転生夫婦～乙女ゲーム編～

第二章

２２

「すげーな。」
「……。」
「流石、殿下の侍従。」

　感嘆の声を上げる彼らを無視して、私はホリアムット男爵令嬢を見る。
　彼女は魔族を見ながら何を思っているのだろう。
　これを現実だと思ってくれているのだろうか？
　私はゆっくりと彼女に近づく。

「これから先このような事が続きますよ。」
「……。」

　ホリアムット男爵令嬢は呆然と私を見る。

「ゲームじゃないの？」

　どこか空ろな瞳に私は頷く。

「これは現実です。」
「……。」
「今迄貴女は人の傷つく場面に遭遇したことがなかったのですか？」
「だって、だって。」

　この旅の最中だって多くの獣を殺してきた、なのに、今更のような気がした。

「だって、人を殺すところなんて。」
「……彼らは魔族です。」
「でも、人だよ。」
「そうですね、人型はしております。」
「分かり合えるかもしれないじゃない。」
「……。」

　きっと彼女は平穏な時代に生きてきたのだろう。
　人と人が分かり合える時代。
　そんなのは一部の場所でしかないのに。
　平穏な時代でもどこかで人は人を殺し。
　人を憎む。
　そして、虐める。
　差別はどこかでも生まれる。
　それは消える事なんてない。
　まったくなくなるなんて事はまずないのだ、必ずどこかで誰かが傷ついて死んでいる、それは人が人である限りはある話だ。

「分かり合える可能性はあったかもしれません、ですが、彼らはこの国の姫をさらった時点で犯していけないものを犯したのです。」
「そんなの事情があったかもしれないじゃない。」
「ええ、あったのかもしれません、ですが、すでに彼らは選んだのです。人と争う道を。」
「それはあの女の所為なんだよね、それなら、許せばいいじゃない、一人の犠牲で皆が幸せならば。」
「……。」

　彼女はどこまでも自分本位だと思った。
　彼女の中では「イザベラ」は死んで当たり前の人間。
　だったら、彼女を犠牲に何とかしても自分の平和を守りたいと思っているのだろう。

「条約がかろうじてありました、互いに干渉しないという、だけど、彼らはそれを犯しております。」
「……。」
「この一度を許せば今後多くの人が悲しむ可能性があります。」
「でも。」
「私たちはその覚悟のうえで、故郷をたったはずです。」
「――っ！」
「魔族が犯している間違いを私たちでただすために。」
「……。」
「……メイカ、少し移動してから休憩しましょう。」
「ああ。」

　これ以上何を言っても彼女は耳を傾けてくれないのを理解して、私は彼に声をかける。
　一度休憩を取って、ホリアムット男爵令嬢に現実を見てもらわないといけない、ここで対応を間違えれば、彼女は現実から一勝目を背ける事になるだろうから。