転生夫婦~乙女ゲーム編~

弥生 桜香

文字の大きさ
64 / 122
第二章

しおりを挟む
「……。」

 街を囲う壁を見上げながら、私は静かに目を閉じる。
 哀愁を抱くとは思ってもみなかった。
 この場所は確かにイザベラとしての私の故郷だった。
 だから、このん度の行く末の一つにはもうこの場には帰ってこれない可能性が大いにあった。

「大丈夫か?」

 メイカの姿の彼がそっと私の外套ごと肩を抱き寄せる。

「ええ、大丈夫。」
「……。」

 何か言いたげの彼だったけれども、私はゆるゆると首を横に振った。

「それにしても、夜逃げのように旅立つとは思ってもみなかった。」
「そうですね。」
「というか、あり得ないじゃないのか?」

 口々に言っていくアルファードの部下候補の学生たちに私は思わず眉を寄せる。
 口を開こうとし、だけど、彼に止められる。
 何を言っても無駄だというようにどこか諦めたような顔をする彼に私は何も言えなくなる。

「皆、遅くなってごめんね~。」

 パタパタとかけてくるホリアムット男爵令嬢は自分が悪いと思っていないのかニコニコとやってくる。

「「「「……。」」」」

 流石にこれは非常識だと分かっている三人とアルファードの姿をするメイカは黙り込んでいる。

「準備に手間取っちゃって。」

 てへっ、と可愛らしく舌を出す彼女に私はため息を吐きたくなる。

「あー、そこのミンだっけ、これよろしくね。」
「私の名前はミンではなく、ミナでございます。」
「どうでもいいし、ほら。」

 ホリアムット男爵令嬢はそう言うと背負っていた荷物と手に持っていたカバンを私に押し付けてくる。

「あー、重かった。」

 軽くなったと喜ぶ彼女に私は一体何が入っているのかとため息を吐きたくなった。

「ミナ。」

 腰に佩いた剣に手を伸ばすアルファードに私は首を振る。
 確実に彼女を殺しかねない。

「ホリアムット男爵令嬢。」
「アル様、ローズって呼んでくださいっていいましたよね。」
「……。」

 メイカが得体のしれない何かを見るかのようにホリアムット男爵令嬢を見る。

「何故、名前で呼ばなければならない。」
「パーティ何ですよ、流石に家の名前をいちいち出してたら怪しまれますよ。」
「……一理あるが。」

 ホリアムット男爵令嬢の言葉に素直にうんと頷くことが出来なかった。

「……愛称は決して呼ばない、ここからは名前呼びは確かにいいかもしれませんね。」
「そうだな。」
「ならば、知らぬものもいるし、自己紹介としようじゃないか。」

 私は一応全員の名前を把握していたが、確かにメイカを知る人間はここにはいないので、自己紹介は必要に思えた。

「じゃあ、おれからな、ダグラス・ボラリスクだ。」
「仕方ありませんね、ツェリベ・ファラウスと申します。
「……ヒース・オルディウス。」
「アルファード・ラバンディア。」
「チューベローズ・ホリアムットでーす、長いからローズでいいからね。」
「……………イザベラ様に仕えております、ミナと申します。」
「ええー、仕えておりましたの間違いじゃないの~。」

 わざと過去形にする彼女に全員の冷たい視線が彼女に向けられるが、彼女はそんな事に気づいていないのか、ケロリとしている。

「殿下に仕えております、メイカと申します。」
「メイカくんていうんだね、よろしくね。」

 ホリアムット男爵令嬢はそう言うとメイカに手を差し出すが、彼はそれをまるっきり無視をする。

「恥ずかしがり屋さんだな~。」

 ホリアムット男爵令嬢はニコニコと笑っているが、その目は得物を見つけた獣のような目をしている。

「……。」

 確実に嵐が起きそうなこのメンバーで私は早くも頭が痛くなってしまった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

世の中は意外と魔術で何とかなる

ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。 神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。 『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』 平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。

白いもふもふ好きの僕が転生したらフェンリルになっていた!!

