどうしても役が抜けきれなくて……」
「ちょっとちょっと!? 俺のこと置き去りにして盛り上がらないで!?」


 突っかかるかと思いきや、その反対にそっちのけで会話をしていた二人に、ケイタは身を乗り出して不満を訴えた。

 開かれたノートパソコンが、中腰になった彼の腹部に押され斜めに浮いてしまっている。

 期待通りの反応に、聖南とアキラは悪い顔のまま同時にスッと右手を差し出した。


「まぁ座れよ」
「まぁ座れよ」
「素晴らしいシンクロですこと!」


 対面の二人から同じ動きをされ、台詞も完璧に揃えられたケイタはようやくイジられていた事を悟った。

 「まったくもう」と不服そうに顔を歪めてはいるが、〝怒〟の感情が少ない彼は切り替えも早い。

 パソコンを操作し、番組のホームページに届いた膨大な量のメールを次から次へと黙読していく。

 番組開始の五分前にブースへと移動するまで、三人は台本には目を通さず黙々と視聴者から届いた文面を追った。


「あっ、セナ。今日あの事話そうと思ってるんだけど、いい?」


 番組開始の三分前、それぞれの持ち場についた時ケイタがふとセナに声を掛けた。

 〝あの事〟に心辺りの多い聖南は、ミネラルウォーター片手に首を傾げる。


「あの事って?」
「memoryに贈った花のことだよ。まだまだ話題だからね。触れないわけにはいかないかなって」
「ん、別にいいよ。一昨年の礼だって公表しても構わねぇよな?」


 パソコンの画面に視線を移したケイタが、今まさにそれ関連の記事でも見ているのか肘をついて微笑んだ。

 聖南からお伺いを立てられたアキラは無表情で頷き、台本に視線を落とす。


「いいんじゃね? 翌日ニュースになってたし。隠しとくのもヘンだよな。嘘吐いてるわけじゃねぇからそこは堂々と言っとけ」
「俺もその方がいいと思うんだよね。SNS見てると、マジでいろんな憶測立てられてるんだよ」
「へぇ、どんな?」


 進行役の聖南も台本をパラパラと捲りながら、ケイタの言う憶測がどういったものなのか興味を示した。

 CROWNは誰一人としてSNSを活用していない。事務所がNGを出しているわけではないのだが、「そこに時間を割けないから」と三人は口を揃えている。

 SNSについては、あまりよくない憶測や噂が飛び交っている媒体だという認識の聖南は、自身はもちろん葉璃にも、その類はあまり見ないようにとアドバイスをしたほどである。

 普段から意識してそれに目を通さないため、どんな事が書かれているのか単純に知りたかった。


「memoryのメンバーの中にセナの彼女が居るんじゃないか、ってのが一番多い。あと面白かったのが、相澤プロと大塚の合併話。ほら、最近Lillyが相澤プロに移籍したじゃん? 文書で発表しただけだからそれについてもいろんな噂が立ってるんだよね」
「相澤プロと大塚が合併って。そんなことあるわけねぇだろ」
「ははっ、セナがmemoryに花贈って、なんでLillyの移籍のことまで話題に上がるんだろうな。想像力が豊かっつーか何つーか」
「あながち間違ってねぇとこが怖え。俺がSHDと相澤プロのパイプ役だっての、世間には言ってねぇのにな。推理力ハンパねぇじゃん」


 聖南の彼女がmemory内に居るというのも、キッパリと否定は出来るもののなかなかに惜しい推理だ。

 葉璃と春香をよく知る三人は、微妙に的を射ないが世間の憶測も意外と侮れないと笑い合った。

 本番二分前、ブースの外側が慌ただしくなる中、マイクに向かう内側の三人はそうして放送直前まで会話に花を咲かせた。




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