一から剣術を極めた少年は最強の道を征く

朝凪 霙

文字の大きさ
2 / 16
第一章 『少年の革新》

第一章1  『絶望に変わる瞬間』

しおりを挟む


「フッ! ハッ! ヤッ!」

 昼ごはんを食べたコウは、皿洗いをしてから、剣を振ることに集中していた。
 一振り一振り、腰や腕などの身体からだ全体を使いながら振っていく。頭の中では、実戦のイメージされていた。


「ふぅ――っ」

 一度、剣を動かす手を止め、コウは近くにあったタオルで汗を拭う。そして、ほっと一息をつきながら身体を休める。
 すると、

「おつかい頼まれてくれないー?」

「――分かった!」

 コウの母から声がかかり、コウはおつかいを頼まれることとなった。
 野菜を色々買ってきて欲しいようなので、少し歩いた先にある市場まで行くことにする。


 剣などの武器を持つことは禁止されていないため、腰に剣を装備させた状態で、市場まで買い物しに行くことに決めた。
 おそらく、コウが帰ってくるときには日がかなり沈んでいるだろう。

「行ってきます!」

 コウは家族に向けて声高らかに言ってから、市場にへと向かった。


 * * *


「少し遅くなったか……」

 コウが帰り道を歩き始めてから少し経つ頃には、夕日が地平線にかかっていた。買い物袋を提げるコウは、急ぎ足で歩く。

 ……暗くなる前には家に着いていたいな。

 ――ドクン――

「――っ‼︎」

 心の中で呟いている最中に、コウは何かを感じ取る。
 あまりにも突然の感覚に、思わず買い物袋を落としてしまい、コウはその買い物袋をもう一度掴み直そうとする。

 だが――、

 ――ドクン――

「――は……っ‼︎」

 今度こそ何かがおかしかった。
 まるで何かが、コウに訴えかけているかのような、不思議で辛い感覚。
 訴えかけてくる何かは、「家が危ない」ということを確かに訴えかけていた。

「今すぐ行け」と催促してくるかのように、その何かは胸の鼓動をはやらせる。
 コウは、袋を掴みかけた手を固く握り締め、買い物袋を置き去りにしながら走り出した。

 このどうしようもない焦りの気持ちを胸に抱えたまま、コウは急いで村に向かう。

 ――だが、運命には絶望が付き物だ。

 他でもないこのコウが、このことをよく知っている筈だった。


 *


 ――『地獄』

 まさに、この状況を表すのにはふさわしい言葉だった。それは、ただただ絶望と恐怖を感じさせる光景。

 コウが時神村に着いたときに見た光景は最悪だった。村中の家がボロボロに壊されていて、村のあちこちで損傷が見られる。

 そして――、

 辺りには、人のものだと思われる血痕が沢山あった。


「……嘘、だろ……」

 コウは、うめくように呟きながら、呆然として歩き始める。
 コウでも気づかないくらいに、コウの手や指は震えていた。

 *

 ――コウの村は、たった一体の魔物によって蹂躙されていた。
 コウは、その魔物の姿を見ながら驚愕する。遠くから見ているだけだが、震えが止まる気配はなかった。


 体長はコウを遥かに上回っていて、露出している身体はとても引き締まっている。筋肉が多く、腕や足などの全てが大きい。
 まるで黒い牛のような見た目をした魔物の鼻息は荒く、獰猛どうもうな視線を光らせていた。

 肩には大きな太刀が担がれていて、下劣で外道で不愉快な笑みを浮かべながら、村中を許可なく歩き回る。二足歩行をしていた。

 そして、その巨大な体には、赤い返り血がたくさん付着している。


「――ぁ」

 瞬間、コウの胸の内で恐怖を通り越した感情が湧き上がった。

 怒りでもあり、絶望でもあり、悲しみでもあり、悔しさでもある。
 胸で湧き上がり続ける激情は、その流れを止めない。それらは一つの感情にまとまらず、複雑に絡み合った。

「みん、な……」

 ……ユウキもハルトも、父さんと母さんも、村のみんなも、どうなってしまったんだ⁉︎
 ……もしかして、もしかして――、

「嫌、だぁ……」


 コウの平凡な日常が、『絶望』に変わった瞬間ときだった――。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく

タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。 最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

【完結】政略婚約された令嬢ですが、記録と魔法で頑張って、現世と違って人生好転させます

なみゆき
ファンタジー
典子、アラフィフ独身女性。 結婚も恋愛も経験せず、気づけば父の介護と職場の理不尽に追われる日々。 兄姉からは、都合よく扱われ、父からは暴言を浴びせられ、職場では責任を押しつけられる。 人生のほとんどを“搾取される側”として生きてきた。 過労で倒れた彼女が目を覚ますと、そこは異世界。 7歳の伯爵令嬢セレナとして転生していた。 前世の記憶を持つ彼女は、今度こそ“誰かの犠牲”ではなく、“誰かの支え”として生きることを決意する。 魔法と貴族社会が息づくこの世界で、セレナは前世の知識を活かし、友人達と交流を深める。 そこに割り込む怪しい聖女ー語彙力もなく、ワンパターンの行動なのに攻略対象ぽい人たちは次々と籠絡されていく。 これはシナリオなのかバグなのか? その原因を突き止めるため、全ての証拠を記録し始めた。 【☆応援やブクマありがとうございます☆大変励みになりますm(_ _)m】

処理中です...