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第二章 別れ
現状
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バァンと大きな音がした。
俺とクラフトさんは音がした方に向かう。
「クラフトさんこっちです。」
「ここは、ツァール様の部屋だ。」
俺は剣を構えて扉の前に立つ。
「行きますよ。」
「ああ、いつでも大丈夫だ。」
バァン
俺は扉を蹴り破る。そこにいたのは、左頬を腫らしたツァール様がいた。
「ツァール様⁉どうしたのですか⁉」
「あ、ああ、ちょっとな。」
どうやら、シェーン様に思いっきりぶっ叩かれたらしい。
「不甲斐ない私が悪いのだ。最初は普通に話していたんだがな、
言葉巧みに誘導されて私がしたことを話してしまった。
シェーンに言われてしまったよ。
「あんた、なにやってるのよ。それでも王様!!
あんたがしっかりしなくちゃ周りを危険にさらすのよ。
いつまで子どもでいるつもり⁉」ってね。痛い所をつかれたよ。」
ツァール様はひどく落ち込まれている様子だった。
「ディグニも知っているのだろう。私がしたことを。」
「ええ、まあ。」
「申し訳ありません。ツァール様。
口止めされていたのにも関わらず、王様たちに話してしまいました。」
「いや、いいんだ。それに、伝えて欲しくてお前に話したのかもしれない。
ずるいやつだな。私は。」
ツァール様は一向に顔をあげない。
「しまいには、フィロにまで愛想をつかされたよ。」
「フィロ様は今どこに?」
「城を出て行ってしまったよ。今傭兵たちに探させている。」
一足遅かったようだ。ツァール様は続ける。
「レーグル王国を見て幻滅したのだろう。ディグニはレーグル王国どう見る?」
俺は率直な意見を述べる。
「私は、表面上はうまくいっていると思います。
ただ、少し突いたら崩れてしまいそうな危うさを感じます。」
「そうだな。私もそう思う。前王は完璧にやり過ぎたのだ。
何もかも、失敗もせずに。故に国民は王を絶対と思っている。
その完璧な前王がそれに気づかなかったのは何でだと思う?クラフト。」
クラフトさんは考え込んでいたが、すぐにそれを止めた。
「申し訳ありません。私にはさっぱり。」
「身近過ぎたからだよ。だから気付かず放置した。
第三者から見ると非常に危うい状態だとわかるのに。
ただ、それで助かっていることもある。私は奴隷解放を進めていてね。
それが順調に進んでいる。まあ、部下は反対しているが、
これだけはどうしても達成させたくてね。
ただ、フィロはそれが気に食わないらしい。」
ツァール様は一呼吸おいた。
「フィロは人間以外の種族は排除しようとしていたからな。
モーヴェ王国を出る前にフィロに言われていたのだ。
”大変でしょうけど、頑張ってくださいね”と。
私はそれをただ単に激励しているのだと思って深く考えずに
”ああ、頑張るよ”といってしまったのだ。だが、それがまずかった。
あいつの言葉は足りなすぎる。あいつは大事なところを話さなくても、
察してくれると思っているのだ。そんなこと、無理だというのに。
そして、今の国の現状を見て幻滅したんだろう。
ただそこまでは、まだ許容範囲だったのだろう。
というか私が奴隷解放を推進しているとは思いもしなかったんだろうな。
城までやってきたのだから。
フィロにあった時違和感さえあったが
モーヴェにいた頃と同じように接してきたよ。
ただ、この現状が私の政策のせいだとわかると態度が一変したよ。」
ツァール様は遠い目をしている。
「フィロ様は何とおしゃっていたんですか?」
ツァール様はふっと鼻を鳴らし
「”あなたがそんなに無能だとは思いませんでした。
金輪際あなたを兄とは思わないことにします。”だと。」
口が開いて塞がらない。実の兄にここまで非情になれるなんて。
「さすがに堪えたよ。心が折れてしまいそうになった。
ダメだな、俺は。弟妹たちに幻滅させてしまった。不甲斐なくて仕方ないよ。」
ツァール様の言葉を聞いてクラフトさんが重い口を開いた。
「あなたは、よくやられています。
具体的に何をと言われると返す言葉はありませんが、これだけは断言できます。
今レーグル王国持っているのは、ツァール様あなたのお力だと。
他種族があんなに楽しそうに仕事をしているのは
ツァール様が王になってからですよ。
それと、厚かましいと存じますが、申し上げます。」
そういうと、クラフトさんの雰囲気が変わった。
「誰からも嫌われずに上に立てると思うなよ‼
誰に嫌われようが、誰に見放されようが、自分を信じて突き進め‼
自分が自分を信じなくてどうする⁉シャキっとしろ‼シャキっと‼」
心からの言葉。クラフトさんだからこそ響く言葉。
「私から申し上げたいことは以上です。」
クラフトさんの態度がコロコロ変わるのが
おかしかったのかツァール様は笑い出した。
「あははっ。ありがとう。元気が出たよ。
やっぱりクラフトが来てくれてよかった。心強いよ。
私もいつまでも子どものままではいられないな。」
ツァール様の目に力が籠る。
こういう時クラフトさんには敵わないと思ってしまう。
「実は、レンコル王子たちがどこにいるのか予想できていたんだ。
勇気がでなくてな。でも、もう決心したよ。
明日、レンコル王子たちを捕らえる。
力になってくれるか。クラフト。ディグニ。」
「「もちろんです。」」
「それが終わったら、シェーンとフィロとちゃんと話すよ。大忙しだな。」
さっきまでのツァール様はいなくなっていた。
「そろそろ夕食だな。先に食堂に向かっていてくれ。案内頼むよ、クラフト。」
俺とクラフトさんは音がした方に向かう。
「クラフトさんこっちです。」
「ここは、ツァール様の部屋だ。」
俺は剣を構えて扉の前に立つ。
「行きますよ。」
「ああ、いつでも大丈夫だ。」
バァン
俺は扉を蹴り破る。そこにいたのは、左頬を腫らしたツァール様がいた。
「ツァール様⁉どうしたのですか⁉」
「あ、ああ、ちょっとな。」
どうやら、シェーン様に思いっきりぶっ叩かれたらしい。
「不甲斐ない私が悪いのだ。最初は普通に話していたんだがな、
言葉巧みに誘導されて私がしたことを話してしまった。
シェーンに言われてしまったよ。
「あんた、なにやってるのよ。それでも王様!!
