悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!

えながゆうき

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ゲーム開始

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 高等部の入学式の日がやってきた。
 学園長の相変わらずの長くてありがたいお言葉、三年生の生徒会長の言葉、新入生代表(ティアナ)の言葉が終わり、その日のうちにクラス分けのテストを受けた。
 高等部は初等部、中等部に比べると格段に生徒の数が多くなった。
 それもそのはず。高等部になると、国内だけでなく、国外からも優秀な生徒が入学してくるのだ。それだけでなく、一般階級の優秀な生徒もたくさん入学してくるのだ。
 そこにはもはや初等部のような余裕は、貴族にはない。少しでも平民よりも優秀であろうと必死に努力するしかないのだ。
 最上位クラスも一クラスだけでなく、優秀な生徒がいる分だけクラスの数が増えた。
 王立学園はジュエル王国での最高学位がもらえる唯一の学園である。右を見ても、左を見ても優秀な生徒ばかりであった。
「シリウス様、テストはどうでした?」
「問題ないと思いますよ。ティアナは?」
「私も問題ないはずですわ」
 ゲーム補正と言うものが存在するのかは分からないが、もしあるのならば、間違いなく俺達は最上位クラスに選ばれ、同じクラスになるはずだ。ゲームの中のシリウスは頭はよかったのだろうか?魔王になるような問題児であったところを見ると、どうも裏口入学のような気がしてならなかった。ガーネット公爵だもんね、そのくらいは軽くやってのけるだろう。
「学生って大変ね。あたしが学生でなくて良かったわ~」
「そうだね。フェオなら落ちこぼれクラス間違いなしだね」
「なんですって!」
 フェオが俺の顔をムギューってしてきた。俺は冗談、冗談と言ってフェオを撫でた。フェオもそんなことは分かっているらしく、俺に撫でられて気持ちよさそうな表情をしている。無言で寄ってきたティアナとエクスも一緒に撫でておいた。
「そう言えば、気がつきましたか?一般入学の生徒に可愛い子がいたらしいですよ?」
「そうなんですか?どこでそのような情報を?」
「マリアがルイス様がその子をじっと見つめていたって、涙ながらに訴えてきたのですよ」
 ルイス、お前は最低な奴だな。見損なったぞ。
 おそらくその子がゲームのヒロインなのだろう。初日から早くも注目を集めているとは侮り難し。だが、逆に考えると、注意すべき相手が誰なのか確定できるのでありがたいと思うべきか。
「後でルイスに一言いっておきますよ。それにしても、もしそんなに注目を集めるような子がいたら、厄介ですね」
「そうなの?」
 何で何で?とフェオが聞いてきた。
「だってそうだろう?その子が原因で貴族が問題を起こせば、全部俺に降りかかってくるんだよ?」
 ああ、と納得するティアナとエクス。
「そう言えばクロードお兄がそんなこと言ってたね~。どうすんの?シリウス」
「早速クロードお兄様に手紙で相談します」
「それがいいですわね……。初日から問題事が持ち上がるだなんて、これからの三年間が思いやられますわね」
 ティアナが困ったような顔をした。間違いなく俺も同じ顔をしていることだろう。
「大丈夫よシリウス!あたし達がついてるからね」
「そう。シリウスには私達がついてる」
【そうですよ】
【そうですぞ】
「みんなありがとう。何事もないのが一番だけど、どうもそう簡単にはいかなそうだね」
 それでも俺には頼もしい同士達がいる。みんなで力を合わせれば、絶対に乗り越えることができるはずだ。自分の力を過信しないように、今回ばかりはすぐに報告して、みんなで最善の方法を探っていきたい。
 トントン。
「シリウス、居るか?おっと、これはこれは、クリスティアナ様もご一緒でしたか。聞いたかシリウス、メチャクチャ可愛い子が同じ学年にいるらしいぞ?一緒に見に行かないか?」
 人の苦労を何も知らないエリオットが、こちらの許可無く部屋に入ってきて言った。
「断る。それよりも、お前には言っておかなければならないことがある」
 それから三時間ほど、エリオットは代わる代わる俺達から説教された。もちろんエリオットは正座だ。最後には涙目になったエリオットが二度とこのようなことはしないと神に誓って、解放された。
 それ以降、この部屋にエリオットが来ることはなかった。

