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破滅をもたらす者①
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ステラ嬢に接触する者はかなり少なくはなったものの、それでもステラ嬢の人気は衰えることはなかった。第一に彼女に婚約者がいなかったこと。第二に身分が低いために権力にものをいわせれば自分のものにできると思っている者が多かったことである。
確かにステラ嬢はその辺のお嬢様とは一線を画するほどの美貌を備えてはいたが、貴族ではない彼女は、どう頑張っても本物のお嬢様と同じようには、美容にお金をかけることはできなかった。そのため、ハッキリと言わせてもらえれば、本物のお嬢様で、かつ、美貌を兼ね備えている完全体のお姫様であるティアナには敵うことはなかった。それを間近で毎日見ている俺にとっては、特にステラ嬢に惹かれることはなかった。
「シリウスは本当にいい奥さんをもらっているな」
「エリオット、お前には絶対にやらん」
俺がグワッと睨み付けると、エリオットは両手を上げて降参のポーズをとった。
「ほんと、二人はおしどり夫婦ですわね。羨ましいですわ」
クスクスとマリア嬢が笑った。
「マリアの言う通りですね。勉強も、魔法も超一流となれば、誰も敵う人はいませんよ」
ルイスの言う通り、小さい頃から俺と一緒に色々なやらかしをしてきたティアナは、今では知識も魔法もかなりのレベルにまで到達していた。
十歳になってようやく魔法を使えるようになったものと比べると雲泥の差があった。俺の創った魔法を覚えまくったこともあって、魔力量も魔法の種類もとても豊富だ。今更追いつけるような人はいないだろう。ティアナよりも優れた女性がいるとは思えなかった。
ステラ嬢もルイスと同じことを思っているのだろう。一緒になって笑っていた。
高等部になると、学園の外での授業も増えてきた。城下町に出て流通関係を学んだり、人の雇い方、使い方などのレクチャーも受ける。人の上に立つにはどうしても学園の机の上の勉強だけでは足りず、実践経験が必要になってくるのだ。
そんな中、今日は郊外にでて、オリエンテーションを兼ねた実戦形式の戦闘訓練が行われた。
これまでも闘技場での剣術や魔法の訓練はあったが、どれも対人戦であり、野生の魔物を想定した訓練は行われていなかった。
そして、今日は初めてその実戦訓練が行われる日であった。場所は王都からほど近い草原であり、王立学園が所有する訓練用の土地であった。特に恐ろしい魔物はいないため、安全に訓練を行える場所として認知されていた。
「なにもいないですね。これだけ広いとなると、魔物を探し出すだけでも大変ですわね」
ティアナがヤレヤレといった顔をしている。しかし、野生の動物の気配もないのは、さすがにおかしいのではないだろうか?何だか嫌な予感がする。
「先生、いつもこんなに生き物が居ないものなのですか?」
生き物の気配がしない草原に、生徒の一人がそう尋ねた。
「変ですね?こんなになんの生き物の気配を感じないのは初めてですね。まるで誰かが生き物を追い払っているかのようです」
先生は周囲を見回しているが、当然、俺のせいではない。さすがに授業の邪魔をするようなことはしない。他のみんなもそうだろう。何かがおかしい。
魔物と遭遇しなければ授業にならないと言うことで、俺達は草原のかなり奥の方まで入り込んだ。それでも生き物の気配はなかった。
いい加減に怪しいなと思い始めたころ、それは俺達の前に姿を現した。
そいつはヌッと、突然何もない草原の真ん中に出現した。その黒くて穢れた姿には見覚えがあった。
