26 / 104
罪のなすりつけ合い
しおりを挟む
血相を変えたオババは陸に上がった魚のように口をパクパクさせていた。どうやら言葉にならないようだ。逃げるなら今しかいない。だが、クラーケンのように、腕にくっつくエレナ嬢がそれを許してくれない。強引に振りほどくとケガをするかも知れないし、それに一応、病み上がりなんだよね?
これまでの話を総合すると、どうやら呪いにかかっていたのはこのエレナ嬢のようである。見たところ元気になっているようだが、違う可能性はもちろんある。ここでエレナ嬢の身に何かがあって、お尋ね者になるのは非常に困る。
「あの、マーガレットお婆様はどうしたのでしょうか?」
「さあ? ……いや、もしかすると、大事な孫が変な男に引っかかりそうになっているので、怒りのあまり、心臓発作を起こしているのかも知れない。なので、この腕を……」
「違うわッ! アンタもしかして『ヴォイドバッグ』を作れるのかい!?」
「ヴォイドバッグ?」
初耳なのだろう。エレナ嬢がかわいらしく首をかしげている。だがしかし、腕は放してくれなかった。どうしよう。カビルンバもこの状況に困惑しているようで沈黙している。
「マジックバッグの上位互換がヴォイドバッグだよ。そのヴォイドバッグを作るための素材の一つがその『ゴブリンキングの王冠』なのさ」
「そうだったのですね。さすがはレオ様ですわ。『解呪の破魔札』を作れるだけではなかったのですね」
「でも残りの素材はどうするつもりだい? まさかアンタ……!?」
勘の良いオババは嫌いだよ。私が再び店を訪れることを予見して、孫娘を店の中で待ち伏せさせていただけはあるな。
……これ以上、騒ぎになるのはまずい。ここは睡眠魔法を使って二人を眠らせて、そのスキにこの街からオサラバすることにしよう。と、思ったのだが。
「どうやらバディア辺境伯の耳にも入っているみたいですね。何者かがゴブリンの集落を襲撃したというお話が」
あ、言っちゃって良いの、それ? 私は黙っておくぞカビルンバ。さっきみたいに失言したら都合が悪いだろうからね。頑張れカビルンバ。頼りにしてるぞ。
「ああ、もちろんさ。あたしの耳にも入って来ているよ。それで、アンタたちが犯人なんだろう?」
「犯人だなんて。未然にこの領都の危機を救っただけですよ。ゴブリンの集落にはゴブリンジェネラルだけじゃなく、キングにロード、ヒーローまでいましたからね。まあ、そのおかげで『ゴブリンロードのネックレス』と『ゴブリンヒーローのマント』を手に入れることができたんですけどね」
ヒュッとオババが息を飲んだ。カビルンバ、いくらオババが高圧的とは言え、相手は高齢者だぞ。あまり驚かせるのは良くないと思うのだが。瀕死のオババを救うべく、助け船としてエレナ嬢を送り込もうかと思っていたら、エレナ嬢の顔も真っ青になっていた。
これはまずい。今にも倒れそうだ。領都の近くに凶悪なモンスターがいたことに恐怖を感じているようだ。万が一、粗相をするようなことになったら非常にまずい。
「もう済んだことだし、いいじゃないか。あの程度のモンスター、私の相手ではない。三秒もかからずに全滅させたことだし、大した問題ではないよ」
ヒュッと再び息を飲む声が聞こえた。今度は二つ。オババとエレナ嬢である。エレナ嬢の腕が小刻みに振るえていたが、それでもその腕を放すことはなかった。カビルンバは「アチャー」みたいな顔をしていた。……やっぱり黙っておけば良かったな。
「あ、アンタたち、何者だい?」
震える声を絞り出すオババ。先ほどまでの高圧的な態度は完全に影を潜めていた。今は完全に小さくなっている。
何者、か。ここで「元魔王です」とか言ったら、地の果てまで追いかけられることになりそうだ。
「フッ、弱き者の味方ですよ」
そう言ってエレナ嬢に笑いかけた。ピタリとエレナ嬢の震えがとまり、その顔がまっかに染まった。キリキリと腕が締め付けられる。パワー! どっから出て来るの、その力!
