セカイの果てのハテまでキミと共ニ誓ウ

葛城兎麻

文字の大きさ
14 / 26
第一章・スフェルセ大陸 一節・北国

十二話:閑寂なる夜と朝の迎え

しおりを挟む
 北国、首都セアン。

 現時刻、夜である。

 ゆっくりと速度を落として、なおもまだ振り続ける雪と、街並みを淡く照らす薄橙の街灯。その光景は何とも幻想的だ。リシェントは三人の反応が気になって、各々の顔つきやその様子を伺う。

 ノエアの表情は淡々と変わらず、周りを警戒しているかのように眉を潜めて見渡している。治安はそこそこいい方なので警戒する必要はないのではとも思ったが、彼の癖だとも考えられたのであえて言わないでおく。

 ミエルは雪の地面を軽々とスキップして飛ぶように進む。単純に楽しんでいて、薄緑のツインテールが元気よく靡いた。

 レフィシアが物珍しく当たりの建物達を見渡しているのは、セアンとベルスノウルでは建物の造りに違いがあるからだろう。
 北国の中でも一位を争う程の極寒地である首都セアンでは、様々な工夫が施されている。建物に煉瓦が使われている理由は、煉瓦に微弱程度の火の魔法付与が施されているからだ。そんな煉瓦達で造られた建物達は、わざわざ暖房を使わなくても生活に支障がでないほどに建物内の気温が安定している。

 所で、「宿をどうするか」という当たり前の疑問を投げつけてきたノエアに一同は頭を悩ませた。
 リシェントには一軒家の自宅があるが、両親は住み込みの仕事をしているので実質一人暮らしなのには変わりはない。三人暮らしの身なのでそれなりに広く部屋も空いている。彼らには様々な礼がしたいと心の中で首を縦に頷いて、三人を自宅に招く事を提案した——。


 *



「でっきたー! 勝手に食材お借りして作ったよー!」

「すっ、ごい」


 食卓に置かれたのはパン、クリームシチュー、サラダのシンプルな三点だが見た目はとてもよく整っている。リシェントはキッチンでミエルの調理の様子を伺っていたが自分が入る隙もなくテキパキとした様子だった。
 レタスを手でちぎられ、にんじん、きゅうりをスライス、ミニトマトは半分にして混ぜ込んだものに生ハムで作られた薔薇の花を添えている。ドレッシングは柑橘系で、見た目も華やかでまるでブーケのようなサラダ。
 クリームシチューといえば肉は一口大に切られ、玉ねぎ、にんじん、じゃがいも。ありふれた作り方だが、隠し味(秘密)を使っているのかリシェントの知るクリームシチューの味とはほんのりと違う気がした。まだ暖かいクリームシチューを木のスプーンで味わい、その美味しさに胸を躍らせていると、隣に座るレフィシアも目を丸くしているようだ。



「! おいしいね」

「よかったー! あたしちょっと不安だったんだー!」

「不安?」

「シアって元とはいえ王族でしょ? 口に合うかなーと!」


 確かに王族となれば出される料理の質が違うだろう。食材も品質も良く料理人もさぞ技術が高いのが目に見えるように浮かぶが、レフィシアはクリームシチューを口に含みながら首を横に振った。


「んーと、王族用に出される料理は豪華なものだけど、足りないんだよ」

「へ!? 足りない!? 何が!?」

「愛情、かな?」

「成る程! 納得!」


 二人は平和的会話を繰り広げているが、正直理解には及ばなかった。それはどうやらノエアも同じくして思わず目が合う。ブルーグレーの瞳は何時もより鋭利だが、何故かリシェントはそのブルーグレーに覚えがあるような気がした。どうやらここも思い出せない所の一部らしく、悶々とした思いを秘めながらクリームシチューを食べ続けた。


