伯爵令息は後味の悪いハッピーエンドを回避したい

えながゆうき

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魔法訓練場、半壊!

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 サラサラと紙を滑るペンの音だけが聞こえている。リアの誕生日プレゼントにガラスペンを贈ってから数年が経過した。今では貴族の必需品としてその地位を獲得している。
 市場には様々な意匠を凝らしたガラスペンが出回っており、見栄を求めて今日も貴族たちがこぞって買い求めている。

 一方、庶民の間で広く使われているのは付けペンである。ガラスペンよりも耐久性があり、ペン先さえ取り替えれば長く使うことができる。そのペン先も、今ではいくつもの工房で作られるようになり、安価で市場に出回るようになった。現在、他国にも輸出されている、我が国の主力品である。

 俺とリアは相変わらずおそろいの星空のガラスペンを使っている。鍛冶工房の親方ジョナサンが真心を込めて作ったこのガラスペンは、不思議と折れることはなかった。ジョナサンの魂が入っているのではないかと、俺はひそかに思っている。

「フェルナンド様とエウラリア様のガラスペン、おそろいですわ」
「見たことがない色ですわね。それに、何かキラキラしたものが閉じ込められているような?」
「あら、ご存じありませんの? あのガラスペンには星空が閉じ込めてありますのよ。何でもフェルナンド様がエウラリア様の誕生日プレゼントに贈ったものらしいですわ」
「うらやましいですわ。私もあのようなおそろいのものが欲しいですわ」

 現在は自習中なのだが、後ろの席の女学生たちがささやき合っている声が聞こえてきた。
 騒いでいると、また先生に怒られるぞ。やれやれと思いながら隣に座るリアを見ると、口角が上がりそうになるのを必死にこらえようとしていた。どうやら満更でもないらしい。

「フェルナンド、俺とマリーナにも同じものを作ってくれないか?」
「そうして差し上げたいのは山々なのですが、どうやらこのガラスペンができたのは偶然の産物のようでして……再現ができないみたいなのですよ。そのため残念ながら同じものを用意することはできません」

 俺は眉をハの字に曲げて殿下に答えた。残念だなー。殿下たちにもおそろいのものを用意してあげたかったんだけどなー。

 もちろん半分はウソである。ジョナサンに頼めば同じものを作ってくれるだろう。しかし、当のジョナサンは俺とリアのためにしか、あの「星空のガラスペン」を作るつもりがないようなのだ。そのため、殿下たちのガラスペンを用意することはできない。

 俺がガラスペンを設計して、その製作と利権のすべてを任せたことに恩を感じているようだった。さすがは頑固な職人の親方。両親のお願いでも断っていたもんな。
 それにチェスやダーツの遊具もすべて任せてるもんな。そうなるのも仕方がないか。単に俺が丸投げしただけしただけなのだが。


 現在先生方は俺たちのことをほっぽり出して、魔法訓練場の整備にあたっている。午後から、このクラスで初めての魔法の訓練が行われるのだが、ウワサによると、午前中に問題が発生したらしい。

 そんな中での自習だ。段々と話し声が多くなってくるのは仕方がないのかも知れない。そんな中、情報収集を任されていた殿下の護衛が戻ってきて、何やら殿下に耳打ちをした。
 クラス全員の視線が殿下に集まった。

「な、何だって、魔法訓練場が半壊した!?」
「殿下、声が大きいですぞ!」

 慌てて護衛が殿下をたしなめたが、後の祭りである。全員が殿下の言葉を聞いていた。すぐに教室中が騒がしくなる。自習どころではない。マリーナ様も気になったのか、護衛に尋ねた。

「どういうことですか? 魔法訓練場は万が一に備えて丈夫に作ってあるはずですわ。それを壊すだなんて……」
「それが……」

 同じ秘密結社オズの仲間。情報を共有した方がいいと考えたようだ。護衛は入手した情報を話し始めた。
 それによると、一人の学生が強力な魔法を使って魔法訓練場を破壊したそうである。すぐに先生がその人物から杖を奪い取ったため、それ以上の被害は出なかった。

 そしてその魔法を使った本人いわく、「魔法が暴走した」そうである。つまり意図的にやったわけではない、偶然だ、ということである。
 しかし先生方の検証によると、意図的でないと使えない魔法が使われていたそうである。それはつまり、意図的に強力な魔法を使ったということである。

 先生方はこの事件を重く見て、その生徒が魔法を使うことを禁止した。言い渡された生徒は意気消沈して気を失ったそうである。すぐに医務室に運ばれたが、なぜか多数の男子生徒がお見舞いに駆けつけているそうである。あ、察し。

 午後の授業は自習になるかな? と思っていたが、予定通り、魔法訓練場での魔法の実践授業が行われた。
 半壊した魔法訓練場が痛々しい。地面はえぐれており、訓練場を囲っていた壁の一部は無残にもガレキの山と化していた。それを今もせっせと先生方が魔法で修復している。

 すでに先生方の顔色は土気色になっており、今にも魔力が枯渇しそうである。それでも作業を続けているのは、王立学園の威信にかかわることだからだろう。
 国内最高の学園での魔法による事故。スキャンダルのネタにされる前に、被害はほとんどなかったですよアピールをしたいのかも知れない。

「それでは、本日から本格的な魔法の訓練を始めたいと思います」

 先生の口振りが重い。先ほどまで修理を手伝っていたのだろう。ローブもすすけていた。これはちょっと可哀想だな。何とかできないか……そうだ!

「先生、一つ提案があります。今日の授業は土魔法の訓練を中心に行ってはどうでしょうか? ありがたいことに、練習する場所ならいくらでもありそうですので」

 そう言って俺はチラリと大穴の方を見た。それを見た先生は俺が言わんとしていることを察してくれたようである。つまり、「魔法の訓練と称して、俺たちを使って穴を埋めろ」ということである。

 パアッと先生の顔に光がさした。まるで空からの光が先生を照らしているかのようである。クラスメイトたちもその意味を察したのか、お互いにうなずき合って笑顔を交わしている。

「俺もフェルナンドの意見に賛成するぞ。土魔法は戦いにも守りにも使える万能な魔法だ。熟練度が高いことに越したことはないからな。最近では畑仕事にも使えると聞いている。土魔法を使いこなせるようになれば、仕事には困らんだろう」

 殿下がお墨付きをくれた。
 ナイスだ秘密結社オズの仲間たち。こんなこともあろうかと、常日頃から殿下に最新の情報をアップデートしておいて良かった。最近の殿下は物わかりがすごく良くなった。まるでCPUを取り替えたかのようである。

 その言葉ですべてが決まった。俺たちは先生方の指示により穴埋め作業に取りかかった。ゲームの攻略対象である俺と殿下は飛び抜けた魔力を持っている。この作業には適任だろう。
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