カビルンバは「何言ってんだこいつ」みたいな顔でこちらを見ていた。ひどい。かっこをつけたっていいじゃない。元魔王だもの。
「そ、そうかい。弱き者の味方かい。それで孫のために『解呪の破魔札』を届けてくれたのかい?」
「そうなるな。ただ、エレナ嬢が呪いにかかっているとは知らなかったがね」
「ふぅむ」
オババが何やら考え始めたが、エレナ嬢は膨らんでいた。どうして。もしかして、「エレナ嬢のために作りました」とか言って欲しかったのかな? だって事実なんだし、しょうがないじゃないか。
「ところで気になったのですが、どうしてレオ様が『解呪の破魔札』を作った人物だと分かったのですか?」
「それは……夢を見たのですわ」
「夢?」
「はい。おでこに『解呪の破魔札』を貼られてからすぐに夢を見たのです。その夢の中で、黒い髪に、赤黒い角を二本持つ男性が、魔法陣に向かっている姿が見えましたわ。その肩には緑色の丸い何かが載っていましたわ」
「カビルンバのせいだな」
「レオ様のせいじゃないですか」
ぐぬぬ、カビルンバのせいだぞ。二本の角を持つ魔族はたくさんいる。私じゃない可能性は十分にある。ただしカビルンバ、テメェはダメだ。その姿は君しかいない。私のせいじゃないぞ。
「それで、すぐに魔族の方だと分かったので、領都にいる全ての魔族を調べましたわ。そしたらそれに一致する方がいらっしゃらなくて……それでレオ様を見て一目で分かりましたわ!」
「やっぱりレオ様のせいじゃないですか」
「ぐぬぬ」
悔しい。反論できない。別に緑色の丸い何かから調べ上げても良かったじゃないか。どうしてこうなるんだ。カビルンバと罪のなすりつけ合いをしていると、オババが動いた。
「何はともあれ、アンタたちには領主の屋敷まで来てもらうよ。これだけのことをしてもらったんだ。そのお礼くらいはさせておくれ。頼むよ、この通り」
オババが両手を合わせた。何かさっきと態度が全然違うので怖いんですけど。だが、ここまで折れたオババの誠意を無下にするわけにはいかないな。エレナ嬢も熱い視線でこちらを見て、腕を放すつもりもないみたいだし、しょうがないね。
「分かりました。うかがいましょう」
「私が案内しますわ!」
弾むようにそう言った。いや、本当に弾んでいた。何がとは言わないが。だぶんもう、すっかり元気を取り戻してますよね、エレナ嬢?