「所でお前、俺に頼みたい事があるって言ったな」


 半分くらい食べ終わった所で左肘をテーブルについたノエアが面倒くさそうに問う。確かに、そんな約束をしていたのを思い出す。


「前々から私の中に何かが欠落しているような気がしているの。魔法の類かも知れない。ノエアなら分かる?」

「…………さあな」


 隠していても意味はない。包み隠さずにリシェントのワインレッドより明るめの眼は真っ直ぐにノエアのブルーグレーを捉えた。
 リシェントから見てノエアは嘘をついていない。実際、温かなハーブティーを啜りながら眼は泳がす事なく真っ直ぐ。だが、リシェントの直感は目の前に広がる光景を強く否定した。
 テーブルに隠れるように膝の上で強く握り拳を作り、吐きそうになった怒りを精一杯押さえ込む。自身の身に異常があるのを自覚していて、知りたいのに教えてもらないのは時に残酷である。だがノエアの反応からするに、これ以上問いた所で答えてはくれないのは火を見るより明らかだ。堪え続けて無言になっていたのを自覚する前に、レフィシアが木のスプーンを一旦置いてひと呼吸。


「ノエア。君との付き合いはまだ全然浅いけど、君の方針がその答えなのは、分かるよ。でもね、何時かはちゃんと話してほしい。それがきっとリシェントの為になる」

「……悪いが、ちゃんとした約束はできない。だが、それにはオレもリシェントも、死なない事が前提になるぞ」

「大丈夫だよ。手の届く範囲は、全て俺が守る」

「クソ……説得力があるから困る」


 憎まれ口を叩くようにぶつぶつと呟くが、ノエアのこれに怒りはない。


「ノエアとシアって仲いいよね~!」

「よくねーよ!!」


 他人事のようにミエルが顔を緩ませて見ていると、ノエアの低めの声によるツッコミが部屋中にこだました。



 *



 北国の朝はしんと静けさに包まれている。鳥一匹、虫一匹鳴かず時間の感覚が狂う時もある程だ。そんな状況で誰よりも早く起床し身支度を済ませたリシェントはミエルが起きてくるまで朝飯の簡単な支度まで終わらせていた頃、玄関扉のノック音が二回。こんな早朝に一体誰がという疑問こそ残るが、とりあえずまずは出てみてからだ。

 扉の鍵を開けて、様子を伺うように慎重に開く。


「……はい」


「……失礼。私の名はロヴィエド・シーズィ。北国が誇る我が軍隊の総大将を務めさせて頂いている」


 ショートヘアの黒髪が小さく靡き、ずれかかった黒縁の眼鏡を整えて一礼。北軍の白に近い薄い灰の色をした軍服をキッチリと整えて、複数の勲章が朝日に当てられて光り輝く。歳は若いが彼が北軍の総大将というだけあるのが一目で分かった。
 ロヴィエドはリシェントの姿を見るや、上瞼を引きつらすような目つきで瞬きを数回繰り返す。まるで存在を疑ってかかるような言動だったが、リシェントは昨晩のノエアの事を思い出してひたすら我慢を続けた。気づけばロヴィエドはリシェントの横を通り玄関に侵入。


「我が友! 出てくるのだ!」


 ロヴィエドは爽やかに、そして高らかに声を上げた。まだ人もまちまちと出歩く程度の静けさに包まれる朝にこの声は余計に煩く感じる。リシェントは思わず身体を逸らし一歩引き下がっていたが、近所迷惑になるならばここは下がる訳にはいかなかった。


「あの。近所迷惑になりますので、声は控えめにお願いします……」

「あ、ああ。申し訳ない。どうも私は友と接する時には声が大きくなるらしくてな」


 相手は北軍総大将。身分差を承知の上で恐る恐ると顔色を窺って声をかけたら、すんと元の声量に戻ったようだ。
 ほっと胸を撫で下ろして安心していると、廊下から寝起きのレフィシアがゆったりとした足取りでやってくる。まだ睡魔から脱しきれていないのかとろんと眼が垂れ気味で、声の底にまだ眠気がたゆたっている。