「あれって精霊じゃないの?何だか見覚えがあるんだけど」
「フェオ、私も同感ですわ。でも、あのときとは何かが違うような……」
【あれは、どうやら自らの意思であのような穢れた姿になっているようですね】
「ええ~!精霊にそんな汚れた考えを持った子はいないよ!みんな良い子だったもん」
フェオがピーちゃんの説を否定した。だが、そのナニカを見れば見るほど、ピーちゃんの説が正しいように思えた。
「それではあれは、精霊様ということなのですね?」
先生がフェオに尋ねた。当然先生は精霊に会ったことなどないだろう。それが本物かどうかを確認するすべはなく、精霊と同類の妖精のフェオに聞くより他なかった。
「多分精霊だと思うけど、あたしはそれを認めたくないわね」
自分たちの同類があのように醜く穢れてしまっていることを、どうしてもフェオは信じたくはないようだった。精霊は自己犠牲の精神が強い。以前のように、周りの迷惑になるくらいなら、消滅することを選ぶような種族なのだ。
俺達が驚愕のあまり、見つめていると、精霊の足下から一人の人間が現れた。こちらの人間には見覚えがあった。
「モーガン先生!なぜ、このようなところに!?」
モーガン・エメラルド。確かエメラルド公爵の何人かいる息子のうちの一人だったはずだ。現在は王立学園の高等部で教師をしているはずである。授業で何度か会ったことがあるが、そのときは特段変わったところはなく、そのイケメンな顔で女子生徒からは人気があった。もちろん、公爵家としての地位に惹かれた人達もかなりの数いたようではあるが。
「その問いに答える必要はないでしょう。今からここで、全員死ぬことになるのですから」
「あなた、一体何を言っているんですか」
困惑した表情で引率の先生達が尋ねていたが、当のモーガンは答える気はないようだった。
生徒達の間にも動揺が走った。そりゃあ皆殺し宣言をされればそうなるよな。まあ、それも含めての先の発言なのだろうが。
一部の全く動揺しない連中を見て、モーガンは苛立ちを見せた。
「随分と余裕がありますね。そちらに妖精がいるからですか?ですが、残念なことに、精霊と妖精では、精霊の方が格が上なのですよ。つまり、私が従えている精霊の方が強いということです!」
それはない。精霊と妖精は性格が違うだけで、全くの同格。だが、こちらの妖精が世界と繋がっているのに対して、相手側の精霊はすでに世界から切り離されている。そのため、その精霊の力は圧倒的に弱いものだった。
とはいっても、その辺の人間よりかは圧倒的に強いのではあるが。どうやらこのモーガンは、そのあたりの力の差を見通すほどの能力を持ち合わせていないようだった。
精霊の方もそれに気がついているのだろう。その動きを止めていた。
「どうしました?驚き過ぎて声もでませんか?ならばもっと面白いものを見せてあげましょう!」
そういうと、モーガンは手に持っている杖を振った。
「あっ」
エリオットが声を発したのも無理はない。モーガンが振った杖はエリオットの国にあった最強の杖と瓜二つであったからだ。
どうやらモーガンは精霊から杖をもらっているようだ。フェオの話を信じると、妖精の杖は魔法の威力を数万倍にすることができるらしい。これはひょっとするとまずいのかも知れない。
そう思ってフェオの方を見ると、特に気にすることなく、ワクワクした目でモーガンを見ていた。どうやら、あの精霊の杖はその程度の力しか持ち合わせていないようだ。
ひょっとしたら、モーガンの魔法が弱すぎて、何万倍にしたところでたかが知れているのかも知れない。いや、待てよ。威力を数万倍にしたら、消費する魔力も数万倍になるわけで、そんなものを普通の人が使ったら、魔力を全部使い果たして、死んでしまうんじゃないか?そして、それを防ぐための安全装置があの杖に組み込まれているのなら、その杖を使ったところで、たがか知れているということだ。
