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北斗サイド

白昼夢

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 普通に俺は授業を受け、そして、生徒会の仕事があり、あまりにも遅くなりそうだったので、今日はスピカを自室に置いてきたのだが、妙な胸騒ぎがして、仕事に手がつかなかった。

「お前、さっきらか五月蠅いんだけど?」
「ああ?」

 眉根にしわを寄せる男に俺は睨む。

「何ですか?訳が分かりませんけど?」
「何だ、お前やるか?」

 立ち上がって今にも殴り合いをしそうな雰囲気が出来上がる。

「もう、あんたたち何やっているのよ。」

 バシリと頭を叩かれ、その人物を見れば、藍川先輩だった。

「先輩。」
「もう、さっきからため息ついたり、貧乏ゆするもしてたのよ。」
「……。」

 自覚のなかった事なので俺は極まり悪そうに目を逸らす。

「そんなんじゃ、仕事にならないから今日は帰りなさい。」
「だけど。」
「大丈夫よ、そこまで仕事が立て込んでいる訳じゃないし、明日仕事をやってくれればいいわ。」
「……。」
「あんたも、それでいいでしょ。」

 舌打ちをする青井生徒会長に藍川先輩はため息を零す。

「もう、あんたは本当に。」
「すみません、先輩。」
「いいのよ、誰だって調子が悪い時があるんだし、仕方ないわよ。」
「……ありがとう、ございます。」

 俺は先輩や他の役員の先輩に頭を下げる、ちなみにあいつには絶対頭を下げなかった。

 誰があんな男に頭を下げるものか。

 その所為で、またひと悶着があったが、俺は寮に向かって早歩きで向かった、そして、自室の部屋の扉を開けると、ギョッと目を見開く羽目になる。

「スピカ?」

 スピカが浮かんでいるのはいつも通りだ。

 だけど、その体が色素を失い透けていた。

 いつもは感情の起伏で薄くなることがあってもここまで透ける事はなかった。

 心臓がバクバクとうるさく鳴り響く。

 呼吸が早くなる。

 どうなっている。

 スピカ。

 スピカ。

 口の中がカラカラになる、それでも、俺は口を開くしかなかった。

「スピカ。」

 彼女は反応を示してくれない。

「スピカ。」

 もし、このまま、彼女がいなくなったらどうしよう。

「スピカ…。」

 嫌だ、嫌だ、嫌だ。

 子どものように俺は駄々をこねる。

 もっと、俺の側で笑えよ。

 俺の横でしゃべろよ。

 俺の目を見ろ。

 俺を見てくれよっ!

「スピカっ!」

 俺が怒鳴ると、まるで、泡が弾けたかのようにスピカの瞼が持ち上がり、そして、彼女の美しい瞳が見えた時にはいつもの彼女の姿だった。

 儚く消えそうな彼女はどこにも居なかった。
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