転生夫婦~乙女ゲーム編~

弥生 桜香

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第一章

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「姉さん。」

 自宅に帰って来た私は弟に呼び止められた。

「何かしら?」
「あの腐れ王子と本当に婚約する気なのか?」

 彼の言葉に私は苦笑する。

「ええ、しきたりですもの。」
「……しきたりだから……か。」
「ヒース?」
「姉さんは本当にしきたりだからって思っているの?」
「……。」

 ヒースの言葉に私は諦めたように笑う。

「ヒース、私はお父様と約束していました。」
「父上と?」
「ええ、私は愛する方としか結婚はしない、もし、学園を卒業するまで見つからなければ私は修道女となりますと。」
「――っ!」

 彼は初めて聞いたのか目を見開いていた。

「嘘だろう。」
「本当の事よ。」
「何で。」
「私のこの身はあの人の物、だから、それ以外の方とは死んでも添い遂げるつもりはないからよ。」
「何でだよ。」
「それは……秘密よ。」

 人差し指を唇に押し当てる私にヒースは顔を顰める。

「それにしても、貴方の「姉さん」呼びは家だけなのね。」
「当たり前です。」
「ふふふ、貴方がしっかりとして嬉しいわ。」
「……姉さんははぐらかすんですね。」
「何をかしら?」

 ヒースは私をじっと見て溜息を零す。

「分かりました、姉さんはあの方が良いんですね。」
「ええ。」
「あの方は王位継承権が低いのですが、良いのですか?」
「……。」

 弟の言葉に私の周りの気温が下がる。

「――っ!」
「あの方が王族だろうが、貴族だろうが、平民だろが私には関係ありません、あの方があの方だから私は決めたのです。」
「何で…。」
「何ででしょうね、貴方には分からない理由よ。」
「……。」

 私は縮こまっている弟にフッと笑う。

「貴方が私を心配してくれているのは十分に分かっているわ、でもね、私はあの方じゃないと駄目なの。」
「姉さん。」
「あの人と出会う為に私は生まれて来たようなもの、だから、誰が何と言おうと私はあの方の一番の味方であり、寄り添う半身でいたいのです。」
「……。」
「お嬢様、お坊ちゃま、お話しの所大変申し訳ございませんが、旦那様がおよびです。」

 私たちの家に長く使えている執事のセルドニックスが私たちの話に割り込む。
 普通ならば有り得ないのだが、事が事だからだろう。

「分かりましたわ、お父様が呼んでいるのは私だけですよね?」
「はい。」
「分かりました、お父様はどちらに?」
「書斎にいらっしゃいます。」
「分かったわ。」

 私は一つ頷くと、書斎の方に体を向ける。

「ヒース。」

 立ち去る前に私は弟に話しかける。

「愚かな姉でごめんなさいね、本当ならばもっと周りを見なくてはならなかったでしょう。
 でも、私たちはああするしかなかったのよ。」
「姉さま?」
「分かって欲しいとは言わないわ。」

 でも、そう言って私は彼に微笑む。

「私は幸せなの、だから、私の為に貴方が色々と気に病む事はないわ。」
「姉さん……。」
「セルドニックス。」
「御意。」

 私はセルドニックスを連れてお父様の元に向かう。
 本当ならば私たちは正式な手順を踏んで婚約をすればよかった。
 でも、そんな時間が私たちには残されていなかった。
 物語(ゲーム)が始まってしまっていたのだから、もし、あの時無理やりに婚約をしていなければ、アルファードは下手をすればあの女の物になっていたかもしれない。

「そんなのは許しはしないわ……。」

 ギリっと歯を噛み締める。

 婚約よりも重い風習と言う名の契約で私たちは結ばれなければならなかった。その訳、それはあの女狐が私のアルファードに色目を使っていたから、それを分かっていたからアルファードは私に触れたのだ。
 まあ、彼が触れなければその手袋を剥いででも私に触れさせていたのかもしれないけど……。

「お嬢様何かおっしゃりましたか?」
「いえ、何でもありません。」
「さようですか。」

 私は今から目の前で起こる事に意識を戻す事にした。
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