90 / 122
第二章
27
しおりを挟む
「――っ!」
瞼を開けると、そこには見覚えのない天井だったが、先ほどの牢獄ではないそれに、私は唇を噛む。
「……ミナ…。」
私は思わずあの子の名前を呼んでしまったが、同室のホリアムット男爵令嬢が聞いてしまったのではないのかと、顔を強張らせながら横を見れば、彼女はまだ寝息を立てて寝ていた。
ホッと息を吐き、私は首元に触れる。
そこにはペンダントがあるだろうと、夢の中に置いてくることは流石に出来なかっただろうと、思いながら触れると、冷たいそれがなかった。
「えっ?」
私は上の服のボタンを外し、見ればペンダントが消えていた。
「……。」
寝る前まで確かにあったそれはなくなっていた。
ミナの手元にあればいい。
そうなってくれたのなら、彼女の助けになるかもしれない。
あのネックレスには私の「光」の魔力を少しずつ溜めていたのだ。
万が一アルファードと離れて戦う事があった場合、彼に貸すために、だけど、それはなくなっていた。
あの夢が現実のミナに繋がっているのなら、どうか、あの子の力になってほしい。
指を組み、祈る。
どうか、ミナのあの痛みが少しでも引く事を。
そして、彼女の精神が少しでも汚染されない事を。
あのペンダントが万能じゃない事くらい分かっていた、きっと、出来るのは彼女の闇落ちを遅らせるくらいだろう。
気休めでしかないと分かっていても、それでも、私は願う事しか出来ないのだ。
「……。」
コンコンコンと控えめのノックの音がした。
「はい。」
「起きているか?」
アルファードの声に私はベッドから降りて、扉を開ける。
「ミナ…、――っ!お前せめて何か羽織ってくれっ!」
私が扉を開けたので、どこかホッとした顔をした彼だったが、すぐに下を見てギョッと目を見開き、顔をそむけた。
「……あ。」
私は今の自分の格好を思い出し、顔を引きつらせる。
今私が来ているのは寝間着代わりの大きめのシャツ(アルファードのシャツ)下はちゃんと穿いているが、シャツは先ほどペンダントを確認するために胸元を大きく広げていたのだった。
「…ごめんなさい。」
「……。」
私は一度扉を閉めてから自分の外套を着こみ、勿論、先ほど広げていた襟元もしっかりと整える。
「よし。」
私は自分の体を見て、外に出てもかろうじて行けると判断して、扉を開ける。
「お待たせ。」
「……。」
アルファードは上から下まで私を見て、そして、ため息を一つ零す。
「もし、俺が一人じゃなかったらどうするつもりだ。」
「ごめんなさい。」
「頼むから無防備な格好は出来るだけするな。」
「ええ。」
私が頷くのを見て、アルファードはまたため息を零し、私の頭を撫でる。
「頼むから、気を付けてくれ。」
「ええ。」
彼の視線が優しくて、私の頬が赤くなる。
「えっと、朝早くからどうしたの?」
「可笑しな気配がしたから、何か遭ったのではないかと思ってな。」
「……。」
私はあの夢の事を口にしようかと、一瞬迷った。
だけど、彼の後ろにメイカが居たのが見えて、口をつぐむ。
「何でもないわ。」
「………そうか。」
もの言いたげな視線が二つ私に突き刺さるけれども、それでも、彼らは何も言わなかった。
きっと、メイカならミナの現状らしき夢を話しても問題はなかったかもしれない、だけど、心配はするだろう。
表面上では出さないようにするだろうが、彼はきっと自分を責める。
彼女が捕まったのは皆の所為だというのに、きっと、彼は自分だけを責めるだろう。
それが分かっていたから、私は彼に何も伝えないという選択を選んだのだった。
「朝食まで、時間があるが、どうする。」
「そうね、せっかくの温泉があるから、入ってこようかしら。」
「分かった、見張っておくからゆっくり入ってこい。」
「ありがとう。」
私は部屋に戻って着替えとかを持って、扉の前で待ってくれている彼に声をかける。
瞼を開けると、そこには見覚えのない天井だったが、先ほどの牢獄ではないそれに、私は唇を噛む。
「……ミナ…。」
私は思わずあの子の名前を呼んでしまったが、同室のホリアムット男爵令嬢が聞いてしまったのではないのかと、顔を強張らせながら横を見れば、彼女はまだ寝息を立てて寝ていた。
ホッと息を吐き、私は首元に触れる。
そこにはペンダントがあるだろうと、夢の中に置いてくることは流石に出来なかっただろうと、思いながら触れると、冷たいそれがなかった。
「えっ?」
私は上の服のボタンを外し、見ればペンダントが消えていた。
「……。」
寝る前まで確かにあったそれはなくなっていた。
ミナの手元にあればいい。
そうなってくれたのなら、彼女の助けになるかもしれない。
あのネックレスには私の「光」の魔力を少しずつ溜めていたのだ。
万が一アルファードと離れて戦う事があった場合、彼に貸すために、だけど、それはなくなっていた。
あの夢が現実のミナに繋がっているのなら、どうか、あの子の力になってほしい。
指を組み、祈る。
どうか、ミナのあの痛みが少しでも引く事を。
そして、彼女の精神が少しでも汚染されない事を。
あのペンダントが万能じゃない事くらい分かっていた、きっと、出来るのは彼女の闇落ちを遅らせるくらいだろう。
気休めでしかないと分かっていても、それでも、私は願う事しか出来ないのだ。
「……。」
コンコンコンと控えめのノックの音がした。
「はい。」
「起きているか?」
アルファードの声に私はベッドから降りて、扉を開ける。
「ミナ…、――っ!お前せめて何か羽織ってくれっ!」
私が扉を開けたので、どこかホッとした顔をした彼だったが、すぐに下を見てギョッと目を見開き、顔をそむけた。
「……あ。」
私は今の自分の格好を思い出し、顔を引きつらせる。
今私が来ているのは寝間着代わりの大きめのシャツ(アルファードのシャツ)下はちゃんと穿いているが、シャツは先ほどペンダントを確認するために胸元を大きく広げていたのだった。
「…ごめんなさい。」
「……。」
私は一度扉を閉めてから自分の外套を着こみ、勿論、先ほど広げていた襟元もしっかりと整える。
「よし。」
