おいでよ、最果ての村!

星野大輔

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第1章 最果ての少女

ラック4

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「よなかは、しずかにしないとご近所さんに迷惑でしょ!!」

殺伐とした空気の中、場違いな少女の声が響いた。

「おかしいな、薬入りの食事はちゃんと食べたはずなのにな」

ラックは「ふむ」と考え込むポーズを取るが、一瞬で考えるのをやめた。

「まあ良いか。
 こいつには少し聞きたい事もあったし、もう一度眠ってもらうことにしよう」

つかつかと、ちーちゃんへと近づく。
ちーちゃんは寝ぼけているのか、近づいてくるラックに反応を示さない。
目がとろんとしている。
子供なのだ、夜中は眠い。

あと数歩でちーちゃんの元へ辿り着こうとした時、ラックに向かって剣が投げ放たれる。
ラックは事も無げにそれを避ける。

「…ちーちゃん、逃げるんだ……」

麻酔薬で既に意識が朦朧としかけているアリスは、最後の力を振り絞り剣を投げた。
それもむなしく終わり、アリスは意識を手放した。

「ったく、大人しくしてればいいものを。
 後でゆっくり始末してやるから、死に急ぐんじゃねえよ。
 さてと、あの貨幣は頂くとして、嬢ちゃんにはどこで手に入れたか、教えてもらうじゃないか。
 」

ラックはちーちゃんの頭をぽんぽんとした。

「場所を移動するから、嬢ちゃんはもう一回寝ててくれな。
 痛みつける趣味は無い、痛みは一瞬だ。」

手慣れた手つきで、ちーちゃんの首筋へ手刀を入れる。

「…ん?」

先ほどと変わらぬ姿勢で眠そうに立ち続けるちーちゃん。
止まっている相手にしくじるほど、腕は落ちていない。
痛がるわけでもなく、気絶するわけでもなく、眠そうにしているちーちゃん。

「どうなってんだ…
 ちっ、まあいいや、このまましょっていくか。
 ほれ、嬢ちゃんこっちにくるんだ」

ちーちゃんの腕を無理やり引っ張るラック。




「…はっ」

気がつくとラックはどこかの路地裏で倒れていた。
目の前に広がるのはきれいな青空と真上に昇った太陽。

「なんで…どうしてこんなところで寝ているんだ」

ラックは思い出そうとするが、意識が完全に途絶えている。
少女の腕を引っ張った瞬間から記憶ない。

体を起こそうとすると、全身に激痛が走る。

「ぐぅっ!!!」

ばたりと再び背中を地につける。

「駄目だ、こりゃあしばらく起きあがれねえな。
 しかし本当に何があったんだ…」




遡ること12時間前。

ちーちゃんの腕を引っ張るラック。

半覚醒のちーちゃんは、無理やり起こされそうになったところ意識することなく「めっ!」が発動した。
ラックの腹部にめり込むちーちゃんの拳。
ピンボールのように窓から部屋の外へ吹き飛んでいくラックの体。

そのままラックは街の端の路地裏まで飛ばされ、昼まで気を失っていた。

ちーちゃんの本来の攻撃力であれば、ラックの体は粉微塵に吹き飛んでいただろう。
しかしブンタが力加減の知らないちーちゃんのために着けさせている魔道具『みねうちぶれすれっと』のおかげで、相手は如何に強い攻撃を受けても残りHP1を保持することができる。

こればかりはブンタのナイスアシストである。
でなければ、この物語はモザイク必須となったであろう、うん。


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