婚約者は破滅フラグ持ちの転生者。それでも俺はキミが好き。

えながゆうき

文字の大きさ
8 / 40

へし折れ! 破滅フラグ②

しおりを挟む
「モニカは本当に魔法の才能がありますね。モニカの婚約者として、とても誇らしく思いますよ」

 そうなのだ。モニカは俺と同じくらいの魔法スペックを持っていたのだ。
 恐らく悪役令嬢としてのモニカは、ゲームの中ではプレイヤーが直接操作することはできないはずだ。そのため、実際にどれほどの力を持っているのかは未知数のはずである。
 だが、公式の設定としては、主人公のライバルキャラに相応しい能力が与えられているのだろう。
 この手のゲームはライバルキャラが残念設定であることもあるが、どうやらゲームの中のモニカ嬢はチート能力を与えられているようである。
 まあ、そこそこ大きなキリエの森を消滅させるくらいだからね。さもありなん。

「そんなことはありませんわ。レオ様の教え方が上手なだけですわ。ありがとうございます、レオ様」

 ちょっぴり恐縮しながら、モニカが頬を薄紅色に染めた可愛い笑顔を向けてくれた。
 うん、やっぱりモニカには笑顔が似合っている。惚れてしまったやろー!
 モニカの両親からはありがとうの手紙が届いていた。レオンハルト殿下の教えのお陰で、モニカが魔法を使えるようになった、とても喜ばしいと、これからもモニカをよろしくお願いしますと。もちろんですとも!

「それにしても、教えた生活魔法を全て使えるようになるとは思ってもみませんでしたよ。大抵の人は得意、不得意の関係で、良くて五、六個くらいまでしか使えませんからね」

 モニカは洗濯や掃除だけでなく、収納魔法や転移魔法などのレアな魔法も使えるようになっていた。もちろん俺も使えるので、このレオンハルトというキャラクターも大概チートのようだ。
 これだけチート能力をモニカが持っているなら、もしかしたらアレもいけるかも知れない。
 もしそうなれば、モニカの悪役令嬢破滅フラグを折ることができる可能性が浮上する。
 やってみる価値はあるな。

「モニカ、次は癒やしの魔法を覚えてみませんか?」
「え? 癒やしの魔法、ですか?」

 キョトンとしているモニカの表情も凄くイイ。
 思わず蕩けそうになる顔を抑えて、真面目な顔を作った。

「そうです。癒やしの魔法です。誰でも使える魔法ではないため、とても貴重な魔法で、とても必要とされる魔法です。モニカの魔法の才能があれば、きっと使うことができるはずです。モニカが癒やしの魔法を使えるようになれば、それが国にもたらす恩恵は計り知れません。どうですか? 一緒にやってみませんか?」
「この国のために……分かりました。やってみますわ」

 そうこなくっちゃ! フフフ、見てろよ破滅フラグ、今へし折ってやるぞ。震えて待っていろ。


 モニカの元々持っていた性格なのだろう。癒やしの魔法とモニカはとても相性が良かった。
 まるでスポンジのように癒やしの魔法をどんどん吸収していくモニカ。城の治癒士達も大変驚いていた。
 癒やしの魔法には才能の他に、使う側の人間性が大きく問われるという、かなり特殊な魔法だった。
 そのため、魔法の才能があっても、癒やしの魔法が使える人はほとんどいなかった。
 求められる人間性はズバリ「慈愛の心」を持っているかどうか。
 これが簡単そうでとても難しいのだ。
 心の奥底に黒いモノがいつしか溜まっていくのが人間という生き物だ。
 それをほぼゼロのまま保つというのは、それだけで称賛に値するものだと俺は思っている。
 癒やしの魔法を使うにはそれが必要だった。だからこそ、使える人が少なく、貴重な魔法なのだ。
 ということは、それを難なく使うことができる俺は、大変、心が清らかな存在というわけで……ないな、ない。俺が癒やしの魔法を使えるのは公式チートだからだ。以上。


 現在、この国には大きな戦争などは起こってはいないが、周辺の森や山や草原には魔物がまだまだ潜んでおり、その魔物を退治するために駆り出される兵士達は、当然怪我も病気もする。
 そのような、日夜危険と隣り合わせになっている人達にとって、癒やし手というのは大変ありがたい存在であり、文字通り癒やしの存在であった。
 癒やしの魔法を覚えモニカは、当然その癒やしの存在になっていった。
 俺は積極的にモニカを兵士達が多く集まる宿舎や治癒院へと連れ出し、モニカを怪我や病気、呪いの解除や毒・麻痺・石化などの治療にあたらせた。
 モニカの魔力量は相当のものであり、他の魔法使いが驚愕するほどの持続力を持っていた。
 大きな怪我もたちどころに治していくモニカは、瞬く間に兵士達の支持を集め、聖女と呼ばれるようになるまでには、そんなに時間はかからなかった。
 そんなある日、モニカは遂に国王陛下に呼び出された。

「れ、レオ様、私、何かやってしまいましたか?」

 突然の呼び出しにオロオロするモニカの頭を俺は優しく撫でた。

「大丈夫ですよ。モニカに何か罰を与えようというわけではありませんよ。モニカが何か悪いことをしたわけではないでしょう?」
「それはそうですけど、呼び出されるようなことをした覚えもありませんわ」

