私は普通を諦めない

星野桜

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第一章

本当の始まり

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「お父さん、村のみなさん。殿下と婚約することになったので、私、この村を出ていきます。
今まで、本当にお世話になりました。」


 私とシーくんとルイス様の話し合いが終わり、みんなのもとに戻った私たちを迎えてくれたのは、村のみんなの不安そうな視線だった。
それはそうだ。私の返答次第で、これからのみんなの処遇が決まってしまうのだから。私がシーくんと婚約することを告げると、みんなほっとしたような顔をしていたけど、お父さんの表情は硬いままだ。


「……ルナ。すぐに出るのか?」


「うん。殿下がね、私を魔法学園に通わせてくれるっておっしゃったから、それもあってもう時間がないの。」


「そうか……」


「……殿下。私は、支度をしてまいります。殿下の貴重なお時間をとらせてしまい申し訳ありませんが、お待ちいただいてもよろしいでしょうか。」


「ええ、ゆっくりで大丈夫ですよ。ここで待っています。」


 そんな、私たちの会話を聞いて、さらにお父さんの表情が強張る。


「お父さん。一緒に行こう?」


「ああ……」


 そんなお父さんの手を引いて、私は家へ……お母さんの元へと向かった。














「ルナ……本当にいいのか?」


 荷物をまとめるといっても、元々物なんてほとんど持ってないから、数着の服だけを布に包んで風呂敷のように縛っている(これもスマ本の知恵)私の背中に、お父さんが遠慮がちに声をかけて来た。


「うん、大丈夫。自分で決めたことだから。」


「でも、あんなに結婚を嫌がっていたのに…!」


「……別に、結婚が嫌だったわけじゃないよ。ただ、私は好きな人と一緒になりたかっただけ。」


「殿下のことを、お慕いしているのか?」


「うーん……どうかな?」


「ルナ…お前は、」


「ん?」


「俺たちのことを気にして、したくもない、結婚をするのか!?」


 お父さんが声を荒げるのを初めて聞いた。驚いとて振り向くと、涙は出ていないのに泣きそうな顔をしていた。


「お前は、小さい頃からわがままを言わない、聞き分けの良い子だった。魔法具が原因とはいえ、俺たちの都合で山小屋に閉じ込められた時も、文句ひとつ言わずにただ従っていた。」


 ごめん、お父さん。わがまま言わなかったのは、精神年齢が成人してたからだし、ひとりでいる時は普通に文句もいってるから。
私、そんなに良い子じゃない。


「そんなお前が、唯一わがままを言ったのが、結婚のことだった。俺は、何度もトワと結婚してほしいといいながら、それを断るルナに、安心していたんだ。
あぁ、この子のわがままをやっと聞くことができたって……」


……年下の夫婦に衣食住全ての面倒をみてもらっているにも関わらず、出来ることといえば簡単な家事だけ。魔法具のせいで、街にも出られなくて、出稼ぎにも行けない。
私からしたら、そんな罪悪感MAXの状態だったけど、確かにまだ幼いこどもがわがままも言わずにただ大人しくしてたら、心配になるかもしれない。


「それなのに……すまない、ルナ。相手がトワならお前のわがままも聞き続けられたのに、相手が王太子殿下じゃ……俺は、何もできない。」


「大丈夫だよ。私は、望んで婚約者になるんだから。」


「……村から出たことがないルナは分からないかも知れないが、平民に対する貴族の態度は決して優しいものではない。王太子殿下のように接してくれる方は、稀なんだ。
そんな中に、お前を置いていくことが……お父さんは、」


 そう言ったきり、お父さんは俯いたまま黙ってしまった。
……お母さんの治療のことを知れば、さらにお父さんは自分を責めてしまうだろう。
私の中にも自分を売って何かを手に入れた、という感覚はあるけど、それをお父さんに気づかせてはいけないと思った。
 だって、誰かのためじゃなくて、私が私のために選んだ道だから。そのせいで、お父さんが自分を責めるようなことはあってはいけないと思った。


「お父さん、本当に大丈夫。私は、望んで殿下の元へ行くの。教育の機会までくださるんだから、ありがたいことよ。」


「しかし、」


「それにね……」


 王太子殿下が好きだから。それは今は嘘になってしまうから言えないけど、でも大丈夫だって安心してほしい。私がトワくんとの結婚を断固拒否してシーくんとの婚約を受け入れたのには、メリットがある以外にも理由がある。


「王太子殿下の顔と体、最高に好みなの!」


 申し訳ないけどトワくんは対象外だった。正直、シーくんがイケメンじゃなかったら同じ条件でも婚約はしなかった。


私は筋金入りの面食いだ!











「それじゃあみんな、お世話になりました!」


 まとめた荷物を持って、村のみんなに頭を下げる。みんなの顔からは、安心、羨望、罪悪感、心配……いろんな感情が読み取れる。
 使節団の人からは、こんな小汚い平民を連れていくのか、という不満が見て取れる。


「ルナ、行きましょうか。」


 王太子モードのシーくんからは、本当の顔であるドS王子の顔は全く読み取れない。他の人も、この演技力を少しは見習った方がいいよ。本音を隠すことも、時には必要なんだから。


「はい、王太子殿下。」


 私も、シーくんに対する態度は隠したまま、王太子殿下に対してふさわしい振る舞いをする。
こう見えても、演技力には自信がある。私は小学校の演劇発表会で、お兄ちゃんの直接指導を受けながら人魚姫の魔女の役を見事にやりきったのだ。迫真の演技すぎて、劇が終わるまで、みんなが私を怖がって話しかけてくれなくなったけど!








 高そうな馬車に乗って、変わっていく景色を見ながら決意を固める。
……ここからが、本当の始まりだ。


 私は絶対に、普通の生活を手に入れてみせる!






……王太子の婚約者という立場が、すでに普通じゃない気しかしないけど、それは気にしない方向でいこうと思います。




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