転生夫婦~乙女ゲーム編~

弥生 桜香

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第一章

5 《コーデリア》

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「旦那様。」

 ギンと刃と刃がぶつかり合う。

「何だ……っ。」
「旦那様は本当にイザベラちゃんとあの方との婚姻を反対されているのですか?」
「……。」
「反対じゃなければいいじゃありませんか、どうせ、始らからあの方とイザベラちゃんをくっつける気でいたんですから。」
「…物事には順序というものがあるだろう……っ!」

 あらあら、とコーデリアは自分の夫を見る。

「大丈夫ですか、派手にぶっ飛びましたよ?」

 コーデリアは自分の剣技で吹っ飛んだ夫を心配する。

「……お前が飛ばしたのだろうが…。」
「まあ、本当にお体がなまっておられますね、このままでしたら、いつわたくしが暗殺するか分かりませんよ?」
「……するのか?」
「さあ、わたくしは弱い旦那様に収まるような妻ではありませんので。」

 コロコロと笑うコーデリアは二十代前半と言ってもいいような見た目をしていて、彼女が来ている上品なドレスは、戦闘をしていたとは思えない程汚れを知らない。

「……二十年前から同じ事を言っているが。」
「ふふふ。」
「……イザベラとあの方との婚約は彼女が五つの頃に持ち上がった、今さらなのだ。」
「でも、今回は向うからの申し出でしょ?」
「……当人のな。」
「でしたら、納まる所に収まったと思ったらいいんじゃないでしょうか。」
「……そう簡単にいくと思うのか?」
「あら、行かぬなら、貫いて見せよう、がわたくしの家の家訓の一つなのですよ?」
「……そうだったな。」

 コーデリアは自分の刀を振る。

「わたくも、あの子も自分の意思を貫く強さを持っております、それを受け入れる強さをお持ちならば、いかようにもなるでしょう。」
「……つまりお前は。」
「はい、旦那様、頑張ってくださいね。」
「……。」

 夫は落ちて来た髪を掻き上げ、溜息を零す。

「わたくしが見込んだ旦那様ですもの、きっとできますわ。」
「……お前は、わたしを過労死でもさせたいのか。」
「いえ、旦那様は寿命で亡くなっていただくか、わたくしのこの刀の錆となってくださるかの、二択ですわ。」
「……それ以外の方法で亡くなればわたくし、黄泉の世界まで追っかけて、貴方様の首をとる覚悟で居りますの。」
「初耳だな。」
「ええ、始めて言いましたわ。」

 夫はコーデリアを見上げ、そして、ガシリと彼女の手を止める。

「本当に怖い妻だ。」
「ふふふ。」

 止められたコーデリアの手にはしっかりと暗器が握られていた。

「でも、簡単に殺させてくれない旦那様は、わたくし以上に恐ろしい方ですわ。」
「……。」
「ねぇ、旦那様。」
「なんだ。」
「旦那様はどのような終わり方を望んでおられますの?」

 コーデリアの言葉に夫は何か悩み、そして、彼女の手から暗器を奪い取り遠くに投げる。

「あら…。」
「子が不幸でなければいい。」
「……。」
「お前に殺されて死ぬのはいいかもしれないが、わたしはまだ、あいつらの不幸を叩き追ってはいないからな。」
「そうですわね。」
「それが終わってから、お前に殺されてやる。」
「……。」

 コーデリアは一瞬泣きそうな顔をする。

「分かりましたわ、それまで、わたくしは旦那様をお守りいたしますし、旦那様が死なぬように鍛えて差し上げますわ。」
「ほどほどにな。」
「さあ、どういたしましょ?」

 可愛らしく小首を傾げるコーデリアはすっかりいつものものに戻っていた。

「旦那様。」
「何だ。」
「愛しておりますわ。」
「……。」
「旦那様は?」
「……。」

 黙り込む夫にコーデリアは今日も望んだ答えを貰えないのだと悟り、刀を腰に下げ、ドレスを翻す。

「……死ぬ間際に応えてやってもいい。」
「えっ?」

 初めて言われた言葉にコーデリアは足を止めた。

「旦那様?」
「さっさと戻るぞ、コーデリア。」

 いつの間に立ち上がったのか、すたすたとコーデリアを追い越す夫の背は大きく、頼もしかった。

「本当に旦那様にはかないませんわ。」

 嬉しそうにコーデリアは顔を綻ばせ、彼の後を追う。
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