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第十一話 桜の邂逅(後) side.和仁
11-7
千人規模の組の頂点に立ち、比類なき強さを誇るあの父がもう長くないなんて。
俺に対しては厳しい親父だったが、組の者たちには慕われ畏怖される組長であった。
その父が病気なんて信じられなかったが、人の命が突然尽きることを俺は身をもって知っている。
だからこの命令は受けることにした。
「和仁、久しぶりだな」
「信士……」
「元気そうで良かったよ」
久々に再会した信士は俺を見るなり、柔らかく微笑んだ。
後から聞いた話によれば、俺たち桜龍の勢いは桜花組にも届いていたらしい。
このまま放置しておくことは見過ごせないレベルにまでなっており、そこで信士が桜龍を桜花組にそのまま取り込まないかと父に進言したようだ。
「吉野組長が倒れたと聞いたばかりだったしな。このままだと警察に目を付けられるのも時間の問題だし、早めに取り込んだ方がいいですよってね」
「随分勝手なことをしてくれたな」
「拗れた親子喧嘩をどうにかするきっかけになったじゃないか。それに俺は、親友をしょっぴくのは絶対に御免だからな」
信士にしてはらしくない、苦い表情を浮かべていた。
信士なりに心配していて、ずっと心を痛めていたことは何となく察した。
満咲は桜花と染井を管理する立場にあるし、信士はいつも冗談めいた口調で二組が協力し合えばと口にしていた。
あれは結構本気だったらしく、自分が何もできなかったことをずっと悔やんでいたらしい。
「和仁、俺は絶対に警視総監になる。どんな犯罪も撲滅してみせる。そのためにはお前の力が必要なんだ」
信士は力強く真っ直ぐな瞳で言い切った。
「俺に力を貸して欲しい」
どこか飄々としていて掴みどころのない信士だが、この男は有言実行だ。やると決めたからにはやる。
その真っ直ぐさが眩しいとは思いつつ、昔から嫌いになれなかった。
「わかった」
こうして俺は桜花組若頭に返り咲き、桜龍は桜花組に吸収された。
気に入らなければ離れてもいいと言ったが、全員が桜花に入る決断をした。
「俺たちはどこまでも兄貴についていくって決めたんです。兄貴の行くところについて行きます」
「お前たち……」
元からいた組員たちには白い目で見られていると思っていたし、誰も俺が戻ってくることを望んでいないと思っていた。
しかし、
「若、お帰りなさいませ!! 待っていました!」
「組長が倒れ、どうしようかと……」
「若でなければ、桜花組はまとまらないんです!」
「なんで……」
俺はお前たちを捨てたんだぞ?
何もかも捨てて逃げ出したのに。
それでも俺を若頭として受け入れてくれるのか。
『桜花組の組員はみんな家族って信念、素敵だよね』
俺はその家族を見捨てたのに。
『和くんって口にはしないけど、桜花組のことすごく大事にしてるよね。きっとそれがみんなにも伝わってるから、みんな和くんを慕うんじゃないかな』
俺はそんなにできた人間じゃない。
『和くんの大切な家族の一人に、いつか私もなれたらいいな……なんて』
いつだったか、美桜はそんなことを言っていた。
照れ臭そうに頬を染める美桜に対し、同じく照れ臭かった俺は「どうだろうな」と曖昧にしか返せなかった。
でも本音は、本気で思っていたんだ。
いつの日か美桜と家族になれる日がきたらいいと。
夢物語のまま儚く散ってしまったが。
「美桜……守れなくてすまない」
どうしようもない自分にできることが、桜花組を守ることならば。
今度こそ自分の役割を全うしたい。
美桜が誇りに思っていた極道の仕事、桜花組次期組長としての役目を果たしたい。
だが、もう二度と誰のことも愛さない。
大切な人を失うことになるのなら、最初からいらない。
そう決めていた。
――ジェシカ、君に出会うまでは。
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