 不安そうに顔をしかめるモニカ。
 ここで国王陛下が呼び出した理由を言ってもいいが、イタズラ心に火がついた俺はもう少しだけ黙っておくことにした。

「大丈夫ですよ。国王陛下に呼ばれたのはモニカだけではありません。モニカのご両親も来ているのでしょう? 私も参列するように言われていますので、モニカの隣には立てませんが、国王陛下の隣にいますよ」

 ニッコリと微笑む俺を見て、更に訝しむモニカ。
 本当に何のことだか気がついていないようだ。
 この鈍感なところはゲーム補正なのか、素なのかは分からないが、そこも含めてモニカの可愛いところだと思う。
 そうこうしていると、準備ができたと使用人達が迎えに来た。不安を抱えたままモニカは使用人に連れられて行った。


 ここはお城の謁見の間。そこには多くの貴族達が新しい聖女の誕生を祝うために集まっていた。その顔のどれもが、大変誇らしげな顔をしていた。
 聖女と呼ばれる人物がこの国からいなくなって久しい。そのため、この国の誰もが新しい聖女を待ち望んでいたのだ。
 玉座には国王陛下が座り、その左右に俺と王妃殿下が座っている。目の前にはふかふかの深紅の絨毯が向かい側の扉まで続いていた。
 その絨毯の左右には、今や遅しと貴族達が立ち並んでいる。当然、モニカの両親であるカタルーニャ公爵夫妻の姿もあった。
 式典を統括している宰相から、モニカ令嬢の名前が読み上げられると、豪華な装飾を施された扉が開き、モニカ公爵令嬢が現れた。
 左右に並んだ貴族達の間を、緊張のあまり引きつった微笑みを貼り付けたモニカが静々と進み、国王陛下の前で頭を垂れた。

「モニカ、面を上げよ」

 国王陛下の威厳のある言葉に、震えるようにモニカが顔を上げた。
 うん、これ、事前にモニカに聖女認定の式典であることを言っておかなければならなかったね。
 お母様が今、チラリと俺の方を見て、「お前言ってないのかよ」というアイコンタクトを送ってきた。ゾクゾクするね。

「モニカ公爵令嬢、これまでそなたが行ってきた数々の慈愛に満ちた行為を称え、ここに聖女として認定する」

 国王陛下の言葉が終わると同時に、はち切れんばかりの拍手が謁見の間に鳴り響いた。
 もちろん俺も、王妃殿下も惜しげもない拍手を送った。
 こうしてモニカは正式に、このガレリア王国の聖女として認定されたのであった。
 式典の後は、お城のバルコニーに出て、国民達に手を振ることも忘れなかった。
 俺は当然のようにモニカの隣に立ち、モニカと一緒に笑顔で手を振った。
 モニカの顔には、終始笑顔が貼り付いたままだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!

白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。 辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。 夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆  異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です) 《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆ 

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

悪役令嬢は反省しない!

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢リディス・アマリア・フォンテーヌは18歳の時に婚約者である王太子に婚約破棄を告げられる。その後馬車が事故に遭い、気づいたら神様を名乗る少年に16歳まで時を戻されていた。 性格を変えてまで王太子に気に入られようとは思わない。同じことを繰り返すのも馬鹿らしい。それならいっそ魔界で頂点に君臨し全ての国を支配下に置くというのが、良いかもしれない。リディスは決意する。魔界の皇子を私の美貌で虜にしてやろうと。

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

折角転生したのに、婚約者が好きすぎて困ります!

たぬきち25番
恋愛
ある日私は乙女ゲームのヒロインのライバル令嬢キャメロンとして転生していた。 なんと私は最推しのディラン王子の婚約者として転生したのだ!! 幸せすぎる~~~♡ たとえ振られる運命だとしてもディラン様の笑顔のためにライバル令嬢頑張ります!! ※主人公は婚約者が好きすぎる残念女子です。 ※気分転換に笑って頂けたら嬉しく思います。 短めのお話なので毎日更新 ※糖度高めなので胸やけにご注意下さい。 ※少しだけ塩分も含まれる箇所がございます。 《大変イチャイチャラブラブしてます!! 激甘、溺愛です!! お気を付け下さい!!》 ※他サイト様にも公開始めました!

ヒロイン気質がゼロなので攻略はお断りします! ~塩対応しているのに何で好感度が上がるんですか?!~

浅海 景
恋愛
幼い頃に誘拐されたことがきっかけで、サーシャは自分の前世を思い出す。その知識によりこの世界が乙女ゲームの舞台で、自分がヒロイン役である可能性に思い至ってしまう。貴族のしきたりなんて面倒くさいし、侍女として働くほうがよっぽど楽しいと思うサーシャは平穏な未来を手にいれるため、攻略対象たちと距離を取ろうとするのだが、彼らは何故かサーシャに興味を持ち関わろうとしてくるのだ。 「これってゲームの強制力?!」 周囲の人間関係をハッピーエンドに収めつつ、普通の生活を手に入れようとするヒロイン気質ゼロのサーシャが奮闘する物語。 ※2024.8.4 おまけ②とおまけ③を追加しました。

処理中です...