正しい死を求めて

桜庭かにゃめ

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死にたい少女

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    家族が死んだ。
父も母も妹も皆、だ。
    事故だったらしい。母の調理中の不注意で火事が起き、家にいた私以外の家族が焼け死んだ、と。
人はいずれ死ぬなんて分かりきったこと。
けれど死ぬまでの時間、生きていく時間は誰にも分からない。
父と母と妹は偶然他人よりも早く死ぬ運命だっただけだ。自分に毎日言い聞かせた。
けれど心の傷は言えるどころか酷く爛れ抉れていくのみでただただひたすらに辛い日々を送っている。
    今までの楽しかった日々も幸せだった日々も家族がいてこそのものだった。私はあの火事以来村の人々の家を転々としつつ生活いていた。今は村長の家で寝泊まりをしている。
   「死にたい…」
ふと私の口からそんな言葉が漏れた。
死ねばこの苦痛から救われる、家族に会えるかもしれない、もう一人ではなくなるんだ…。
    台所には魚用の大きな包丁が置かれていた。村長が片付け忘れたのかもしれない。私は重い包丁を両手でしっかりと握り首の側面に当てる。ヒヤッと金属の冷たい感覚が伝わってくる。このままのこの包丁を首に沿って下になぞれば太い血管を切ることが出来るだろう。
    「ユーニ?」
家の扉が開く音と共に男の子の声が耳に届いた。
パタパタと足音が近づいてくる。
「…っユーニ!何してんだよ、包丁なんて持って!」
台所の扉を開けた少年は一瞬固まったあとそう言って私の手から包丁を取り上げた。
「テオ返して!私はもう耐えられない!死ぬの!」
包丁を取られた私はテオの洋服の裾を掴みながら叫んだ。
「バカ言うな!お前が死んだってなんにもなんないだろ!」
テオは包丁を持った手を私が届かない高さに上げそう叫ぶ。失敗した、私は死ねなかった。テオの裾を掴みながら込み上げてくる嗚咽を押し殺す。
「お前が辛いのもわかるし死にたくなるのもわかる、けどお前が死んだら…死んじまったおじさんとおばさんはもっと辛いだろ…!」
テオは包丁をしまうと私をふんわりと抱きしめた。
懐かしいテオの匂いと温もりが私を包み込む。
「もう、やだよ…お願い殺して…」
私はテオの腕の中で弱々しく呟いた。 
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