ろき
ファンタジー
ブラック企業で消耗する社畜・白瀬陸空(しらせりくう)の唯一の癒し。それは「白いもふもふ」だった。 ある日、白い子犬を助けて命を落とした彼は、異世界で目を覚ます。 ふと水面を覗き込むと、そこに映っていたのは―― 伝説の神獣【フェンリル】になった自分自身!? 「どうせ転生するなら、テイマーになって、もふもふパラダイスを作りたかった!」 「なんで俺自身がもふもふの神獣になってるんだよ!」 理想と真逆の姿に絶望する陸空。 だが、彼には規格外の魔力と、前世の異常なまでの「もふもふへの執着」が変化した、とある謎のスキルが備わっていた。 これは、最強の神獣になってしまった男が、ただひたすらに「もふもふ」を愛でようとした結果、周囲の人間(とくにエルフ)に崇拝され、勘違いが勘違いを呼んで国を動かしてしまう、予測不能な異世界もふもふライフ!

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

異世界転生した女子高校生は辺境伯令嬢になりましたが

ファンタジー
車に轢かれそうだった少女を庇って死んだ女性主人公、優華は異世界の辺境伯の三女、ミュカナとして転生する。ミュカナはこのスキルや魔法、剣のありふれた異世界で多くの仲間と出会う。そんなミュカナの異世界生活はどうなるのか。

悪徳領主の息子に転生しました

アルト
ファンタジー
 悪徳領主。その息子として現代っ子であった一人の青年が転生を果たす。  領民からは嫌われ、私腹を肥やす為にと過分過ぎる税を搾り取った結果、家の外に出た瞬間にその息子である『ナガレ』が領民にデカイ石を投げつけられ、意識不明の重体に。  そんな折に転生を果たすという不遇っぷり。 「ちょ、ま、死亡フラグ立ち過ぎだろおおおおお?!」  こんな状態ではいつ死ぬか分かったもんじゃない。  一刻も早い改善を……!と四苦八苦するも、転生前の人格からは末期過ぎる口調だけは受け継いでる始末。  これなんて無理ゲー??

まったく知らない世界に転生したようです

吉川 箱
ファンタジー
おっとりヲタク男子二十五歳成人。チート能力なし? まったく知らない世界に転生したようです。 何のヒントもないこの世界で、破滅フラグや地雷を踏まずに生き残れるか?! 頼れるのは己のみ、みたいです……? ※BLですがBがLな話は出て来ません。全年齢です。 私自身は全年齢の主人公ハーレムものBLだと思って書いてるけど、全く健全なファンタジー小説だとも言い張れるように書いております。つまり健全なお嬢さんの癖を歪めて火のないところへ煙を感じてほしい。 111話までは毎日更新。 それ以降は毎週金曜日20時に更新します。 カクヨムの方が文字数が多く、更新も先です。

異世界転生旅日記〜生活魔法は無限大!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
 農家の四男に転生したルイ。   そんなルイは、五歳の高熱を出した闘病中に、前世の記憶を思い出し、ステータスを見れることに気付き、自分の能力を自覚した。  農家の四男には未来はないと、家族に隠れて金策を開始する。  十歳の時に行われたスキル鑑定の儀で、スキル【生活魔法 Lv.∞】と【鑑定 Lv.3】を授かったが、親父に「家の役には立たない」と、家を追い出される。   家を追い出されるきっかけとなった【生活魔法】だが、転生あるある?の思わぬ展開を迎えることになる。   ルイの安寧の地を求めた旅が、今始まる! 見切り発車。不定期更新。 カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

竜の国のカイラ~前世は、精霊王の愛し子だったんですが、異世界に転生して聖女の騎士になりました~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
辺境で暮らす孤児のカイラは、人には見えないものが見えるために悪魔つき(カイラ)と呼ばれている。 同じ日に拾われた孤児の美少女ルイーズといつも比較されていた。 16歳のとき、神見の儀で炎の神の守護を持つと言われたルイーズに比べて、なんの神の守護も持たないカイラは、ますます肩身が狭くなる。 そんなある日、魔物の住む森に使いに出されたカイラは、魔物の群れに教われている人々に遭遇する。 カイラは、命がけで人々を助けるが重傷を負う。 死に瀕してカイラは、自分が前世で異世界の精霊王の姫であったことを思い出す。 エブリスタにも掲載しています。

処理中です...