これまでの話を総合すると、どうやら呪いにかかっていたのはこのエレナ嬢のようである。見たところ元気になっているようだが、違う可能性はもちろんある。ここでエレナ嬢の身に何かがあって、お尋ね者になるのは非常に困る。
「あの、マーガレットお婆様はどうしたのでしょうか?」
「さあ? ……いや、もしかすると、大事な孫が変な男に引っかかりそうになっているので、怒りのあまり、心臓発作を起こしているのかも知れない。なので、この腕を……」
「違うわッ! アンタもしかして『ヴォイドバッグ』を作れるのかい!?」
「ヴォイドバッグ?」
初耳なのだろう。エレナ嬢がかわいらしく首をかしげている。だがしかし、腕は放してくれなかった。どうしよう。カビルンバもこの状況に困惑しているようで沈黙している。
「マジックバッグの上位互換がヴォイドバッグだよ。そのヴォイドバッグを作るための素材の一つがその『ゴブリンキングの王冠』なのさ」
「そうだったのですね。さすがはレオ様ですわ。『解呪の破魔札』を作れるだけではなかったのですね」
「でも残りの素材はどうするつもりだい? まさかアンタ……!?」
勘の良いオババは嫌いだよ。私が再び店を訪れることを予見して、孫娘を店の中で待ち伏せさせていただけはあるな。
……これ以上、騒ぎになるのはまずい。ここは睡眠魔法を使って二人を眠らせて、そのスキにこの街からオサラバすることにしよう。と、思ったのだが。
「どうやらバディア辺境伯の耳にも入っているみたいですね。何者かがゴブリンの集落を襲撃したというお話が」
あ、言っちゃって良いの、それ? 私は黙っておくぞカビルンバ。さっきみたいに失言したら都合が悪いだろうからね。頑張れカビルンバ。頼りにしてるぞ。
「ああ、もちろんさ。あたしの耳にも入って来ているよ。それで、アンタたちが犯人なんだろう?」
「犯人だなんて。未然にこの領都の危機を救っただけですよ。ゴブリンの集落にはゴブリンジェネラルだけじゃなく、キングにロード、ヒーローまでいましたからね。まあ、そのおかげで『ゴブリンロードのネックレス』と『ゴブリンヒーローのマント』を手に入れることができたんですけどね」
ヒュッとオババが息を飲んだ。カビルンバ、いくらオババが高圧的とは言え、相手は高齢者だぞ。あまり驚かせるのは良くないと思うのだが。瀕死のオババを救うべく、助け船としてエレナ嬢を送り込もうかと思っていたら、エレナ嬢の顔も真っ青になっていた。
これはまずい。今にも倒れそうだ。領都の近くに凶悪なモンスターがいたことに恐怖を感じているようだ。万が一、粗相をするようなことになったら非常にまずい。
「もう済んだことだし、いいじゃないか。あの程度のモンスター、私の相手ではない。三秒もかからずに全滅させたことだし、大した問題ではないよ」
ヒュッと再び息を飲む声が聞こえた。今度は二つ。オババとエレナ嬢である。エレナ嬢の腕が小刻みに振るえていたが、それでもその腕を放すことはなかった。カビルンバは「アチャー」みたいな顔をしていた。……やっぱり黙っておけば良かったな。
「あ、アンタたち、何者だい?」
震える声を絞り出すオババ。先ほどまでの高圧的な態度は完全に影を潜めていた。今は完全に小さくなっている。
何者、か。ここで「元魔王です」とか言ったら、地の果てまで追いかけられることになりそうだ。
「フッ、弱き者の味方ですよ」
そう言ってエレナ嬢に笑いかけた。ピタリとエレナ嬢の震えがとまり、その顔がまっかに染まった。キリキリと腕が締め付けられる。パワー! どっから出て来るの、その力!
