ぼくらのおわはじ

三澄 みそこ

文字の大きさ
18 / 35
卯月之章 其一 

017.雨に打たれて

しおりを挟む



 ラヴィンの瞼がゆるりと持ち上げられた。金色の双眸は最初、胡乱げに辺りを彷徨っていたが、やがてルーラに焦点を合わせた。

 二度、三度とゆっくり瞬きをし、そして驚いたように見開かれる。その頃にはすっかり瞳に光が戻っていた。

「……………ルーラ?」

 きょとんとした顔でこちらを見上げるラヴィン。完全に正気を取り戻している。呂律も問題ない。何より、ルーラをルーラだと認識できている。


 無事だった。ラヴィンは助かったのだ。


 張り詰めていたものが一気に解れていって、ルーラはふにゃふにゃとその場に倒れた。べちゃっと泥が飛び、服も顔も汚れた。二人して雨の降り頻る神社に寝そべる様は、大層滑稽であった。

「お、おいルーラ? 大丈夫? つか俺何で神社に………痛ァッ?!」

 言いながら体を起こそうとしたラヴィンが叫んだ。

 助かった、というには少々気が早かった。ラヴィンは再び玉砂利に倒れ込み、眉間にシワを寄せて蹲った。意識は取り戻したが、巫女に全身に大怪我を負わされているのだ。

「何これ、何で俺こんな血塗れ?! ルーラ、これマジで何があったんだよ!」

「………あー、そのー…………」

「やばいってこれ、俺歩けな、てか服着てない!! ルーラ、パーカー貸して…って何でこれも半分くらい焦げてんの?!」

 慌てふためくラヴィンを見ていると、そんな場合ではないのに、どうにも気が抜けてしまって困った。しかし、「痛い痛い」と騒ぐ姿は元気そのもので、正直今までの状況と比べると危機感は皆無だった。

「何が起こってんだ……? と、とりあえず、救急車呼ぶ…?」

「…スマホ多分壊れた、から、無理」

「はぁ?!」

「うん、スマホ、壊れちゃった、からさ…」

 ルーラは顔だけラヴィンのほうを向け、少しだけ笑って、言った。



「また、一緒に写真撮ろう。今度は、高校の入学式で」



 ラヴィンはまたしても目を見開き、数秒後吹き出した。

「お前、急にどうしたんだよ。いやそれくらい全然良いけどさ……った、笑っても痛ェな……」

「絆創膏でも貼っとくか?」

「ははっ、気休めにもならねー」



 雷が鳴った。雨脚は弱まる気配を見せず、気温はどんどん下がっていく。雨に打たれて指先まで冷え切っているのに、彼らはそれらとは不釣り合いに和やかに笑い合っていた。



 ______ビシャッ。



 突然、水を蹴る音がした。視界に広がっていた黒雲が小花柄に隠され見えなくなり、雨粒が遮られた。

 目線をずらすと、傘をさした桜色の長髪の少女が、青色の瞳で呆れたようにこちらを見下ろしているのがわかった。


(……誰だ?)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

転生したら世界一の御曹司だった〜巨乳エルフメイド10人と美少女騎士に溺愛されています〜

まさき
青春
異世界転生した最強の金持ち嫡男、 専属エルフメイドと美少女騎士に囲まれて至福のハーレム生活   現代日本で「地味だが実は超大富豪」という特殊な人生を送っていた青年は、ある日事故で命を落とす。   しかし目を覚ますと、そこは魔法と様々な種族が存在する異世界だった。   彼は大陸一の富を誇る名門貴族―― ヴァン・バレンティン家の嫡男カイルとして転生していたのだ。   カイルに与えられたのは ・世界一とも言える圧倒的な財力 ・財力に比例して増大する規格外の魔力   そして何より彼を驚かせたのは――   彼に仕える十人の専属メイド全員が、巨乳美少女だったことである。   献身的なエルフのメイド長リリア。 護衛騎士でありながら隙あらば誘惑してくる女騎士シルヴィア。   さらに個性豊かな巨乳メイドたち。   カイルは持ち前の財力で彼女たちの願いを叶え、最高級の装備や生活を与えていく。   すると彼女たちの忠誠心と愛情はどんどん加速していき――   「カイル様……今日は私が、お世話をさせてください」   領地を狙う貴族を金と魔力で圧倒し、 時にはメイドたちの愛が暴走して甘すぎる時間に巻き込まれながらも、   最強の御曹司カイルは 世界一幸せなハーレムを築いていく。 最後までお読みいただきありがとうございました。よろしければ応援をお願いいたします。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...