今世ではのんびりしたいのですが…無理ですか…

弥生 桜香

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第一章

《涙》

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 セイラは誰かが苦しむような声がして、目を覚ました。

「………?」

 眠い目を擦り、体を起こせば、声が気の所為ではない事を知る。

「レミラ?」

 胸騒ぎがして、咳がする方にセイラは歩き出す。
 そして、レミラの寝室にたどり着く。
 ノックをしようか迷うセイラだったが、中から激しい咳き込み苦しむレミラの声が聞こえ、彼女は意を決して扉を開ける。

「せ……ら…ま?」
「レミラっ!」

 血で真っ赤に染まるレミラを見てセイラは悲鳴のような声を上げ、彼女に駆け寄る。

「レミラ、レミラ、おいしゃさま、つれてくるから…っ!」

 駆け出そうとしたセイラをレミラが引き留める。

「……レミラ?」
「…い……す。」
「えっ?」

 セイラはうまく聞き取ることができず、レミラの口元に耳を近づける。

「いい…ので…す、セイ…ラさ…ま。」
「何故。」
「……あなた…さま…も…ごぞん…じの…とおり…ごほ、ごほ…。」
「もういいからっ!」

 咳き込むレミラにセイラは縋り付くように彼女を止める。
 しかし、レミラは首を横に振った。

「じがん…が…ありま…せん……。」
「……。」

 セイラは悟る、もう、レミラに残された時間がない事を…。

「おか…さま?」
「どうされたのですか?」

 ただならぬ気配に起きて来た双子にセイラは二人になんていえばいいのか戸惑いを見せる。

「……いら…しゃい…。」

 レミラは二人を手招き、二人は互いに顔を見合わせ、今にも泣きだしそうな顔でレミラたちに近づく。

「おかあ…さ、ま…。」
「おかあさま……。」
「ふたり…とも……いいですか………。」

 レミラは二人を抱きしめながら強い意志を宿した目で彼女たちを見下ろす。

「じかんが……ない…の……あなた…たちは、ふたりでも…いちにん…まえにもならない…でも…あなた…たちは…ひとりじゃ…ないの。」
「おかあ…さま?」
「おねがい……ははのかわりに…セイラさま…のちからに…なりなさい…。」
「おかあさまっ!」
「セイラさま…もうしわけ…ございません。あなたさまの…せいちょうを…みまもる…ことができずに……どうか…どうか…せいらさまとわがこに…さちおおからん…ことを……。」

 レミラの白い、白い手が天に伸ばされるが、力尽きたのか地に落ちる。

「おかあさま?」
「おかあさまっ!」

 双子は母親の亡骸にしがみつき、火が付いたかのように泣き出す。
 セイラはそれを黙って見つめた。
 彼女は気づいていないその丸い頬に涙の川が出来ている事に。

「レミラ…わたしは……私は…きっとこの子たちを護るわ、だから、見守っていて。」

 グイッと涙を拭う少女はもう、守られる子どもの目をしていなかった。

 早すぎる自立に誰も気づいていない。

 本当なら甘える子どもでいられる年齢なのに、この時、彼女は一人守られる少女でいられる時間を失った。

 悲しい事にセイラを慈しんでくれた唯一の人を失った彼女は守る二人の為に一人その小さな手を傷つけていく事になる。
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