ゴゴゴ、と地面がゆれ、裂けた大地からゴーレムが出現した。ミスリルでコーティングされたゴーレムが。
エリオットのときよりも多少は大きいが、それだけである。完全な二番煎じであり、裏でエリオットの暗殺に絡んでいたのがエメラルド公爵だと証明するものだった。
「エリオット、あれ」
「ええ、ええ。何だか腹が立ちますね」
「心中お察しするよ」
ミスリルゴーレムを見たことがない人達が驚きの声をあげたが、一度見ている勢は全くの無反応だった。
一方のモーガンは悦に入っているようで、一人高笑いしていた。
「どうします、あれ?」
「まあ、破壊するしかないかな。エリオットとアーサーの剣はミスリルだよね?なら余裕で切り裂けるよね」
「そうですね。どうせ表面だけでしょうし、ミスリルの板を切ることくらい、たいした問題ではないでしょう」
エリオットが冷静に言った。
「ええ?あのミスリルは表面だけなんですか?」
アーサーが驚いて聞いてきた。うん、そうなんだ。あれ、表面だけなんだ。
「中までミスリルだったら、いくらかかると思いますか?うちならそれをできなくもないですが、落ち目のエメラルド公爵家にそんな金銭的な余裕はないと思いますよ。それに、あれだけの大きさですしね」
「た、確かに」
アーサーはまだ少し半信半疑であったが、納得はしたようである。
ゆっくりと動き出したゴーレムに対し、エリオットとアーサーが剣を抜いた。二人に任せて置いても大丈夫そうだが、念のため、俺も参戦することにした。
「エクス、力を貸してくれ」
「任せて、シリウス!」
一陣の光となったエクスが俺の周囲を漂ったかと思うと、次の瞬間には、例の物語でよく描かれている、聖王が身につけていたものとそっくりの鎧を身にまとっていた。
ざわめく周囲。ちらほらと聖王様!という声が聞こえてくる。ティアナに至っては、それはもう輝かんばかりの目でウットリとこちらを見ていた。
うん、サッサと終わらせよう。これ以上目立つのはこりごりが。
「エリオット、アーサー、とりあえず邪魔なんで片付けておくとしよう」
「分かりました、師匠!」
二人は楽しげに答えた。師匠呼びは止めるように言ったはずなのだが、どうやら聞き入れてはくれないようである。
エリオットとアーサーはミスリルゴーレムもどきに接近すると、いとも簡単にその両腕を切断した。両腕がなくなり、がら空きになった胴体部分を聖剣エクスカリバーがアッサリと縦半分に真っ二つにした。余裕だな。その広報では、例のモーガンが「バカな!」とか言っている。
俺達にアッサリ倒されたゴーレムは早くも土に帰っていた。ミスリルは勿体ないので、後で回収しておこうと思う。
「くそっ!おい、どうなっているんだ!?この杖はこの世界を支配することができる最強の杖じゃなかったのか!」
【それは紛れもなく最強の杖。あなたが弱いだけ】
「なんだと、この邪精霊が!」
ついには仲間割れを始めた。二人の信頼関係などというものは、どうやら始めからなかったようである。
「どうしてこんなに上手く行かないんだ!あれだけの器量のある女が傍にいるのに、手を出すことさえしないとは。シリウス、お前は女を誑かすのが得意なのではなかったのか!」
どこ情報だよ、それ。誰から聞いたのかは存ぜぬが、とんだ濡れ衣である。ひょっとして、ステラ嬢のことを言っているのか?
確かにステラ嬢はかなりの器量があるかも知れないが、ティアナには遠く及ばない。ステラ嬢の慎ましやかな胸では、ティアナの素晴らしい胸には到底及ばないのだよ、モーガン!お前は何も分かっていない!