「明日はいよいよクラス分けの発表ですわね」
 テストが終わってから数日はオリエンテーションが行われ、気の合う者同士で高等部の施設を見て回っていた。
 高等部の敷地はこれまでの学部よりもずっと広く、一日では全てが見て回れないというとんでもない規模だった。だが、裏を返せばそれだけ国がこの学園での教育に力を入れているということである。現に、この国の中枢に君臨している全ての人はこの王立学園の卒業生である。
「緊張して眠れない?」
 俺は隣で横になっているティアナを抱き寄せた。
 そう。俺達は十五歳になっても結局、みんなで一緒に同じ布団で眠っていた。
 だが、これまでとは決定的に違うことがあった。俺達は結婚したのだ。同じ布団で眠っても、何ら問題の無い関係になったのだ。
「緊張してないと言えば嘘になりますけど、今はもうそうでもありませんわ」
「大丈夫よ。もしシリウスとクリピーを引き離すようなことがあったら、あたしがあの髭に文句を言いに行ってあげるわ!」
 ふん!と息巻くフェオ。あの髭とはもちろん学園長のことである。フェオのその台詞に、ピーちゃんもうんうんと頷いた。これはもう同じクラスになることを祈るしかないな。罪のない学園長の心が平穏であるように。
 俺達が正式に結婚してからは、ピーちゃんは俺達の関係について特に何も言わなくなった。ピーちゃんの中では、一つの区切りというか、ケジメがついたのだろう。俺がちゃんと責任を取ると宣言したことで、ひとまずピーちゃんからは及第点をもらえたようである。
 俺に寄り添うティアナとエクス、頭にひっつくフェオの体温を感じながら、俺達は眠りについた。

「おはようございます、クリスティアナ様、シリウス様。私達は同じクラスですよ!」
「おはようマリア嬢。よかった。昨日、同じクラスになれるかどうかとみんなで心配していたのですよ」
「おはようマリア。また同じクラスになれて、とっても嬉しいわ。ルイス様は?」
「ルイスも一緒よ。先日シリウス様がルイスに一言いってくれたお陰で、彼、改心したみたいで……」
 ん?なんだ?なぜか途中で頬を赤く染めるマリア嬢。これってもしや……。
「あの後、ルイスに自分の婚約者になってくれないか?って言われたのですよ」
 赤くなりながら、照れながら、モジモジしながら、マリア嬢が言った。
「まあぁ!おめでとう、マリア!よかったわね」
「はい!」
 とっても嬉しそうである。良いことをしたな俺。ルイスはああ見えてもやるときはやる男だ。優良物件に違いはないな。
 そうこうしている間にやってきたルイスを散々からかった後、俺達は自分たちのクラスへと向かった。
 俺達が教室に到着したときには、すでに騒ぎになっていた。
 そこには例のヒロインがいたのだった。

 教室に入ると、あたりは一瞬にして静まり返り、俺達に注目が集まった。俺が素知らぬ顔をしようとすると、すぐに声がかかった。
「クリスティアナ様、師匠、おはようございます!」
「おはよう、クリスティアナ様、シリウス。いつ見ても君たちはラブラブだねぇ」
「おはよう、アーサー、エリオット。アーサー、師匠はやめてくれ。もう免許皆伝を与えただろう?それからエリオット、悔しかったら早く彼女を見つけることだな」
 アーサーはともかくとして、エリオットは相変わらずだな。
 そうこうしている間に周りに人が集まってきて、一気に騒がしくなった。
「王女殿下と同じクラスになれるだなんて、光栄です」
「おい、お前だけずるいぞ。私もです、王女殿下!」
 クリスティアナ様はモテモテだな。実際のゲームとは違い、スリムになっただけでこれだけ印象が良くなるとは思わなかったな。これはこれで良かったのだが、ちょっと嫉妬しそうだぞ。
 そう思っていると、クリスティアナ様は何食わぬ顔でそれらの賞賛を躱し、俺の腕をガッチリと自分の体で抱え込んだ。え、ちょっと。ボリューミーで柔らかななにかが腕に当っているんですが、それはいいんですかね?
「さあ、シリウス様、こちらの席が空いておりますので、一緒に座りましょう」
「う、うん、そうだね」
 クリスティアナ様になされるがままに俺は席についた。マリア嬢達がその周りに座り、体制が整ったところでこのクラスの担任の先生がやってきた。どうやら今日のところは自己紹介と、これからの授業についての説明で終わりのようである。
「ステラ・ロアーヌです」
 それが、一般階級の生徒で唯一最上位クラスに入った少女の名前であった。
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