「……ん。ロヴィエド……朝から何やってるの」

「こちらの家に入った情報が来てな!」

「声、声」


 レフィシアを見つけるや再び声のボリュームが大きくなる。リシェントに再度指摘され元に戻した後、ロヴィエドは咳払いで誤魔化してから家に上がり込んだ。
 流石に寝起きの状態で話し込む訳にはいかないので、レフィシアはノエアとミエルを起こしに向かいながら支度。リシェントはハーブティーを用意してロヴィエドを招く。「お口に合うか分かりませんが」というありきたりな台詞を述べてカップを置くと、迷う事なくロヴィエドはカップの取っ手を左手につまんでとった。
 レフィシアの時は別であったが、初見の人物と二人きりはどうも気まずく感じて落ち着かない。ロヴィエドの斜め右に位置する椅子に座り石のように身体を硬直させていると、ようやく三人が身支度を整えやってきた。


「ノエア・アーフェルファルタだ。宜しく頼む」

「ミエリーゼ・ウィデアルインと申します。お見知り置きくださいませ」



 ノエアがごく普通の挨拶と共に一礼する中、ミエルだけは違う。
 背筋はそのままに、片足を斜め後ろの内側に引きながら、もう片方の足の肘を軽く曲げる。ドレスの代わりにスカートの両端を軽く持ち上げて、とても上品である様はリシェントだけではなくノエアですら二度見した。


「お前……その猫被りようはどうした」

「猫被りじゃないもん! 貴族として当然だもん! ねっレフィシア!」

「そうだね。挨拶も礼の仕方も完璧だよ」

「流石ウィデアルイン家だ。私はロヴィエド・シーズィ。こちらこそ、以後お見知り置きを」



 その誠意に応えるようにロヴィエドも右足を引き左腕を腹部に水平に当てると、右腕は後ろに回して軽くお辞儀をした。
 さて、問題の用件であるが、ロヴィエドは再度眼鏡の角度を整えるとその視線はリシェントに向けられる。恐らくは件について無関係の人間に話していいものかどうかを躊躇っているのだろうが、その考えを見通したノエアがフォローに入る。


「あ。そうだ。大将。こいつ……あー、リシェントも討伐軍参加希望だってよ。推薦頼む」

「…………分かった。必要な手続きはこちらでしておこう」
   

 何故か消化しきれないと言わんばかりの表情を作っていたが、頷いたならばこれで関係者となるだろう。全員が席についた所で再度ハーブティーを口に含んで味わってから、ロヴィエドは話をしはじめた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

公爵令嬢は結婚式当日に死んだ

白雲八鈴
恋愛
 今日はとある公爵令嬢の結婚式だ。幸せいっぱいの公爵令嬢の前に婚約者のレイモンドが現れる。 「今日の結婚式は俺と番であるナタリーの結婚式に変更だ!そのドレスをナタリーに渡せ!」  突然のことに公爵令嬢は何を言われたのか理解できなかった。いや、したくなかった。 婚約者のレイモンドは番という運命に出逢ってしまったという。  そして、真っ白な花嫁衣装を脱がされ、そのドレスは番だという女性に着させられる。周りの者達はめでたいと大喜びだ。  その場所に居ることが出来ず公爵令嬢は外に飛び出し……  生まれ変わった令嬢は復讐を誓ったのだった。  婚約者とその番という女性に 『一発ぐらい思いっきり殴ってもいいですわね?』 そして、つがいという者に囚われた者の存在が現れる。 *タグ注意 *不快であれば閉じてください。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

腹に彼の子が宿っている? そうですか、ではお幸せに。

四季
恋愛
「わたくしの腹には彼の子が宿っていますの! 貴女はさっさと消えてくださる?」 突然やって来た金髪ロングヘアの女性は私にそんなことを告げた。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

処理中です...