私は自分の体を見て、外に出てもかろうじて行けると判断して、扉を開ける。
「お待たせ。」
「……。」
アルファードは上から下まで私を見て、そして、ため息を一つ零す。
「もし、俺が一人じゃなかったらどうするつもりだ。」
「ごめんなさい。」
「頼むから無防備な格好は出来るだけするな。」
「ええ。」
私が頷くのを見て、アルファードはまたため息を零し、私の頭を撫でる。
「頼むから、気を付けてくれ。」
「ええ。」
彼の視線が優しくて、私の頬が赤くなる。
「えっと、朝早くからどうしたの?」
「可笑しな気配がしたから、何か遭ったのではないかと思ってな。」
「……。」
私はあの夢の事を口にしようかと、一瞬迷った。
だけど、彼の後ろにメイカが居たのが見えて、口をつぐむ。
「何でもないわ。」
「………そうか。」
もの言いたげな視線が二つ私に突き刺さるけれども、それでも、彼らは何も言わなかった。
きっと、メイカならミナの現状らしき夢を話しても問題はなかったかもしれない、だけど、心配はするだろう。
表面上では出さないようにするだろうが、彼はきっと自分を責める。
彼女が捕まったのは皆の所為だというのに、きっと、彼は自分だけを責めるだろう。
それが分かっていたから、私は彼に何も伝えないという選択を選んだのだった。
「朝食まで、時間があるが、どうする。」
「そうね、せっかくの温泉があるから、入ってこようかしら。」
「分かった、見張っておくからゆっくり入ってこい。」
「ありがとう。」
私は部屋に戻って着替えとかを持って、扉の前で待ってくれている彼に声をかける。
10
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
悪徳領主の息子に転生しました
アルト
ファンタジー
悪徳領主。その息子として現代っ子であった一人の青年が転生を果たす。
領民からは嫌われ、私腹を肥やす為にと過分過ぎる税を搾り取った結果、家の外に出た瞬間にその息子である『ナガレ』が領民にデカイ石を投げつけられ、意識不明の重体に。
そんな折に転生を果たすという不遇っぷり。
「ちょ、ま、死亡フラグ立ち過ぎだろおおおおお?!」
こんな状態ではいつ死ぬか分かったもんじゃない。
一刻も早い改善を……!と四苦八苦するも、転生前の人格からは末期過ぎる口調だけは受け継いでる始末。
これなんて無理ゲー??
世の中は意外と魔術で何とかなる
ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。
神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。
『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』
平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。
白いもふもふ好きの僕が転生したらフェンリルになっていた!!
ろき
ファンタジー
ブラック企業で消耗する社畜・白瀬陸空(しらせりくう)の唯一の癒し。それは「白いもふもふ」だった。 ある日、白い子犬を助けて命を落とした彼は、異世界で目を覚ます。
ふと水面を覗き込むと、そこに映っていたのは―― 伝説の神獣【フェンリル】になった自分自身!?
「どうせ転生するなら、テイマーになって、もふもふパラダイスを作りたかった!」 「なんで俺自身がもふもふの神獣になってるんだよ!」
理想と真逆の姿に絶望する陸空。 だが、彼には規格外の魔力と、前世の異常なまでの「もふもふへの執着」が変化した、とある謎のスキルが備わっていた。
これは、最強の神獣になってしまった男が、ただひたすらに「もふもふ」を愛でようとした結果、周囲の人間(とくにエルフ)に崇拝され、勘違いが勘違いを呼んで国を動かしてしまう、予測不能な異世界もふもふライフ!
元邪神って本当ですか!? 万能ギルド職員の業務日誌
紫南
ファンタジー
十二才の少年コウヤは、前世では病弱な少年だった。
それは、その更に前の生で邪神として倒されたからだ。
今世、その世界に再転生した彼は、元家族である神々に可愛がられ高い能力を持って人として生活している。
コウヤの現職は冒険者ギルドの職員。
日々仕事を押し付けられ、それらをこなしていくが……?
◆◆◆
「だって武器がペーパーナイフってなに!? あれは普通切れないよ!? 何切るものかわかってるよね!?」
「紙でしょ? ペーパーって言うし」
「そうだね。正解!」
◆◆◆
神としての力は健在。
ちょっと天然でお人好し。
自重知らずの少年が今日も元気にお仕事中!
◆気まぐれ投稿になります。
お暇潰しにどうぞ♪
異世界転生した女子高校生は辺境伯令嬢になりましたが
初
ファンタジー
車に轢かれそうだった少女を庇って死んだ女性主人公、優華は異世界の辺境伯の三女、ミュカナとして転生する。ミュカナはこのスキルや魔法、剣のありふれた異世界で多くの仲間と出会う。そんなミュカナの異世界生活はどうなるのか。
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
転生したみたいなので異世界生活を楽しみます
さっちさん
ファンタジー
又々、題名変更しました。
内容がどんどんかけ離れていくので…
沢山のコメントありがとうございます。対応出来なくてすいません。
誤字脱字申し訳ございません。気がついたら直していきます。
感傷的表現は無しでお願いしたいと思います😢
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
ありきたりな転生ものの予定です。
主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。
一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。
まっ、なんとかなるっしょ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる