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第3話 酩酊
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夏実が死んで2週間が経った。
あの人形は僕のベッドで寝かせてある。変な意味ではなく、1DKでは単純に置くスペースがないのだ。ダイニングやキッチンでは万一人が来た時困るし、僕の部屋なら誰か入る時でも片付けすると言って隠す時間ができる。
…本音を言ってしまえば、人形でもいいから夏実の隣で寝たいのもあるが。
今日から美春がこちらの支部に帰ってくる。
僕はいつもより時間をかけて身支度した。
会社に着くと、そこにはもう美春がいて、窓拭きをしていた。
「あ、冬雪くんおはよう。」
美春がこちらに気づき、振り向いた。
「おはようございます。随分早いですね。」
「まあね。やっぱ帰還初日は掃除したいなって。」
さすがエリートだ。
僕は自分のデスクに荷物を置いて、デスク横にかけてあった雑巾を手に取った。
「え、いいよいいよ。私がやりたくてやってるだけだし。」
「僕も今日は掃除したい気分なんです。」
僕はそう言って、美春が止めるのも聞かずに窓拭きをし始めた。美春も諦めたらしく、再び手を動かした。
10分ほどして、ぞろぞろと始発組の社員が出社した。皆、美春を見るなり目を丸くし、久しぶりだなぁと美春へ駆け寄った。
美春も笑顔で再会を喜んでいた。僕はそれを、子を見守る父のように見つめながら仕事をした。
定時になり、帰ろうと立ち上がると美春に呼び止められた。
「冬雪くん、この後何人かで飲み会するんだけどよかったら来ない?」
「飲み会、ですか?ええ、むしろ行かせてください!」
よっしゃ!と美春は小さくガッツポーズをして、はにかむように笑った。
僕は不覚にもその笑顔に夏実の姿を一瞬重ねてしまった。
飲み会は7人集まった。皆美春が転勤する前一緒に働いていた仲間だ。
懐かしい話、僕が先日美春とご飯を食べながら聞いた話、世間話などを酒とたばこの煙に溶かして語りあった。
4件居酒屋やバーをはしごして、結局最後残ったのは僕と美春だけだった。潰れた先輩をなんとかタクシーに乗せ、さて帰るかと美春に言おうとした時、美春が僕の肩にもたれ掛かった。
「美春さん?大丈夫ですか、どこか座れるとこで休憩して帰りますか?」
僕は美春の肩を支えながら、首でベンチを探した。
「え、ぅ、ううんーへーきー。…へへ、ふゆきくぅんいい匂いだねぇ。」
さっきまでまるで酔いを見せなかった美春は、張った糸が切れたようにべろべろだ。
ふわりと懐かしい香水の香りが鼻をくすぐり、僕は思わず顔の筋肉が緩んだ。
「もう、しっかりしてください。タクシーで帰れますか?」
僕が通りかけたタクシーを止めようと挙げた腕を美春はすごい勢いで押し下げた。
「やら。ふぅきくんちとまる。」
僕の腕を押さえた手に力を込めて美春は僕の目をじっと見つめた。その手が小さく震えているのが伝わって、僕は思わずそっと美春の頬にキスをした。僕が顔を上げると、美春は少し踵を上げて僕の唇にキスをした。
その後二人でタクシーに乗り込んだ。
あの人形は僕のベッドで寝かせてある。変な意味ではなく、1DKでは単純に置くスペースがないのだ。ダイニングやキッチンでは万一人が来た時困るし、僕の部屋なら誰か入る時でも片付けすると言って隠す時間ができる。
…本音を言ってしまえば、人形でもいいから夏実の隣で寝たいのもあるが。
今日から美春がこちらの支部に帰ってくる。
僕はいつもより時間をかけて身支度した。
会社に着くと、そこにはもう美春がいて、窓拭きをしていた。
「あ、冬雪くんおはよう。」
美春がこちらに気づき、振り向いた。
「おはようございます。随分早いですね。」
「まあね。やっぱ帰還初日は掃除したいなって。」
さすがエリートだ。
僕は自分のデスクに荷物を置いて、デスク横にかけてあった雑巾を手に取った。
「え、いいよいいよ。私がやりたくてやってるだけだし。」
「僕も今日は掃除したい気分なんです。」
僕はそう言って、美春が止めるのも聞かずに窓拭きをし始めた。美春も諦めたらしく、再び手を動かした。
10分ほどして、ぞろぞろと始発組の社員が出社した。皆、美春を見るなり目を丸くし、久しぶりだなぁと美春へ駆け寄った。
美春も笑顔で再会を喜んでいた。僕はそれを、子を見守る父のように見つめながら仕事をした。
定時になり、帰ろうと立ち上がると美春に呼び止められた。
「冬雪くん、この後何人かで飲み会するんだけどよかったら来ない?」
「飲み会、ですか?ええ、むしろ行かせてください!」
よっしゃ!と美春は小さくガッツポーズをして、はにかむように笑った。
僕は不覚にもその笑顔に夏実の姿を一瞬重ねてしまった。
飲み会は7人集まった。皆美春が転勤する前一緒に働いていた仲間だ。
懐かしい話、僕が先日美春とご飯を食べながら聞いた話、世間話などを酒とたばこの煙に溶かして語りあった。
4件居酒屋やバーをはしごして、結局最後残ったのは僕と美春だけだった。潰れた先輩をなんとかタクシーに乗せ、さて帰るかと美春に言おうとした時、美春が僕の肩にもたれ掛かった。
「美春さん?大丈夫ですか、どこか座れるとこで休憩して帰りますか?」
僕は美春の肩を支えながら、首でベンチを探した。
「え、ぅ、ううんーへーきー。…へへ、ふゆきくぅんいい匂いだねぇ。」
さっきまでまるで酔いを見せなかった美春は、張った糸が切れたようにべろべろだ。
ふわりと懐かしい香水の香りが鼻をくすぐり、僕は思わず顔の筋肉が緩んだ。
「もう、しっかりしてください。タクシーで帰れますか?」
僕が通りかけたタクシーを止めようと挙げた腕を美春はすごい勢いで押し下げた。
「やら。ふぅきくんちとまる。」
僕の腕を押さえた手に力を込めて美春は僕の目をじっと見つめた。その手が小さく震えているのが伝わって、僕は思わずそっと美春の頬にキスをした。僕が顔を上げると、美春は少し踵を上げて僕の唇にキスをした。
その後二人でタクシーに乗り込んだ。
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