あんたがしっかりしなくちゃ周りを危険にさらすのよ。
いつまで子どもでいるつもり⁉」ってね。痛い所をつかれたよ。」
ツァール様はひどく落ち込まれている様子だった。
「ディグニも知っているのだろう。私がしたことを。」
「ええ、まあ。」
「申し訳ありません。ツァール様。
口止めされていたのにも関わらず、王様たちに話してしまいました。」
「いや、いいんだ。それに、伝えて欲しくてお前に話したのかもしれない。
ずるいやつだな。私は。」
ツァール様は一向に顔をあげない。
「しまいには、フィロにまで愛想をつかされたよ。」
「フィロ様は今どこに?」
「城を出て行ってしまったよ。今傭兵たちに探させている。」
一足遅かったようだ。ツァール様は続ける。
「レーグル王国を見て幻滅したのだろう。ディグニはレーグル王国どう見る?」
俺は率直な意見を述べる。
「私は、表面上はうまくいっていると思います。
ただ、少し突いたら崩れてしまいそうな危うさを感じます。」
「そうだな。私もそう思う。前王は完璧にやり過ぎたのだ。
何もかも、失敗もせずに。故に国民は王を絶対と思っている。
その完璧な前王がそれに気づかなかったのは何でだと思う?クラフト。」
クラフトさんは考え込んでいたが、すぐにそれを止めた。
「申し訳ありません。私にはさっぱり。」
「身近過ぎたからだよ。だから気付かず放置した。
第三者から見ると非常に危うい状態だとわかるのに。
ただ、それで助かっていることもある。私は奴隷解放を進めていてね。
それが順調に進んでいる。まあ、部下は反対しているが、
これだけはどうしても達成させたくてね。
ただ、フィロはそれが気に食わないらしい。」
ツァール様は一呼吸おいた。
「フィロは人間以外の種族は排除しようとしていたからな。
モーヴェ王国を出る前にフィロに言われていたのだ。
”大変でしょうけど、頑張ってくださいね”と。
私はそれをただ単に激励しているのだと思って深く考えずに
”ああ、頑張るよ”といってしまったのだ。だが、それがまずかった。
あいつの言葉は足りなすぎる。あいつは大事なところを話さなくても、
察してくれると思っているのだ。そんなこと、無理だというのに。
そして、今の国の現状を見て幻滅したんだろう。
ただそこまでは、まだ許容範囲だったのだろう。
というか私が奴隷解放を推進しているとは思いもしなかったんだろうな。
城までやってきたのだから。
フィロにあった時違和感さえあったが
モーヴェにいた頃と同じように接してきたよ。
ただ、この現状が私の政策のせいだとわかると態度が一変したよ。」
ツァール様は遠い目をしている。
「フィロ様は何とおしゃっていたんですか?」
ツァール様はふっと鼻を鳴らし
「”あなたがそんなに無能だとは思いませんでした。
金輪際あなたを兄とは思わないことにします。”だと。」
口が開いて塞がらない。実の兄にここまで非情になれるなんて。
「さすがに堪えたよ。心が折れてしまいそうになった。
ダメだな、俺は。弟妹たちに幻滅させてしまった。不甲斐なくて仕方ないよ。」
ツァール様の言葉を聞いてクラフトさんが重い口を開いた。
「あなたは、よくやられています。
具体的に何をと言われると返す言葉はありませんが、これだけは断言できます。
今レーグル王国持っているのは、ツァール様あなたのお力だと。
他種族があんなに楽しそうに仕事をしているのは
ツァール様が王になってからですよ。
それと、厚かましいと存じますが、申し上げます。」
そういうと、クラフトさんの雰囲気が変わった。
「誰からも嫌われずに上に立てると思うなよ‼
誰に嫌われようが、誰に見放されようが、自分を信じて突き進め‼
自分が自分を信じなくてどうする⁉シャキっとしろ‼シャキっと‼」
心からの言葉。クラフトさんだからこそ響く言葉。
「私から申し上げたいことは以上です。」
クラフトさんの態度がコロコロ変わるのが
おかしかったのかツァール様は笑い出した。
「あははっ。ありがとう。元気が出たよ。
やっぱりクラフトが来てくれてよかった。心強いよ。
私もいつまでも子どものままではいられないな。」
ツァール様の目に力が籠る。
こういう時クラフトさんには敵わないと思ってしまう。
「実は、レンコル王子たちがどこにいるのか予想できていたんだ。
勇気がでなくてな。でも、もう決心したよ。
明日、レンコル王子たちを捕らえる。
力になってくれるか。クラフト。ディグニ。」
「「もちろんです。」」
「それが終わったら、シェーンとフィロとちゃんと話すよ。大忙しだな。」
さっきまでのツァール様はいなくなっていた。
「そろそろ夕食だな。先に食堂に向かっていてくれ。案内頼むよ、クラフト。」
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