元魔王、救世主になる

えながゆうき

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腹ぺこ怪獣ソフィア

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 ソフィアを馬車に導きながら思った。ソフィアって、人間社会のマナーなんて分からないよね? これはラザーニャの解呪作業よりも、マナー講習を優先しておくべきだった。
 まさか手で食事を食べるようなことはないだろうが、甘い物ばかりを口に入れる可能性は大いにある。

「カビルンバ、今日のパーティーはどんな形式だ?」
「立食パーティーのようですね」
「立食パーティー? なんじゃそれは。もしかして立って食べるのか? 人間は行儀が悪いのう」

 ソフィアが首をかしげている。嫌な汗が背中を伝う。立食パーティーと言えば、好きなものを取って、好きなだけ食べられる、食べ放題のパーティーである。当然のことながら、普通の貴族なら食べることよりも話すことを優先するためほとんど食べない。
 だがしかし、腹ぺこ怪獣ソフィアなら、そんなことなど気にせずに、食欲のままに食べることになるだろう。どうしよう。

「立って食べる形式のパーティーなんだが、自分で何を食べるのかを選ぶことができるんだ。だからソフィア、甘い物ばかりを食べてはいけないぞ。ちゃんと肉と野菜も食べなければならない」
「またそうやって子供扱いする! わらわだってそのくらいのこと分かっておるわ」

 本当かなぁ? 疑問に思っているのは私だけではないようで、カビルンバとじいやも疑うような目をソフィアに向けている。それに気がついたソフィアのほほがリスのように膨らんだ。そういうとこだぞ。

「分かっているなら良いんだ。今日のパーティーは私たちが主役と言って良いだろう。だから食べるよりも、人との話を優先するようにな」
「腹一杯食べられぬのか?」
「……どうだろうな?」

 本気でこれはどうなるか分からないな。聖女ソフィアとしてどこまで扱われるのかが鍵を握っている。ソフィアが古代竜として扱われるのならば、腹一杯食べられるかも知れない。古代竜の食欲を止めようとする人などいないと思うからね。

 なるようにしかならないなと思ってあきらめていると馬車が止まった。どうやら領主代行の屋敷に到着したようである。すぐに御者から到着の知らせが入り馬車の扉が開いた。

 立食パーティーは夕方から夜にかけて行われると聞いている。そのため外はまだ明るかった。地平線に日が沈むまでにはもう少し時間がかかるだろう。私たちが案内されたのは領主代行の屋敷にある広い中庭だった。

 どうやら日が落ちるまでは庭で、その後は室内に移動するようである。なるほど、外も内も楽しめるというわけだな。
 到着したときにはすでに多くの人でにぎわっていた。ラザーニャに屋敷を構えている貴族はもちろんのこと、錬金術ギルド、商業ギルド、そして冒険者ギルドからも人が来ているようだ。冒険者らしき人たちの姿もある。

 これはあれかな、私たちに配慮して、色んな職種の人たちを呼んでいるのかな? 正式な貴族のパーティーではないので、ゆっくりしていってね、ということなのだろう。なかなか憎い配慮である。これはすぐにアレリード伯爵に挨拶に行かなければならないな。

 庭を進むとこちらに注目が集まった。どうやら魔族は珍しいみたいである。古代竜にいたっては、見た人はほとんどいないはずである。
 会場には魔族の姿も見えるが、私の正体には気がついていないようである。

 それもそのはず。魔王時代には正体がバレないように顔がスッポリと隠れるようなマントを普段から身につけていたからね。私が魔王であることを明確に知っているのは、四天王や幹部クラスの魔族、そして幼なじみくらいだろう。

 私たちを知っている錬金術ギルドの職員や冒険者たちが、こちらに気がついて軽く頭を下げた。こちらも同じように頭を下げた。

「ソフィア、まずはアレリード伯爵に挨拶に行くぞ。食べるのはその後だ」
「む、分かったのじゃ」

 テーブルの上に並んでいる食べ物をガン見していたソフィアを引っ張った。徐々にテーブルの方へと引き寄せられていたのだ。まるで引き寄せのトラップにかかったかのようである。
 アレリード伯爵を見つけたのでまっすぐにそちらに向かう。アレリード伯爵は数人の貴族たちと話していた。ここは待つべきかな?

「レオニート殿、ソフィア様、いらっしゃっていたのですね!」

 こちらに気がついたアレリード伯爵が声を上げた。その声に、周囲の喧騒が沈黙の魔法を使ったかのように聞こえなくなった。何これ。内心で動揺しつつもそれに応えた。

「アレリード伯爵、本日はお招きいただきありがとうございます」
「何を言うのだ。今日は二人のために開いたようなものだぞ。皆の者、聞いてくれ。こちらがこのラザーニャを救ってくれた英雄だ」

 そう言ってからアレリード伯爵が私たちを紹介した。私は四天王の力を封じ込めることができるほどの腕利きの冒険者、ソフィアは当然、聖女である。
 聖女として紹介された途端にソフィアの背中がしゃんと伸びた。その顔にはまるで聖女のようなほほ笑みがある。

 その後はもう大変だった。ひっきりなしに挨拶をしに人が来るわ、これまでにあったことをアレリード伯爵と領主代行のベンジャミンと共に、改めて話すことになるわで休む暇がなかった。もちろん食事を食べる暇もなかった。

 だんだんとソフィアの機嫌が悪くなっているのが分かったので、ほとんどの人が室内に移り始めたところで時間をもらった。外の食事はまだまだ残っている。食べてしまっても問題ないだろう。

「ソフィア、しっかり食べろ。室内に入ったら食べる時間がないかも知れないからな」
「もちろんじゃ。レオニート、マジックバッグを持って来ておるのじゃろう?」
「……」

 良くないとは思ったが、ソフィアの視線に負けて、テーブルの上に残された食事を容器につめてお持ち帰りする。これでしばらくは食事に困ることはないだろう。
 次々と無くなっていく料理を見て、使用人たちがドン引きしていた。

 私がカバンに詰め込んでいる分ももちろんあるが、それと同じくらいの勢いでソフィアも食べている。一体その小さな体のどこに収まるのか。考えてはダメだな。心を無にしてカバンに詰め込もう。もちろんカビルンバとじいやはあきれていた。
 だがしかし、止めることはなかった。
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