転生夫婦~乙女ゲーム編~

弥生 桜香

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第二章

37 《???》

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 夢だ。
 分かっている。
 三人の亡骸がそこにあった。
 知った顔だ。
 そして、それぞれの亡骸に縋りつくようにして泣く男。

“すみません、力がないばかりに”

“何でだ!”

“――っ!”

 力がなく泣く男。
 吼えるようにして叫ぶ男。
 ただただ、無言で亡骸を力強く書き抱く男。
 知っている。
 よく知っている男たちだ。
 弱く。
 情けない。
 非力な自分に嘆くばかりしか出来ない馬鹿な男だ。
 そして、自分も…。
 強くなったと思った。
 だけど、足らなかった。
 そりゃ、全てを守れるスーパーヒーローとかではないのは分かっている。
 自分の大切な人を守れるくらいは強くなっていたと思った。
 そんなのは驕りでしかなかった。
 俺は少し強くなっただけで、守りたいものが守れないそんな奴なのに。

“そうだよ、仮初の力を手にしても、守れなかったんだ”

 深紅のドレスを着た亡骸を抱いた執事服をきた奴が俺を睨む。

「ああ、そうだったな。」

 彼女を逃がそうと敵と立ち向かった。
 だけど、彼女は逃げた先で刺された。
 追いついた時には虫の息でその腕の中で冷たくなった。
 そして、敵に囲まれながら愛しい亡骸を守りながらその命の炎を燃やし、尽きた。
 悔しかった。
 もっと、力を欲した。
 だけど、手遅れだったんだ。

“同じ失敗ばかりをした、くそ、何で、何でだっ!”

 どこかの平民の服を着た少女と、同じ平民服を着た男。
 男は激しい炎のような目で俺を見る。

「ああ、間違いばかりだ。」

 男と少女は幼馴染だ。
 そして、もう一人の少年と一緒にずっといた。
 だけど、そんな幸せな時間は侵略者によって終わりを迎えた。
 少女をもう一人の幼馴染に預けて殿に着いた男は、同じ間違いをしていないと思った。
 だけど、幼馴染たちに追いついた時、少年は腕をなくして傷つき。
 少女は丁度凶刃によってその胸を貫かれた。
 一度目と同じ間違いだ。
 何で側に居なかったのかと、何度も責めた。
 傷つくことも。
 殺す事も。
 怖くなかった。
 ただただ、大切な彼女の敵討ちをしたかった。
 そして、気づいた時には体はボロボロ。
 腹には風穴があいていた。
 多くの命を奪った事に何も感じなかった。
 ただただ大切な命を失わせてしまった自分に腹を立てながらその命の灯は消えた。

“……”

 騎士の装束を纏った男女。
 その男は虚ろな目でこちらを見ていた。
 感情がすべて抜け落ちたように何もない瞳。
 だけど、知っている。
 その胸の内は激しい後悔や絶望にまみれている事に。
 彼女と男は上司と部下という関係だった。
 そして、戦場をかけた彼らは最後に敵将と一騎打ちとなる。
 男が戦おうとした、だけど、敵将はそれを許さなかった。
 そして、彼女と敵将との一騎打ちが始まった。
 今回の彼女は今までの彼女の中で一番戦闘能力が高かった。
 だけど、今までと同じくらい純粋でもあった。
 男はずっと首筋がピリピリとしてた。
 何か嫌な予感があったが、それでも、それが何なのか分かっていなかった。
 そして、それが何なのか知った時にはすでに遅かった。
 一瞬銀色に輝くそれに気づき、無意識にそれを斬った。
 それは矢だった。
 彼女の背を狙ったそれは確かに彼は斬った。
 だけど、彼女を狙ったのはそれだけじゃなかった。
 真正面から銃弾が放たれ、それは彼女の胸に吸い込まれるように打たれた。
 そして、敵将はそのまま彼女を嬲り殺しにしようと剣を振り上げる。
 もうダメだった。
 押し殺していた何かが切れた。
 どうして、いつもいつも、彼女ばかりが傷つくんだ。
 片手で彼女を抱きしめ、きき手で剣をしっかり握る。
 敵将も殺し、襲い掛かってくる敵を葬る。
 近寄るものは全て斬った。
 敵も。
 味方も。
 そして、飛び道具によって蜂の巣になった。
 彼女のいない世界なんて生きる価値なんてなかった。
 だから、願った。
 次こそは彼女が平穏で過ごせる世界であるように。
 まあ、結局はこのざまなんだけどな…。

「……慢心。」

 一度目を瞑る。

 この光景を忘れない。

 心に刻む。

 守れなかった己たち。

 死なせてしまった彼女たち。

 忘れるな。

 いくら転生できる身とはいえ、何度も彼女を死なせたいか?

 答え何て決まっている。

 否だ。

 だったら、俺は彼女を守れるように気を配らないといけない。

 強くならないと。

 身も。

 心も。

 俺に彼女を預けてくれた相棒の為にも……。
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