おいでよ、最果ての村!

星野大輔

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第1章 最果ての少女

アリス2

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思いの外大量の獲物を狩ることができたアリスはニマニマしながら街へと帰還した。
デザートウルフ5匹。
本来は単独で行動する魔物だが、ここ最近、多くの冒険者たちが狩りにくるため、共同戦線でも張っていたのだろう。

背後の砂の中から援軍が現れたとき、アリスは驚いたものの、数撃交わす内に慣れた。
元々デザートウルフなど取るに足らない程の実力を持つアリス。数匹増えたところで優劣に差がでることはなかった。


(2匹は燻製にして、1匹は暫くの食料。あとは宿屋の主人のご機嫌伺いにでもするかな。)

食料が不足しているなか、これは喜ばれるだろう。いつ宿屋を強制退去させられるかも、わからないのだから、賄賂は実に有用だ。


宿屋と燻製屋に回り、デザートウルフを片づけたところで、アリスは一度冒険者組合に顔を出してみることにした。
魔王軍の最新の動向を知るためだ。

本来冒険者は魔王軍と直接戦うことはしない。
あれは所謂国家間の争いに似たものだから。
冒険者は魔物を狩り、未踏の地を探索することなど、細かくあげればきりがないが、まあ便利屋めいたものだ。
戦争などは国お抱えの兵士たちがやってくれるので、普通はそこに出張ることはない。
まぁ、傭兵を生業としているものは別だが。

ただし、自らの命に危機が迫っている状況では別だ。
関係ないなどと言ってられない。

だが冒険者は利益にならないことには、とことん腰が重い。
組合も早々に事を片付けるべく、魔王軍幹部に特別報奨金を設定する。
積極的に事件を解決しようとする者には、独自ルートから得た最新情報を提供する。

組合のドアを潜ると、仕事もないだろうに、ふて腐れた顔で組合に隣接されている酒場で昼間から飲んだくれている強面の男達がいた。
アリスはそんな男達を一瞥しただけで、奥のカウンターへと足早に近づく。

平常時であれば混んでいる組合のカウンターも、ここ最近は閑古鳥が鳴いている。

「冒険者番号840905のアリスよ。
 魔王軍の動向について教えてもらえるかしら?」
「はい、少々お待ちください。
 えーと、魔王軍は現在、トトリ唯一の街道途中にあるナギ山に陣を展開中。
 一部情報によりますと、魔王軍チュカ地方支部の指示ではなく、トトリ地方を任されている部隊長が先行して動いたとのことです。
 チュカ地方国軍は遠征討伐軍を編成し、2日前にクレイを出発したそうです。
 ナギ山に到着するのは約10日後の予定です」
「遠征討伐軍の規模はどの程度?」
「自衛もありますから、それほど多くはありません。
 騎士が10、兵士が400、傭兵が100程度となります。
 魔王軍が推定800ですので、数の上で負けています」

練度と言う意味でも人類は魔族に劣る。
受付嬢は十把一絡げに800と言ったが、一般的な魔族ですら兵士5人程度の強さを誇る。
一般兵士に置き換えた場合、その戦力は4000。
圧倒的である。

ちなみに人間側は、兵士を1とした場合、騎士は20、傭兵は1~10。

(国はあまりやる気がないな…。
 それはそうか、この様な地方都市を救うために自らの街を危険にさらすわけには行かない)

「この街からは、どの程度の戦力を出すのかしら?」
「街に常駐している兵士が80程度、傭兵は20、加えて冒険者が80です」
「…そう、分かったわ。ありがとう」

アリスは受付嬢に礼を言うと、組合を後にした。

(どうしたものかしら…)

遠征討伐軍がきたところで、敗北は必至。

いよいよ本気で街から抜け出す方法を考えねば。
如何にそれが困難であろうとやらねばならぬ。
アリスは剣の柄をギュッと握りしめ空を仰いだ。


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