転生夫婦～乙女ゲーム編～

第一章

３２

　私は氷を無数に出し、それを投げる。

「くそ…あの女、雪女かよ。」

　悪態を吐くマヒルにアルファードの額に青筋が浮かぶ。

「誰が、雪女だと？」
「……。」

　思わず、額を押さえる私は悪くないですよね。

「――っ！」
「なあ、人の女を雪女だと？あいつは女神なんだよ。」
「なんつーか、お前、メイヤに切れ方にてんなっ！」

　槍を剣で抑え込むアルファードにマヒルは力任せに押し任そうとするが、そんな手は完全に読めていた。

「うそ…だろう…。」

　力で抑え込めないアルファードにマヒルは焦るが、当然だろう。

「何度、受け止めたと思っているんだよ。」
「喋るなんて余裕だな。」

　マヒルにはアルファードの言葉が聞き取れなかったのか、彼は顔を引きつらせて笑っている。

「よそ見するな。」
「……。」

　剣を振り下ろされるが、私はそれを氷の盾で防ぐ。

「硬いな。」
「……。」

　どうしましょう。

　自分相手なら容赦なく攻撃は出来るけど、愛する人の姿だと攻撃がしづらかった。

「防戦一方だな。」

　ガン、ガンと氷を砕く音がする。

　私は彼の足元に狙い氷を発動する。

　何か、彼が感じるものがあったのか、彼は私の氷の罠から逃れる。

「……危ないな。」
「……。」

　試合なら互いにある程度の動きが読める。

　だけど、今の彼は手負いの獣と同じだ、一歩間違えたら私は彼を殺してしまう。

「……。」

　死ぬ気で襲い掛かってくる彼はきっと、消えてしまったルナしか見ていない。

　自分が死んでもいいと思っている。

　そんな人相手に拘束をしても、脚を切ってでも、腕を落としてでも、きっと私に向かって剣を振るうだろう。

「……。」

　どうする。

　どうする。

　私は彼の攻撃を防ぐしかできない。

　下手な攻撃も、罠も仕掛けられない。

　私の手札では安全に彼を消す事が出来なかった。

「イザベラっ！」

　その声で私はハッとなり、そして、水蒸気を発生させる。