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風邪
風邪1/3
しおりを挟む――あー、久しぶりの体調不良です。
久しぶりに寒い地域に行って帰ってきたら、突然の悪寒に襲われてこれはと思ったら大正解。風邪である。
家のベッドに横たわって汗ばんだ額に手の甲を当てる。当然だが全く冷たくない。
久しぶりに風邪を引いたせいか、考えがどんどんネガティブになっていく。
――女性が絡むと本当についていません。
寒い地域への任務へは1人で行くはずだった。
最初の災難は、受付からだった。
受付に並んでいると、何処からかリオルド様が湧いて出てきた。
「イリアー!偶然だな!依頼を受けに来たのか?俺も行く」
「いえ、1人で行きます」
「2人の方が安全だ」
そう言って、手に持っていた依頼書を取られてしまった。
依頼書を取り返す前に、受付の順番が回ってきてしまいリオルドが受付に手渡した。
「あ!リオルド様!お元気でしたか?」
若い女性の受付は、リオルドが受付に来た途端声がかん高くなり、今日1番であろう笑顔を向ける。イケメンへの猛アピールをしているが、リオルドは受付に目もくれずイリアしか見ていない。
返事が無くてもへこたれない様子。
「依頼ですね!お一人ですか?」
隣にいるイリアはもはや空気にでもなったのか、見えていないように扱われる。
「いえ、私が1人で受ける予定の依頼なのですが」
「俺も行く!」
「ご同伴の方がいらっしゃるのですね。リオルド様いかがされますか?」
イリアが自分の依頼だと言っているのだが、全く聞き入れてくれない。リオルドも受付の女性を相手にしていないが、受付の女性もイリアを相手にしていない。そして、イリアもリオルドを相手にしていないので綺麗に矢印三角形の形になり交わらない。
そんなこんなで、リオルドを説得していると遠くからリオルドを呼ぶ声がした。
イリアがじとりと睨むと途端に明後日の方を見る。
「……リオルド様。おかえりください。ご心配いただくことは大変嬉しいですが……。外で呼んでますよ」
「いや!人違いだ」
「副団長ー!!!どこですかー!リオルド副団長ーーーー!!!ふーくーだーんーちょーーーーーー!!!」
「………………」
「………………」
冒険者組合の外から聞こえてくる声が大きく、リオルドの地名度は高い方なので建物の中にいる人達から視線が集まる。
ぐっと黙ったリオルドは、耳と尾があれば垂れ下がっているだろう。
しょんぼりしてイリアに行きたいと呟いた。
「だめです。仕事を抜け出してきたのでしょう」
「……でも、……行きたい」
「…………はぁ……。またお休みの際にでも、ご一緒しましょう」
「ん!約束だからな!」
「はい。じゃあ、早く戻ってあげてください」
「ぅ、うむ……」
しょんぼりと項垂れる姿を見て、何だか罪悪感をほんのり感じたイリアは次に一緒に行こうと誘うとすぐさま元気になった。
しかし、やはり離れ難くゆっくりゆっくりと思い足取りで、時折後ろを振り返るリオルドを見送った。
「えー!リオルド様帰ってしまわれるんですか?また来てくださいねー!」
受付の女性が手を振るが、当然全く見向きもしないで出て行った。
そんな扱いをされた反動がイリアにくる。
いつも通りの展開であった。
「あの、さっきの態度どうかと思うんですけど」
「何がでしょうか」
眉間に皺を寄せて不機嫌を隠す事なくむけてくる。
「リオルド様は、ああ言った方なので、気にされない方が良いですよ」
「いや!違うから!あなたのリオルド様への態度」
てっきり冷たくされた事への不満であると思ってフォローしたら、見当違いであった。
自然にマウントをとってしまったようで、更に機嫌を悪くさせてしまった。
「はぁ……。あの、その依頼受けますので、手続きお願いします」
「ちっ」
いつもこんな感じなので、基本気にしないイリア。何も悪いことはしていないので、下手にも出ない。
淡々と仕事をしてもらうように促した。
舌打ちは聞こえないふりをする。
少しして受領が終わり、説明を受けたがかなり雑であったので3回も聞き返してしまった。
態度が悪い受付は何処にでもいるし、組合ももう少し教育をするべきであると思うイリアだった。
そんなこんなで、これが一つ目の災難。
二つ目は、現地に行ってから案内人が女性だった。
現地で用意してくれる物に追加の防寒具などがあったが、案の定用意されていなかった。
イリアは今までの経験上、装備品や食料など命に関わる物は全て自分で用意をしている。こういった不足の事態が多々ある為だ。
案内の女性が何か性格に難があるという訳ではないが、何せおっちょこちょい。
用意されている物は忘れる。
目的地までの案内で道に迷う。
迷った先でモンスターに遭遇して怪我をしてしまい、そのフォローもする羽目になった。
なんやかんやで何とか目的を達成して、途中の村で一泊してから帰ろうと宿をとった。
そしてこれからが三つ目。
何でか外から鳥が、窓ガラスと突き破って入ってきて、部屋は極寒。
同じ宿に泊まっていた鳥使いが、外でウィンタルバードという極寒の地域にしか生息していないモンスターと契約しようと呼び寄せていたらしい。
天候が悪く、モンスターが座標を見失ったのか、魔力量が多いイリアに惹かれたのかは定かではないが傍迷惑である。
「すみませんでした!あの!その鳥!私が呼びました」
「そうですか」
――こんな日に呼ばなくても……。
呼んだウィンタルバードはガラスを突き破った際に怪我をしてしまい、イリアが魔法で治してあげた。
そのせいか、呼び寄せた本人の元へ行こうとせず、ずっとイリアの肩に留まっている。ウィンタルバードは羽ばたくと空気中の水分が凍るくらい、体から冷気を発している。肩に留まっているだけで寒い。体が、白から薄い水色がかった20㎝ほどの美しい鳥だ。契約をしてしまえば寒さは感じる事はないのだが、イリアが呼んだ訳では無いので契約をするつもりはない。
「この子は契約するつもりが無いようなので、またの機会に挑戦してみて下さい」
肩に留まっていたウィンタルバードを手に乗らせ、高く上げると空へ羽ばたいていった。
頭上をひと回りして、お礼なのかひと鳴きして帰って行った。
外からの風が吹き込む部屋に戻る訳にもいかず、鳥使いの女性と宿主に掛け合うとあいにく空いている部屋が倉庫しかないと言われた。仕方なく了承する。その女性が宿代を代わりに払ってくれたが暖房設備が無く為寒い寒い。
女性の部屋を譲れなんても言える訳がなく、小さな火を魔法でつけて暖をとったが寝落ちしてしまい帰ってきてから案の定風邪をひいた。
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