「シリウスがスッチーに手を出すわけないじゃん。だっておっぱいが小さいもんね!」
「くっ!」
モーガンが呻いた。俺は早いところ、このつまらない騒動を片付けようと強く思った。あとでフェオにはこの上なくいやらしいお仕置きをしようと思う。女性陣からの視線が痛い。
「ゴーレムで穏便に片付けようと思っていたが、どうやら苦しんで死にたいらしいな」
さっきの失態でまだ懲りていなかったのか。自分の力ではどうしようもないから、事前に準備を整えていたのではなかったのか。これはこの後の攻撃も大したことはなさそうだ。
何やら魔法を唱え始めたモーガン。どうやら彼は気がついていないらしい。
「砕け散るがいい!バーストフレア!」
確かにステラ嬢はその辺のお嬢様とは一線を画するほどの美貌を備えてはいたが、貴族ではない彼女は、どう頑張っても本物のお嬢様と同じようには、美容にお金をかけることはできなかった。そのため、ハッキリと言わせてもらえれば、本物のお嬢様で、かつ、美貌を兼ね備えている完全体のお姫様であるティアナには敵うことはなかった。それを間近で毎日見ている俺にとっては、特にステラ嬢に惹かれることはなかった。
「シリウスは本当にいい奥さんをもらっているな」
「エリオット、お前には絶対にやらん」
俺がグワッと睨み付けると、エリオットは両手を上げて降参のポーズをとった。
「ほんと、二人はおしどり夫婦ですわね。羨ましいですわ」
クスクスとマリア嬢が笑った。
「マリアの言う通りですね。勉強も、魔法も超一流となれば、誰も敵う人はいませんよ」
ルイスの言う通り、小さい頃から俺と一緒に色々なやらかしをしてきたティアナは、今では知識も魔法もかなりのレベルにまで到達していた。
十歳になってようやく魔法を使えるようになったものと比べると雲泥の差があった。俺の創った魔法を覚えまくったこともあって、魔力量も魔法の種類もとても豊富だ。今更追いつけるような人はいないだろう。ティアナよりも優れた女性がいるとは思えなかった。
ステラ嬢もルイスと同じことを思っているのだろう。一緒になって笑っていた。
高等部になると、学園の外での授業も増えてきた。城下町に出て流通関係を学んだり、人の雇い方、使い方などのレクチャーも受ける。人の上に立つにはどうしても学園の机の上の勉強だけでは足りず、実践経験が必要になってくるのだ。
そんな中、今日は郊外にでて、オリエンテーションを兼ねた実戦形式の戦闘訓練が行われた。
これまでも闘技場での剣術や魔法の訓練はあったが、どれも対人戦であり、野生の魔物を想定した訓練は行われていなかった。
そして、今日は初めてその実戦訓練が行われる日であった。場所は王都からほど近い草原であり、王立学園が所有する訓練用の土地であった。特に恐ろしい魔物はいないため、安全に訓練を行える場所として認知されていた。
「なにもいないですね。これだけ広いとなると、魔物を探し出すだけでも大変ですわね」
ティアナがヤレヤレといった顔をしている。しかし、野生の動物の気配もないのは、さすがにおかしいのではないだろうか?何だか嫌な予感がする。
「先生、いつもこんなに生き物が居ないものなのですか?」
生き物の気配がしない草原に、生徒の一人がそう尋ねた。
「変ですね?こんなになんの生き物の気配を感じないのは初めてですね。まるで誰かが生き物を追い払っているかのようです」
先生は周囲を見回しているが、当然、俺のせいではない。さすがに授業の邪魔をするようなことはしない。他のみんなもそうだろう。何かがおかしい。
魔物と遭遇しなければ授業にならないと言うことで、俺達は草原のかなり奥の方まで入り込んだ。それでも生き物の気配はなかった。
いい加減に怪しいなと思い始めたころ、それは俺達の前に姿を現した。
そいつはヌッと、突然何もない草原の真ん中に出現した。その黒くて穢れた姿には見覚えがあった。
「あれって精霊じゃないの?何だか見覚えがあるんだけど」
「フェオ、私も同感ですわ。でも、あのときとは何かが違うような……」
【あれは、どうやら自らの意思であのような穢れた姿になっているようですね】