カビルンバは「何言ってんだこいつ」みたいな顔でこちらを見ていた。ひどい。かっこをつけたっていいじゃない。元魔王だもの。
「そ、そうかい。弱き者の味方かい。それで孫のために『解呪の破魔札』を届けてくれたのかい?」
「そうなるな。ただ、エレナ嬢が呪いにかかっているとは知らなかったがね」
「ふぅむ」
オババが何やら考え始めたが、エレナ嬢は膨らんでいた。どうして。もしかして、「エレナ嬢のために作りました」とか言って欲しかったのかな? だって事実なんだし、しょうがないじゃないか。
「ところで気になったのですが、どうしてレオ様が『解呪の破魔札』を作った人物だと分かったのですか?」
「それは……夢を見たのですわ」
「夢?」
「はい。おでこに『解呪の破魔札』を貼られてからすぐに夢を見たのです。その夢の中で、黒い髪に、赤黒い角を二本持つ男性が、魔法陣に向かっている姿が見えましたわ。その肩には緑色の丸い何かが載っていましたわ」
「カビルンバのせいだな」
「レオ様のせいじゃないですか」
ぐぬぬ、カビルンバのせいだぞ。二本の角を持つ魔族はたくさんいる。私じゃない可能性は十分にある。ただしカビルンバ、テメェはダメだ。その姿は君しかいない。私のせいじゃないぞ。
「それで、すぐに魔族の方だと分かったので、領都にいる全ての魔族を調べましたわ。そしたらそれに一致する方がいらっしゃらなくて……それでレオ様を見て一目で分かりましたわ!」
「やっぱりレオ様のせいじゃないですか」
「ぐぬぬ」
悔しい。反論できない。別に緑色の丸い何かから調べ上げても良かったじゃないか。どうしてこうなるんだ。カビルンバと罪のなすりつけ合いをしていると、オババが動いた。
「何はともあれ、アンタたちには領主の屋敷まで来てもらうよ。これだけのことをしてもらったんだ。そのお礼くらいはさせておくれ。頼むよ、この通り」
オババが両手を合わせた。何かさっきと態度が全然違うので怖いんですけど。だが、ここまで折れたオババの誠意を無下にするわけにはいかないな。エレナ嬢も熱い視線でこちらを見て、腕を放すつもりもないみたいだし、しょうがないね。
「分かりました。うかがいましょう」
「私が案内しますわ!」
弾むようにそう言った。いや、本当に弾んでいた。何がとは言わないが。だぶんもう、すっかり元気を取り戻してますよね、エレナ嬢?
10
あなたにおすすめの小説
ずっとヤモリだと思ってた俺の相棒は実は最強の竜らしい
空色蜻蛉
ファンタジー
選ばれし竜の痣(竜紋)を持つ竜騎士が国の威信を掛けて戦う世界。
孤児の少年アサヒは、同じ孤児の仲間を集めて窃盗を繰り返して貧しい生活をしていた。
竜騎士なんて貧民の自分には関係の無いことだと思っていたアサヒに、ある日、転機が訪れる。
火傷の跡だと思っていたものが竜紋で、壁に住んでたヤモリが俺の竜?
いやいや、ないでしょ……。
【お知らせ】2018/2/27 完結しました。
◇空色蜻蛉の作品一覧はhttps://kakuyomu.jp/users/25tonbo/news/1177354054882823862をご覧ください。
異世界で至った男は帰還したがファンタジーに巻き込まれていく
竹桜
ファンタジー
神社のお参り帰りに異世界召喚に巻き込まれた主人公。
巻き込まれただけなのに、狂った姿を見たい為に何も無い真っ白な空間で閉じ込められる。
千年間も。
それなのに主人公は鍛錬をする。
1つのことだけを。
やがて、真っ白な空間から異世界に戻るが、その時に至っていたのだ。
これは異世界で至った男が帰還した現実世界でファンタジーに巻き込まれていく物語だ。
そして、主人公は至った力を存分に振るう。
レベル1の時から育ててきたパーティメンバーに裏切られて捨てられたが、俺はソロの方が本気出せるので問題はない
あつ犬
ファンタジー
王国最強のパーティメンバーを鍛え上げた、アサシンのアルマ・アルザラットはある日追放され、貯蓄もすべて奪われてしまう。 そんな折り、とある剣士の少女に助けを請われる。「パーティメンバーを助けてくれ」! 彼の人生が、動き出す。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
キモおじさんの正体は…
クラッベ
ファンタジー
乙女ゲームの世界に転生し、ヒロインとなったナディア。
彼女はゲーム通りにいかない悪役令嬢のビビアンに濡れ衣を着せ、断罪イベントの発生を成功させる。
その後の悪役令嬢の末路は、ゲーム通りでは気持ち悪いおっさんに売られていくのを知っているナディアは、ざまぁみろと心の中で嘲笑っていた。
だけどこの時、この幸せが終わりを迎えることになるとは、ナディアは思っても見なかったのだ。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる