元魔王、救世主になる

えながゆうき

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罪のなすりつけ合い

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 血相を変えたオババは陸に上がった魚のように口をパクパクさせていた。どうやら言葉にならないようだ。逃げるなら今しかいない。だが、クラーケンのように、腕にくっつくエレナ嬢がそれを許してくれない。強引に振りほどくとケガをするかも知れないし、それに一応、病み上がりなんだよね?

 これまでの話を総合すると、どうやら呪いにかかっていたのはこのエレナ嬢のようである。見たところ元気になっているようだが、違う可能性はもちろんある。ここでエレナ嬢の身に何かがあって、お尋ね者になるのは非常に困る。

「あの、マーガレットお婆様はどうしたのでしょうか?」
「さあ? ……いや、もしかすると、大事な孫が変な男に引っかかりそうになっているので、怒りのあまり、心臓発作を起こしているのかも知れない。なので、この腕を……」
「違うわッ! アンタもしかして『ヴォイドバッグ』を作れるのかい!?」
「ヴォイドバッグ?」

 初耳なのだろう。エレナ嬢がかわいらしく首をかしげている。だがしかし、腕は放してくれなかった。どうしよう。カビルンバもこの状況に困惑しているようで沈黙している。

「マジックバッグの上位互換がヴォイドバッグだよ。そのヴォイドバッグを作るための素材の一つがその『ゴブリンキングの王冠』なのさ」
「そうだったのですね。さすがはレオ様ですわ。『解呪の破魔札』を作れるだけではなかったのですね」
「でも残りの素材はどうするつもりだい? まさかアンタ……!?」

 勘の良いオババは嫌いだよ。私が再び店を訪れることを予見して、孫娘を店の中で待ち伏せさせていただけはあるな。
 ……これ以上、騒ぎになるのはまずい。ここは睡眠魔法を使って二人を眠らせて、そのスキにこの街からオサラバすることにしよう。と、思ったのだが。

「どうやらバディア辺境伯の耳にも入っているみたいですね。何者かがゴブリンの集落を襲撃したというお話が」

 あ、言っちゃって良いの、それ? 私は黙っておくぞカビルンバ。さっきみたいに失言したら都合が悪いだろうからね。頑張れカビルンバ。頼りにしてるぞ。

「ああ、もちろんさ。あたしの耳にも入って来ているよ。それで、アンタたちが犯人なんだろう?」
「犯人だなんて。未然にこの領都の危機を救っただけですよ。ゴブリンの集落にはゴブリンジェネラルだけじゃなく、キングにロード、ヒーローまでいましたからね。まあ、そのおかげで『ゴブリンロードのネックレス』と『ゴブリンヒーローのマント』を手に入れることができたんですけどね」

 ヒュッとオババが息を飲んだ。カビルンバ、いくらオババが高圧的とは言え、相手は高齢者だぞ。あまり驚かせるのは良くないと思うのだが。瀕死のオババを救うべく、助け船としてエレナ嬢を送り込もうかと思っていたら、エレナ嬢の顔も真っ青になっていた。

 これはまずい。今にも倒れそうだ。領都の近くに凶悪なモンスターがいたことに恐怖を感じているようだ。万が一、粗相をするようなことになったら非常にまずい。

「もう済んだことだし、いいじゃないか。あの程度のモンスター、私の相手ではない。三秒もかからずに全滅させたことだし、大した問題ではないよ」

 ヒュッと再び息を飲む声が聞こえた。今度は二つ。オババとエレナ嬢である。エレナ嬢の腕が小刻みに振るえていたが、それでもその腕を放すことはなかった。カビルンバは「アチャー」みたいな顔をしていた。……やっぱり黙っておけば良かったな。

「あ、アンタたち、何者だい?」

 震える声を絞り出すオババ。先ほどまでの高圧的な態度は完全に影を潜めていた。今は完全に小さくなっている。
 何者、か。ここで「元魔王です」とか言ったら、地の果てまで追いかけられることになりそうだ。

「フッ、弱き者の味方ですよ」

 そう言ってエレナ嬢に笑いかけた。ピタリとエレナ嬢の震えがとまり、その顔がまっかに染まった。キリキリと腕が締め付けられる。パワー! どっから出て来るの、その力!
 カビルンバは「何言ってんだこいつ」みたいな顔でこちらを見ていた。ひどい。かっこをつけたっていいじゃない。元魔王だもの。

「そ、そうかい。弱き者の味方かい。それで孫のために『解呪の破魔札』を届けてくれたのかい?」
「そうなるな。ただ、エレナ嬢が呪いにかかっているとは知らなかったがね」
「ふぅむ」

 オババが何やら考え始めたが、エレナ嬢は膨らんでいた。どうして。もしかして、「エレナ嬢のために作りました」とか言って欲しかったのかな? だって事実なんだし、しょうがないじゃないか。

「ところで気になったのですが、どうしてレオ様が『解呪の破魔札』を作った人物だと分かったのですか?」
「それは……夢を見たのですわ」
「夢?」
「はい。おでこに『解呪の破魔札』を貼られてからすぐに夢を見たのです。その夢の中で、黒い髪に、赤黒い角を二本持つ男性が、魔法陣に向かっている姿が見えましたわ。その肩には緑色の丸い何かが載っていましたわ」
「カビルンバのせいだな」
「レオ様のせいじゃないですか」

 ぐぬぬ、カビルンバのせいだぞ。二本の角を持つ魔族はたくさんいる。私じゃない可能性は十分にある。ただしカビルンバ、テメェはダメだ。その姿は君しかいない。私のせいじゃないぞ。

「それで、すぐに魔族の方だと分かったので、領都にいる全ての魔族を調べましたわ。そしたらそれに一致する方がいらっしゃらなくて……それでレオ様を見て一目で分かりましたわ!」
「やっぱりレオ様のせいじゃないですか」
「ぐぬぬ」

 悔しい。反論できない。別に緑色の丸い何かから調べ上げても良かったじゃないか。どうしてこうなるんだ。カビルンバと罪のなすりつけ合いをしていると、オババが動いた。

「何はともあれ、アンタたちには領主の屋敷まで来てもらうよ。これだけのことをしてもらったんだ。そのお礼くらいはさせておくれ。頼むよ、この通り」

 オババが両手を合わせた。何かさっきと態度が全然違うので怖いんですけど。だが、ここまで折れたオババの誠意を無下にするわけにはいかないな。エレナ嬢も熱い視線でこちらを見て、腕を放すつもりもないみたいだし、しょうがないね。

「分かりました。うかがいましょう」
「私が案内しますわ!」

 弾むようにそう言った。いや、本当に弾んでいた。何がとは言わないが。だぶんもう、すっかり元気を取り戻してますよね、エレナ嬢?
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