元魔王、救世主になる

えながゆうき

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邪竜の威を借る小物

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 こちらの事情を聞いて、ようやくソフィアが落ち着いたようである。まだ私の膝の上に座り、しがみついたままの状態ではあったが。

「それで、そのエレナとか言う女は何者なのじゃ? まさか……」
「ああ、エレナ嬢は呪いにかかっていたところを助けただけだ。まあなんだ、放っておけなくてな」
「ふうん? 知り合いなのか?」

 ソフィアの両腕に再び力がこもった。これはまずい。返事次第では真っ二つにされてしまう。私が説明すると誤解を招く恐れがある。ここはカビルンバに任せるしかないな。
 行け、カビルンバ。キミに決めた!
 熱視線をそそぐと、カビルンバのため息が聞こえたような気がした。

「違いますよ、ソフィアさん。たまたま錬金術ギルドに行ったときに、呪いを解除する錬金術アイテムを募集する依頼があったのですよ」
「それで助けることにしたのか?」
「そうです。もう半年以上、放置されていましてね。依頼品の『解呪の破魔札』を作れるのに、放っておくのはかわいそうだという結論になったのですよ。他意はありません」
「そうか。……相変わらずレオニートは甘いのう。まあ、そこが良いんじゃが」
「え?」

 思わず声がうわずった。最後にボソッとソフィアがつぶやいたけど、しっかりと聞こえたぞ。だがそれが良い? ソフィアが私のことを褒めるだなんて。これは近いうちに槍の雨が降ってくるな。おお怖い。天変地異の前触れか?

「おぬし、何か失礼なことを考えておらぬか?」
「そんなことないぞ。それよりも、そろそろ離してくれないか? いつ切り離されるのか、気が気でないんだけど」
「ダメじゃ」

 それはもうアッサリと、すがすがしい程に断られた。「何で」と言う暇もなかった。どうやらしばらくは、このままでいなければならないようだ。
 どうしたものかと考えていると、何やらカビルンバが合図を送ってきた。なるほど、大体分かった。

「聞きたいことがあるんだが、ソフィアは『この街の流通を止めるな』と言ったことはあるのか?」
「はあ? あるわけないじゃろう。初めて人間の街に来たのじゃぞ。なぜそのようなことを言わねばならん」
「ですよね。でなければ串焼きを強奪しようとはしないか」
「強奪とは失礼な。ありがたくいただこうと思ったのだ」
「店主を脅していただくのは強奪とあまり変わらな……ちょ、冗談! ギブ、ギブアップ!」

 ソフィアが力を緩めた。危ない危ない。上半身と下半身がさよならするところだった。
 肩でじいやが首を振っている。

「主も懲りませぬな。もしかすると、わざとやっておられるのかな?」
「そうでしょうね。それだけソフィアさんとイチャイチャ……ちょ、冗談! ギブ、ギブアップ!」

 ソフィアに片手で握られたカビルンバが悲鳴を上げた。危ない危ない。もう少しでカビルンバがリンゴのように握り潰されるところだった。そしてソフィアがリンゴのように赤くなっているが気にしてはダメだ。これ以上、この話題を続けるのはまずい。

「やはりソフィアではなかったか」
「先ほどから何のことじゃ? 話が見えん」
「簡単に言うとだな、タイラント山に住む邪竜の名前を語る不届き者がいるんだよ」
「なんじゃと?」
「待って待って、邪竜って呼んでいるのは私じゃない!」

 どうしてソフィアはすぐ実力行使で片付けようとするんだ。百年たっても一向に落ち着く気配がないな。子供か。
 今度はアレリード伯爵家であった出来事を話した。そしてなぜ、自分たちがここにいるのかも話す。

「だれじゃ、わらわのことを邪竜呼びしたやつは。コロス……」
「落ち着こう! まずは落ち着こうな、ソフィア。そしてその腕を外すんだ、ソフィア」
「そうですよ、ソフィアさん。レオ様はしっかりと訂正しておきましたから。アレリード伯爵も今ではすっかり古代竜様と呼んでいますから」
「そうだぞ。だから心配しなくて良いぞ」

 私たちの説得でようやくソフィアが解放してくれた。ソフィアを泣かせてしまった手前、ある程度のことは大目に見ようと思ったが、二度目のホールドはやめた方が良さそうだ。

「しかし妙ですな。ソフィア殿の名を使えば、激怒することは分かっているはず。それなのになぜ使ったのでしょうか」
「この街を破壊したかったからじゃないのか?」
「それなら領主代行にだけ警告せずに、街全体に警告するのでは? その方が邪……じゃなかった、ソフィアさんの耳にも入りやすいはずですよね」

 キッとソフィアがカビルンバをにらんだ。しつこいカビでも枯らしそうなほどの鋭さである。カビルンバが冷や汗をかきながら視線をそらせた。こら、こっちを見るんじゃない。飛び火しそうで怖いじゃないか。

「それじゃ、ばれないと思ったんじゃないのか。どうせソフィアのことだ。タイラント山にずっと引きこもっていたんだろう?」

 ソフィアはボッチだからな。百年の間、山に引きこもっていてもおかしくない。……なんだかかわいそうになってきたぞ。そんなことないよね? 私の思い過ごしだよね?
 チラリとソフィアの方を見ると、顔を真っ赤にしてプルプルと震えていた。今にも噴火しそうである。

「何を言っておる! おぬしの命令を守ってあの山におったのじゃぞ! 分かっておるのかレオニート!」
「なるほど」
「じいや?」

 飛びかかってきたソフィアを何とか押さえながらじいやの方に顔を向けた。じいやはアゴに手を当てて、何やら思案しているようだ。

「どうやら小物はソフィア殿のことを知っているようですな。ソフィア殿が山から下りてこないことを知っていたからこそ、恐れ多くも古代竜の名前を使ったのでしょう」
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