ぼくらのおわはじ

三澄 みそこ

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卯月之章 其一 

017.雨に打たれて

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 ラヴィンの瞼がゆるりと持ち上げられた。金色の双眸は最初、胡乱げに辺りを彷徨っていたが、やがてルーラに焦点を合わせた。

 二度、三度とゆっくり瞬きをし、そして驚いたように見開かれる。その頃にはすっかり瞳に光が戻っていた。

「……………ルーラ?」

 きょとんとした顔でこちらを見上げるラヴィン。完全に正気を取り戻している。呂律も問題ない。何より、ルーラをルーラだと認識できている。


 無事だった。ラヴィンは助かったのだ。


 張り詰めていたものが一気に解れていって、ルーラはふにゃふにゃとその場に倒れた。べちゃっと泥が飛び、服も顔も汚れた。二人して雨の降り頻る神社に寝そべる様は、大層滑稽であった。

「お、おいルーラ? 大丈夫? つか俺何で神社に………痛ァッ?!」

 言いながら体を起こそうとしたラヴィンが叫んだ。

 助かった、というには少々気が早かった。ラヴィンは再び玉砂利に倒れ込み、眉間にシワを寄せて蹲った。意識は取り戻したが、巫女に全身に大怪我を負わされているのだ。

「何これ、何で俺こんな血塗れ?! ルーラ、これマジで何があったんだよ!」

「………あー、そのー…………」

「やばいってこれ、俺歩けな、てか服着てない!! ルーラ、パーカー貸して…って何でこれも半分くらい焦げてんの?!」

 慌てふためくラヴィンを見ていると、そんな場合ではないのに、どうにも気が抜けてしまって困った。しかし、「痛い痛い」と騒ぐ姿は元気そのもので、正直今までの状況と比べると危機感は皆無だった。

「何が起こってんだ……? と、とりあえず、救急車呼ぶ…?」

「…スマホ多分壊れた、から、無理」

「はぁ?!」

「うん、スマホ、壊れちゃった、からさ…」

 ルーラは顔だけラヴィンのほうを向け、少しだけ笑って、言った。



「また、一緒に写真撮ろう。今度は、高校の入学式で」



 ラヴィンはまたしても目を見開き、数秒後吹き出した。

「お前、急にどうしたんだよ。いやそれくらい全然良いけどさ……った、笑っても痛ェな……」

「絆創膏でも貼っとくか?」

「ははっ、気休めにもならねー」



 雷が鳴った。雨脚は弱まる気配を見せず、気温はどんどん下がっていく。雨に打たれて指先まで冷え切っているのに、彼らはそれらとは不釣り合いに和やかに笑い合っていた。



 ______ビシャッ。



 突然、水を蹴る音がした。視界に広がっていた黒雲が小花柄に隠され見えなくなり、雨粒が遮られた。

 目線をずらすと、傘をさした桜色の長髪の少女が、青色の瞳で呆れたようにこちらを見下ろしているのがわかった。


(……誰だ?)
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