元魔王、救世主になる

えながゆうき

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話を聞こう

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 不自然な休業の知らせをジッと見つめるカビルンバ。まさか、張り紙から何かしらの情報を引き出すことができるのか?
 ドキドキしながら見つめていると、カビルンバが振り向いた。

「錬金術ギルドの中には人がいるみたいですね。裏口に行けば話が聞けるかも知れません」

 どうやら菌糸ネットワークを使って、錬金術ギルドの建物の内部をのぞき見していたようだ。
 本来なら犯罪行為一歩手前なのだが、カビの妖精なのでノーカウントのようである。

「職員がいるのにギルドを閉めているということは、何かあったことは間違いなさそうだ。それでもあえて聞き込みを続けるわけだな?」
「そうです。ボクの勘が当たっていれば、今回の疫病と関係があるはずです」
「なら行くしかないな。裏口へ案内してくれ」

 カビルンバの案内を受けて裏通りを進んで行く。ちょっと入り組んだところに、その裏口はあった。
 扉はしっかりと閉まっていたが、ここまで来て何の手柄もなく帰るわけにはいかない。
 ドンドンと扉をたたくと、それほど待たずに扉が開いた。

「……何かご用でしょうか?」

 怪訝そうな顔をした女性が顔をのぞかせた。その顔はどこか曇り空のように不安の色が見えた。その顔が少しでも良くなるように、あえて明るい口調で話しかける。

「これは失礼を。私は旅の錬金術師なのだが、錬金術ギルドが閉まっているみたいで困っていてね。それで裏口まで回ってきたわけだが、何かあったのかな?」
「旅の錬金術師……いえ、何もありませんわ。ただの休業です。明日には業務を再開しますわ。たぶん」
「そうなのですね。ところで、疫病について何か知りませんか?」

 女性職員の顔が驚愕の表情に変わった。グイッとこちらに体を近づける。いきなり豹変した態度に、思わず体がのけぞった。
 こんな場面をエレナ嬢にでも見られた日にはあとが怖いな。下手な言い訳をするとオババが参戦してきそうである。

「何か知っているのですか? ラザーニャに呼び出された職員が戻って来ないのですよ!」
「落ち着いて! 落ち着いて聞いて下さい。私もまだ何も分からないのですよ。実はその件で、この領都の領主に呼び出されましてね。事前に情報を集めていたのですよ」
「そうだったのですね。申し訳ありません、早とちりしてしまって」

 先ほどの勢いはどこへやら。空気が抜けたシャボンのように小さくなってしまった。
 どうやらかなり切羽詰まっているようだ。若い見た目をしているので下っ端だと思うのだがこの慌て様。何かあったのは間違いなさそうだ。

「あの、良かったらお話を聞かせていただけませんか? 明日には領主を訪ねようと思っているので、少しでも情報が欲しいのです」
「分かりましたわ。私が知っている限りのことをお話しましょう。まあ、ほとんどないんですけどね」

 力なく苦笑いしつつも、建物の中へ案内してくれた。そこでは数人の職員が右往左往して、依頼書を作成しているようだった。
 とてもではないが、この人数で錬金術ギルドの業務を回せるとは思えないな。しかも全員が若者だ。指揮系統などなさそうである。

「失礼ですが、ギルド長、もしくは副ギルド長はいらっしゃらないのですか?」
「それが、二人ともラザーニャから戻って来ていないのですよ」
「な、何だって! 戻って来ない?」

 これは思った以上に商業都市ラザーニャは大変なことになっているのかも知れないな。バディア辺境伯にアレリード伯爵からの手紙が届いた話をすると職員は考え込んでいた。
 それからおもむろに手帳を取り出した。

「ここに疫病の話が来たのは三月ほど前になります。そのときはまだ大きな広がりを見せていなかったので、『領都でも警戒するように』という警告だけでした」
「最初から職員が呼び出されたわけではなかったのですね」
「そうです。それから二月たった先月、人手が足らなくなったから応援が欲しいと通達が来ました」

 手帳を見ながら慎重に話を進めている。しっかりとしているな。私なら適当に話を進めているところだ。カビルンバも手帳なんて持っていないので同類だろう。じいやは……じいやはそもそもペンを持てそうにないな。

「だれがラザーニャに行ったのですか?」
「すぐに副ギルド長と何人かの職員が派遣されました。ラザーニャから来た手紙に、ギルド長がかなりの危機感を抱いたのだと思います」

 そのときの光景を思い出そうとしているのか、しきりに眉間をグリグリと押さえている。
 そうこうしている間に他の職員たちも集まって来た。周囲が少しずつ騒がしくなってくる。

「それで……帰って来なかったのですね?」
「そうです。半月後、何の連絡もないことを不審に思ったギルド長が、職員を調べに行かせたのですが、その方も戻って来なくて……」
「それで、最終的にギルド長がラザーニャに向かったのですね」

 コクリと静かにうなずいた。ミイラ取りがミイラになったわけだな。戻れないほど、ラザーニャの現状がひどいのか、それとも、疫病にかかって動けなくなったのか。
 疫病を患ったままで領都に戻るわけにはいかないだろうからね。それならやっぱり後者かな?

「主よ、おかしいくはないですかな? 手紙での連絡くらいはあっても良さそうな気がしますが」
「確かに」

 じいやの言うことはもっともだ。街から出られなくても、手紙くらいなら出すことは可能なはずだ。それさえないなんて。
 だが職員は別のことに気を取られたようである。ジッとじいやを見ると、そのままカビルンバへと視線を移した。

「しゃべるんですね、そのカメ。もしかして、そっちのカビも?」
「もちろんしゃべれますよ。おかしいと言えば、応援を求めるほど広がりを見せているはずの疫病が、ここ領都では一切広がっていないことですね」
「そうだな。それに疫病が流行っているという話をだれも知らなかったのも不自然だ」
「うーん、確かに何かがおかしいですね」

 あれこれと職員たちを交えて話し合ってみたが、これと言った結論は出なかった。
 明日から業務を再開するという話はウソだったようであり、今の状態ではとてもではないが、錬金術ギルドを開けることはできないそうである。

「領主の話を聞いたら、またここに来ます。内容によっては話せないかも知れませんが、それでも力を貸していただけるとありがたいです」
「もちろんですよ。錬金術ギルドにとって、錬金術師はなくてはならない存在ですからね。いくらでも力を貸しますよ」
「ありがたい。私も可能な限り、情報を引き出してくるつもりです」

 そしてしっかりとうなずいた。これで少しは安心してもらえたかな? 協力者は多いに越したことはないからね。
 何、情報ならカビルンバがしっかりと引き出してくれるはずさ。私は隣で黙ってうなずいていれば良いのだ。
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