「ええ~!精霊にそんな汚れた考えを持った子はいないよ!みんな良い子だったもん」
フェオがピーちゃんの説を否定した。だが、そのナニカを見れば見るほど、ピーちゃんの説が正しいように思えた。
「それではあれは、精霊様ということなのですね?」
先生がフェオに尋ねた。当然先生は精霊に会ったことなどないだろう。それが本物かどうかを確認するすべはなく、精霊と同類の妖精のフェオに聞くより他なかった。
「多分精霊だと思うけど、あたしはそれを認めたくないわね」
自分たちの同類があのように醜く穢れてしまっていることを、どうしてもフェオは信じたくはないようだった。精霊は自己犠牲の精神が強い。以前のように、周りの迷惑になるくらいなら、消滅することを選ぶような種族なのだ。
俺達が驚愕のあまり、見つめていると、精霊の足下から一人の人間が現れた。こちらの人間には見覚えがあった。
「モーガン先生!なぜ、このようなところに!?」
モーガン・エメラルド。確かエメラルド公爵の何人かいる息子のうちの一人だったはずだ。現在は王立学園の高等部で教師をしているはずである。授業で何度か会ったことがあるが、そのときは特段変わったところはなく、そのイケメンな顔で女子生徒からは人気があった。もちろん、公爵家としての地位に惹かれた人達もかなりの数いたようではあるが。
「その問いに答える必要はないでしょう。今からここで、全員死ぬことになるのですから」
「あなた、一体何を言っているんですか」
困惑した表情で引率の先生達が尋ねていたが、当のモーガンは答える気はないようだった。
生徒達の間にも動揺が走った。そりゃあ皆殺し宣言をされればそうなるよな。まあ、それも含めての先の発言なのだろうが。
一部の全く動揺しない連中を見て、モーガンは苛立ちを見せた。
「随分と余裕がありますね。そちらに妖精がいるからですか?ですが、残念なことに、精霊と妖精では、精霊の方が格が上なのですよ。つまり、私が従えている精霊の方が強いということです!」
それはない。精霊と妖精は性格が違うだけで、全くの同格。だが、こちらの妖精が世界と繋がっているのに対して、相手側の精霊はすでに世界から切り離されている。そのため、その精霊の力は圧倒的に弱いものだった。
とはいっても、その辺の人間よりかは圧倒的に強いのではあるが。どうやらこのモーガンは、そのあたりの力の差を見通すほどの能力を持ち合わせていないようだった。
精霊の方もそれに気がついているのだろう。その動きを止めていた。
「どうしました?驚き過ぎて声もでませんか?ならばもっと面白いものを見せてあげましょう!」
そういうと、モーガンは手に持っている杖を振った。
「あっ」
エリオットが声を発したのも無理はない。モーガンが振った杖はエリオットの国にあった最強の杖と瓜二つであったからだ。
どうやらモーガンは精霊から杖をもらっているようだ。フェオの話を信じると、妖精の杖は魔法の威力を数万倍にすることができるらしい。これはひょっとするとまずいのかも知れない。
そう思ってフェオの方を見ると、特に気にすることなく、ワクワクした目でモーガンを見ていた。どうやら、あの精霊の杖はその程度の力しか持ち合わせていないようだ。
ひょっとしたら、モーガンの魔法が弱すぎて、何万倍にしたところでたかが知れているのかも知れない。いや、待てよ。威力を数万倍にしたら、消費する魔力も数万倍になるわけで、そんなものを普通の人が使ったら、魔力を全部使い果たして、死んでしまうんじゃないか?そして、それを防ぐための安全装置があの杖に組み込まれているのなら、その杖を使ったところで、たがか知れているということだ。
ゴゴゴ、と地面がゆれ、裂けた大地からゴーレムが出現した。ミスリルでコーティングされたゴーレムが。
エリオットのときよりも多少は大きいが、それだけである。完全な二番煎じであり、裏でエリオットの暗殺に絡んでいたのがエメラルド公爵だと証明するものだった。
「エリオット、あれ」
「ええ、ええ。何だか腹が立ちますね」
「心中お察しするよ」
ミスリルゴーレムを見たことがない人達が驚きの声をあげたが、一度見ている勢は全くの無反応だった。
