ヒレイスト物語

文字の大きさ
60 / 171
第三章 変化

願いの言葉

しおりを挟む
朝起きると、カーテンから光が漏れている。それに違うものも漏れていた。
そういえば、昨日疲れて風呂に入らなかったんだ。俺は急いでシャワーに向かう。
入らないで言ったら、シェーンにどんな小言を言われるか。それに王様がいたらもっとまずい。


食堂に着くとシェーンが食べずに待っていた。王様はいなかった。安堵と申し訳なさでいっぱいになる。情報集めに奔走しているのだろう。


「やっと来た。早く食べるわよ。」


「先に食べていてくれてよろしかったのに。」


「そうもいかないわよ。ほら座って。・・・それと食べ終わったら私の部屋に来て。」


俺何かしてしまったかな。そう思ってしまうほど珍しいことだった。というか誰も部屋に入れないようにしているらしい。使用人たちがぼやいていた。


「わかりました。」



食事が終わり、シェーンの部屋に向かう。シェーンは先に食事を終え一足先に戻ってしまったので、一人で向かっている。何かすることでもあるのか。
部屋の前についたので、ノックする。


「シェーン様。ビスです。今来ました。」


扉越しに声が聞こえる。


「早いわね。もう少しそこで待っててちょうだい。すぐ終わるから。」


何か慌てている様子だった。しょうがなくシェーンの言う通り扉の前で待つ。
しばらく待っていると扉がゆっくりと開く。それも開いている隙間は少し。


「何してんの。早く入って。」


「は、はい。」


俺は急いで部屋に入る。なぜ待たせたのかすぐにわかった。
いろんなモノが散らばっている。よく見ると見覚えがあるものばかりだった。
誰も部屋に入れない理由もわかる。


「こ、これでも片付けたほうなのよ。そんな目で見ないでよ。」


そんなにひどい目で見ていただろうか。自分ではわからなかった。


「もう、いいからそこ座って。」


そことは?と問いたかったが、おそらくあの椅子のことだろう。その周辺だけ綺麗になっていた。俺は気をつけながら目的地まで進む。シェーンは慣れているからかスタスタ進みベッドに腰掛けていた。それから少しして俺も辿りつき、椅子に腰かけた。


シェーンはなんだか切り出しづらそうにしている。まあ、なんとなく言おうとしていることは予想がつくが。このまま見つめ合っていても拉致が明かないので、自分から切り出す。


「で、どうしたんですか?」


「ディグニの話聞いたわ。・・・その大丈夫?」


やはり。おそらくルトさんから聞いたのだろう。話さないと余計ややこしくなるという判断でそうしたはずだ。王様は自分で伝えようとしたが、ルトさんに“これ以上溝を深くしないでください”とでも言われたのだろう。言った直後どうなるか火を見るより明らかだ。


「ああ、まあ、聞いた時動揺しましたよ。今は不思議と落ち着いています。ディグニのことです、どっかでしぶとく生きてるはずですよ。」


自分に言い聞かせる言葉。そう吐き出すことでそれが真実だと思い込ませる。
そうして落ち着かせるのだ。

「そう、それならいいのだけれど。・・・言いにくいんだけど私は行けないわ。」

シェーンは申し訳なさそうにそう告げた。

「それはわかっています。」

シェーンはもう簡単に感情で動いてはいけない立場になった。あんなことがあってモーヴェ王国を継ぐ可能性が現実のものになっているからだ。まあ、城内には冷ややかな目も存在しているが。不幸中の幸いというべきか国民の支持は多い。国民の前だと猫被ってるからな、シェーンは。


「やらなくちゃいけないことがあるしね。」


辺りを見回している。すると、何を思ったのか俺を見つめてニヤっとしていた。


「それに、あなたにも激励されちゃったし、ね。忙しいったらありゃしない。」


「あはははっ。」


あれを激励と捉えるか。いや、まあ間違いではないのだけれど。なんだか一本取られた気分になる。


「そういうことだから。・・・ディグニのこと頼んだわよ。つべこべ言うようなら、引きずってでも連れ戻しなさい。私が許可する。」

シェーンのそうであって欲しいという願いのような言葉に俺は答える。

「ええ、シェーン様。承知しました。」


そう答えると間髪入れずにシェーンが吐き捨てる。


「うん。あなたにはやっぱり敬語は似合わないわ。溜口に戻しなさい。」


今それを言わなくたっていいじゃないか。俺だってシェーンに敬語を使うのは慣れないのだ。必死で取り繕っているのに。無意識に頭を掻いてしまう。


「わかったよ。死ぬ気で連れ戻すよ。絶対に。それに一言言ってやらないと気が済まないからね。」


無邪気な笑顔を僕に向け、”頼むわね。”そう呟いた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

【完結済】悪役令嬢の妹様

ファンタジー
 星守 真珠深(ほしもり ますみ)は社畜お局様街道をひた走る日本人女性。  そんな彼女が現在嵌っているのが『マジカルナイト・ミラクルドリーム』というベタな乙女ゲームに悪役令嬢として登場するアイシア・フォン・ラステリノーア公爵令嬢。  ぶっちゃけて言うと、ヒロイン、攻略対象共にどちらかと言えば嫌悪感しかない。しかし、何とかアイシアの断罪回避ルートはないものかと、探しに探してとうとう全ルート開き終えたのだが、全ては無駄な努力に終わってしまった。  やり場のない気持ちを抱え、気分転換にコンビニに行こうとしたら、気づけば悪楽令嬢アイシアの妹として転生していた。  ―――アイシアお姉様は私が守る!  最推し悪役令嬢、アイシアお姉様の断罪回避転生ライフを今ここに開始する! ※長編版をご希望下さり、本当にありがとうございます<(_ _)>  既に書き終えた物な為、激しく拙いですが特に手直し他はしていません。 ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽ ※小説家になろう様にも掲載させていただいています。 ※作者創作の世界観です。史実等とは合致しない部分、異なる部分が多数あります。 ※この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係がありません。 ※実際に用いられる事のない表現や造語が出てきますが、御容赦ください。 ※リアル都合等により不定期、且つまったり進行となっております。 ※上記同理由で、予告等なしに更新停滞する事もあります。 ※まだまだ至らなかったり稚拙だったりしますが、生暖かくお許しいただければ幸いです。 ※御都合主義がそこかしに顔出しします。設定が掌ドリルにならないように気を付けていますが、もし大ボケしてたらお許しください。 ※誤字脱字等々、標準てんこ盛り搭載となっている作者です。気づけば適宜修正等していきます…御迷惑おかけしますが、お許しください。

冤罪で殺された聖女、生まれ変わって自由に生きる

みおな
恋愛
聖女。 女神から選ばれし、世界にたった一人の存在。 本来なら、誰からも尊ばれ大切に扱われる存在である聖女ルディアは、婚約者である王太子から冤罪をかけられ処刑されてしまう。 愛し子の死に、女神はルディアの時間を巻き戻す。 記憶を持ったまま聖女認定の前に戻ったルディアは、聖女にならず自由に生きる道を選択する。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

処理中です...