おいでよ、最果ての村!

星野大輔

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第2.5章 草原の詩

閑話 帰郷2

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村へ足を踏み入れたガイランドは、まず自らの鼻孔の奥をくすぐる香しい匂いに引き寄せられ、近くの建物へと引き寄せられた。

何かしらの店なのだろうか、入り口には何か文字が書かれた布がぶら下がっており、戸は開け放たれている。
ガイランドを引き寄せた匂いはその奥から漂ってる。

「儂は魔王軍参謀ガイランド。
 すまぬが、少しばかり聞きたい事がある。
 それと、よければで構わぬのだが腹が減っているので八分目程まで満たす程度の飯を所望する!」

大きな声でガイランドが呼びかけると、建物の奥からパタパタと人が近づく音が聞こえた。
布を潜り顔を出したのは、20歳を超えたばかりであろう若い女性。
洗い物でもしていたのだろうか腕はまくられており、体はエプロンを纏っている。

ガイランドを訝し気な目で見るその女性は、実に気が強そうな顔をしていた。

「急に何だいあんた、ここは食堂だよ。
 腹が減ってるなら勝手にはいってきな。
 それに聞きたいことがあるなら、まず注文。
 それが道理ってもんだい」
「む、食堂であったか、失敬。
 であれば、席へと案内頂こう」

食堂の女性は、胸を張って食堂の中へ入ろうとするガイランドの首根っこを掴み進行を止めた。
風貌の怪しい毛むくじゃらの男。
ここら辺でみない顔。

「とこおであんた、お金はちゃんともってるかい?」
「……」

ガイランドは自分のポケットの中を漁る。
出てきたのはカサカサに乾燥した木の葉が二枚。

「おやおや、あんたはもしかして狸かい?
 それを金貨に出も変えるつもりなのか?」
「む、魔法は得意だが、そのような魔法は使えぬな」

威張り腐りながら否定するガイランドは、ぎゅるるるるーと腹を鳴らす。
その音を聞き、「はぁー」とため息を漏らす女主人。

「あんた魔王軍なんだろ。
 金は魔王さんに請求するから、とりあえず店に入りな」
「うむ、かたじけない」



腹を満たし豊かな気持ちになったガイランドは、毛むくじゃらの顔をふっさふっさと揺らした。

「女主人よ、非常に美味であった」
「ありがとよ。
 それにしてもよくあれだけの量を食べたね。
 あたしは驚きを通りこして、感心したのもさらに通りこして、呆れたよ。」

ガイランドの目の前に詰まれた12枚の皿。
まるでパーティーでもやった後のような惨状。
これをガイランドが一人で平らげたのである。
明らかに体の容量と釣り合っていない。
不可思議な現象である。

「それで聞きたい事ってなんだい。
 そろそろ夜になるから他の客も入ってくるんだ。
 時間もそんなにないんでね」
「然らば尋ねよう。
 実は魔王城へ帰るのが久々でな、地形も変わってしまって道が分からぬ。
 もし知っておるならば教えていただきたい」
「はあ?
 魔王軍の人間が魔王城を忘れたのかい?
 おかしな話もあるもんだね、ははっ!」
「ざっと300年くらい帰っておらぬからな」
「はーーー、そりゃ確かに忘れるかもね。
 まあ、話は分かったよ。
 あんたの食事代の請求ついでに、魔王城まで送っていってやるよ」
「かたじけない!」

こうしてガイランドと女主人は魔王城へと向かった。

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