転生夫婦~乙女ゲーム編~

弥生 桜香

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第二章

27

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「――っ!」

 瞼を開けると、そこには見覚えのない天井だったが、先ほどの牢獄ではないそれに、私は唇を噛む。

「……ミナ…。」

 私は思わずあの子の名前を呼んでしまったが、同室のホリアムット男爵令嬢が聞いてしまったのではないのかと、顔を強張らせながら横を見れば、彼女はまだ寝息を立てて寝ていた。

 ホッと息を吐き、私は首元に触れる。

 そこにはペンダントがあるだろうと、夢の中に置いてくることは流石に出来なかっただろうと、思いながら触れると、冷たいそれがなかった。

「えっ?」

 私は上の服のボタンを外し、見ればペンダントが消えていた。

「……。」

 寝る前まで確かにあったそれはなくなっていた。

 ミナの手元にあればいい。

 そうなってくれたのなら、彼女の助けになるかもしれない。

 あのネックレスには私の「光」の魔力を少しずつ溜めていたのだ。

 万が一アルファードと離れて戦う事があった場合、彼に貸すために、だけど、それはなくなっていた。

 あの夢が現実のミナに繋がっているのなら、どうか、あの子の力になってほしい。

 指を組み、祈る。

 どうか、ミナのあの痛みが少しでも引く事を。

 そして、彼女の精神が少しでも汚染されない事を。

 あのペンダントが万能じゃない事くらい分かっていた、きっと、出来るのは彼女の闇落ちを遅らせるくらいだろう。
 気休めでしかないと分かっていても、それでも、私は願う事しか出来ないのだ。

「……。」

 コンコンコンと控えめのノックの音がした。

「はい。」
「起きているか?」

 アルファードの声に私はベッドから降りて、扉を開ける。

「ミナ…、――っ!お前せめて何か羽織ってくれっ!」

 私が扉を開けたので、どこかホッとした顔をした彼だったが、すぐに下を見てギョッと目を見開き、顔をそむけた。

「……あ。」

 私は今の自分の格好を思い出し、顔を引きつらせる。
 今私が来ているのは寝間着代わりの大きめのシャツ(アルファードのシャツ)下はちゃんと穿いているが、シャツは先ほどペンダントを確認するために胸元を大きく広げていたのだった。

「…ごめんなさい。」
「……。」

 私は一度扉を閉めてから自分の外套を着こみ、勿論、先ほど広げていた襟元もしっかりと整える。

「よし。」

 私は自分の体を見て、外に出てもかろうじて行けると判断して、扉を開ける。

「お待たせ。」
「……。」

 アルファードは上から下まで私を見て、そして、ため息を一つ零す。

「もし、俺が一人じゃなかったらどうするつもりだ。」
「ごめんなさい。」
「頼むから無防備な格好は出来るだけするな。」
「ええ。」

 私が頷くのを見て、アルファードはまたため息を零し、私の頭を撫でる。

「頼むから、気を付けてくれ。」
「ええ。」

 彼の視線が優しくて、私の頬が赤くなる。

「えっと、朝早くからどうしたの?」
「可笑しな気配がしたから、何か遭ったのではないかと思ってな。」
「……。」

 私はあの夢の事を口にしようかと、一瞬迷った。
 だけど、彼の後ろにメイカが居たのが見えて、口をつぐむ。

「何でもないわ。」
「………そうか。」

 もの言いたげな視線が二つ私に突き刺さるけれども、それでも、彼らは何も言わなかった。
 きっと、メイカならミナの現状らしき夢を話しても問題はなかったかもしれない、だけど、心配はするだろう。
 表面上では出さないようにするだろうが、彼はきっと自分を責める。
 彼女が捕まったのは皆の所為だというのに、きっと、彼は自分だけを責めるだろう。
 それが分かっていたから、私は彼に何も伝えないという選択を選んだのだった。

「朝食まで、時間があるが、どうする。」
「そうね、せっかくの温泉があるから、入ってこようかしら。」
「分かった、見張っておくからゆっくり入ってこい。」
「ありがとう。」

 私は部屋に戻って着替えとかを持って、扉の前で待ってくれている彼に声をかける。
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