一方のモーガンは悦に入っているようで、一人高笑いしていた。
「どうします、あれ?」
「まあ、破壊するしかないかな。エリオットとアーサーの剣はミスリルだよね?なら余裕で切り裂けるよね」
「そうですね。どうせ表面だけでしょうし、ミスリルの板を切ることくらい、たいした問題ではないでしょう」
エリオットが冷静に言った。
「ええ?あのミスリルは表面だけなんですか?」
アーサーが驚いて聞いてきた。うん、そうなんだ。あれ、表面だけなんだ。
「中までミスリルだったら、いくらかかると思いますか?うちならそれをできなくもないですが、落ち目のエメラルド公爵家にそんな金銭的な余裕はないと思いますよ。それに、あれだけの大きさですしね」
「た、確かに」
アーサーはまだ少し半信半疑であったが、納得はしたようである。
ゆっくりと動き出したゴーレムに対し、エリオットとアーサーが剣を抜いた。二人に任せて置いても大丈夫そうだが、念のため、俺も参戦することにした。
「エクス、力を貸してくれ」
「任せて、シリウス!」
一陣の光となったエクスが俺の周囲を漂ったかと思うと、次の瞬間には、例の物語でよく描かれている、聖王が身につけていたものとそっくりの鎧を身にまとっていた。
ざわめく周囲。ちらほらと聖王様!という声が聞こえてくる。ティアナに至っては、それはもう輝かんばかりの目でウットリとこちらを見ていた。
うん、サッサと終わらせよう。これ以上目立つのはこりごりが。
「エリオット、アーサー、とりあえず邪魔なんで片付けておくとしよう」
「分かりました、師匠!」
二人は楽しげに答えた。師匠呼びは止めるように言ったはずなのだが、どうやら聞き入れてはくれないようである。
エリオットとアーサーはミスリルゴーレムもどきに接近すると、いとも簡単にその両腕を切断した。両腕がなくなり、がら空きになった胴体部分を聖剣エクスカリバーがアッサリと縦半分に真っ二つにした。余裕だな。その広報では、例のモーガンが「バカな!」とか言っている。
俺達にアッサリ倒されたゴーレムは早くも土に帰っていた。ミスリルは勿体ないので、後で回収しておこうと思う。
「くそっ!おい、どうなっているんだ!?この杖はこの世界を支配することができる最強の杖じゃなかったのか!」
【それは紛れもなく最強の杖。あなたが弱いだけ】
「なんだと、この邪精霊が!」
ついには仲間割れを始めた。二人の信頼関係などというものは、どうやら始めからなかったようである。
「どうしてこんなに上手く行かないんだ!あれだけの器量のある女が傍にいるのに、手を出すことさえしないとは。シリウス、お前は女を誑かすのが得意なのではなかったのか!」
どこ情報だよ、それ。誰から聞いたのかは存ぜぬが、とんだ濡れ衣である。ひょっとして、ステラ嬢のことを言っているのか?
確かにステラ嬢はかなりの器量があるかも知れないが、ティアナには遠く及ばない。ステラ嬢の慎ましやかな胸では、ティアナの素晴らしい胸には到底及ばないのだよ、モーガン!お前は何も分かっていない!
「シリウスがスッチーに手を出すわけないじゃん。だっておっぱいが小さいもんね!」
「くっ!」
モーガンが呻いた。俺は早いところ、このつまらない騒動を片付けようと強く思った。あとでフェオにはこの上なくいやらしいお仕置きをしようと思う。女性陣からの視線が痛い。
「ゴーレムで穏便に片付けようと思っていたが、どうやら苦しんで死にたいらしいな」
さっきの失態でまだ懲りていなかったのか。自分の力ではどうしようもないから、事前に準備を整えていたのではなかったのか。これはこの後の攻撃も大したことはなさそうだ。
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「砕け散るがいい!バーストフレア!」
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※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。
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