おいでよ、最果ての村!

星野大輔

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第4章 異世界からの訪問者

プロローグ

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ダイハン帝国首都ラインの中央に高く聳える二本の尖塔。
その麓を取り囲むように正方形の真っ白い建物がある。
皇帝を補佐するという名目の元、実質影からこの国を操る元老院の長達が居を構える『白楼塔』。

権力を思うがままに行使する彼らのほとんどは自分勝手であり、国からの召集もロクに集まることはない。
だと言うのに、今この時間、彼らはここに居た。
12席ある元老院のテーブルが全て埋まることなど、今まであっただろうか。
権謀術数に長けた彼らの目はいずれも厳しく、並の議員であれば彼らの問にイエスと答えることしかできないだろう。
人を蹴落とすことが日常茶飯事の伏魔殿において、長年その席を維持してきた連中。

そんな彼らがだ、焦った表情で顔を突き合わせている。

「でだ、ハッカータの動向はどのようになっているのだ。」
「今の所大きな動きはないようだ。
 しかし相変わらずナイン大陸の各地から武器商人が集まってきているようだ。
 あやつらの準備が整うのも、時間の問題であろう。」
「ミャーザキ国の義戦のボルク、シカジシマの憤怒のオウガ、リュウキュウの三仙人、ダイーブ国からは殲滅騎士団。
 世界にもその名を轟かせる名戦士たちが、ローミンの元へ集まろうとしているとの話もある。
 そうなってしまえば、いよいよこちらの分は悪くなるだろう。」
「どうやってそいつらを説き伏せたのだローミンは。
 どれも権力には屈しない、国すらもその存在を持て余している暴れ馬共ではないか」
「いやいや、そんな事を推測しても仕方がなかろう。
 今大事なのはこの先起こるであろう戦争についてだ。
 我がダイハン帝国はナイン大陸から離れているとはいえ、間にある国といえば弱小国ばかり。
 ここに到達するのは時間の問題。
 早急に対応する必要があるだろう、如何かな。」
「異論なし」
「だがどうする、我が帝国といえど、ナイン大陸を相手取る程の戦力などないぞ。
 たとえ周辺諸国と手を組んだ所で、たかが知れておろう。
 単純計算で奴らの戦力は2500万、こちらはかき集めても1000万に届くかどうか」
「しかもやつらは一人ひとりが一騎当千の戦バカときたからな。 
 これだから未開の地の連中はすかん!」
「愚痴ったところで仕方なかろう」
「・・・で、先程から一言も発していないようだが、議長はどのようにお考えかな?」

その言葉に11人の視線が、円卓の最奥に座る一人の老人へ向けられた。
彼は長い白髪を後ろへかき分け、笑いを堪えるようにして口元を隠す。

「くっくっくく、慌てふためくそなたらは実に愉快だのう。
 国の誰からも恐れられる元老等も、ローミンは恐ろしいと見える」
「む、どういうことだロン議長。
 まるであなたは恐ろしくないとでも言いたげですな。」

ロン議長と呼ばれたその男は、目を見開き円卓に座る元老たちを見渡した。

「我々にはとっておきがあるではないか、忘れておいでか貴公らは?」
「とっておき・・・だと?」
「どこにそんなものが、あればとっくの昔に使っておるわ」

口々に文句を言う中、一人の老人が落ち着かない目線で、口元を震わせながらその推測を口にした。

「まさか、まさかあなたは『禁忌召喚』を行うつもりなのか?」

その言葉を待っていたとばかりに、ロン議長は口元をニヤリと歪める。
それが正解だとしった元老たちは一斉に慌てふためいた。

「なな、なにを言っているだあんたは!?
 あれは世界共通法案で禁止されているであろう!
 もし破ってしまえば、それこそ周辺諸国から我々が滅ぼされてしまうぞ!!」
「そうだ、あれを戦争に使うなど言語道断!」
「では貴公らは、おとなしく我々が滅ぶのを待つというのか?
 使える手段が在るというのにも関わらず、だ。
 今は法だのなんだの言っている場合ではなかろう。
 まずは滅ばぬ事、それが第一。
 言い訳など後で考えればよいのだ。
 それにナイン大陸の脅威に晒されているのは我が帝国だけではない、この地より北にある国もまた同じこと。
 きっと彼らは感謝するであろう、我が英断に!!」

大きく手を広げ、その未来を想像するロン議長。
彼の自信ある発言に、元老院たちも徐々にその意見を変えていく。

「確かに、手をこまねいていては滅亡必至。
 であれば確率の高い方を選ぶのは道理。
 私は賛成だ。」

ひとりの議員が挙手をする。
それに続くように他の議員も次々と手を挙げていく。
最後の一人が手を挙げると、ロン議長はこれまでにない笑みを浮かべ、手を叩いた。

「くくく、では全員一致で可決ということだな」
「しかし、禁忌召喚など、どうやって行えばいいものか」
「なーーに、心配はいらん、既に手筈は整えておる」

その言葉に一同が驚く。

「ここに来る前に、召喚の儀は既に初めておる。
 そろそろ成功の報せが届くであろう。」
「なっ、勝手にそのような事を!」
「貴公らは賛成したではないか、結局は変わらぬことよ」
「そうではあるが・・・うむ、まあ良い」
「しかし本当に成功するのであろうな、これで失敗したら目も当てられぬぞ」
「禁忌召喚・・・か。
 本来自然に生まれるべき勇者を、異世界から召喚することで強制的に現界させる禁忌の技。
 確かにこの召喚を乱用されてしまえば、各国は入り乱れた戦争になるであろうな。」
「ああ、魔王と一対一で戦い勝ってしまうような化け物じみた戦力を得るのだから。
 それに比べてしまえば、先程名を挙げた戦士たちの戦力も赤子に等しい。」
「禁忌召喚を行ったかつての国は、その強大過ぎる戦力故に、他国が連合を組み滅ぼしたとな。
 我々も同じような道を歩まぬよう、気をつけなければな。」

その時、部屋の外を慌ただしく走る音が聞こえた。

「きたか・・・」

ロン議長は待ってましたとばかりに、椅子へもたれかかる。

コンコンと戸が叩かれ、室内へ入ってくる連絡兵を12の視線が射る。
連絡兵は息を整え、背を伸ばすと大きな声で告げた。

「ロン議長、ご報告致します!!
 召喚の儀、無事成功。召喚の儀、無事成功でございます!!」
 
その報告に元老たちは「おお!」と喜びの声をあげた。
顔を見合わせその成功を喜ぶ。

しかし連絡兵の報告はそこで終わらなかった。
言い難そうに、口元をぐっと引き締め、さらなる報告を行う。

「つ、続いての報告があります!」

喜び浮かれている元老たちは、疑問の顔を浮かべ、再度連絡兵を見る。

「つい今しがたナイン大陸の諜報員から連絡があり、
 ハッカータ国の王城に隕石が落下し、国王が行方不明になったとのこと。
 それによりナイン大陸連合国は解散し、中央大陸侵攻は事実上白紙になったと連絡がありました!」
「「「「 え? 」」」」

一同の声が重なった。



------ 予告 -------

異世界に召喚された勇者は日本の高校生・滝田 丞太郎。
戦争に利用するはずだった彼の存在は元老院によって、厳重に秘匿されようとしていたが、
チート能力を披露したい丞太郎は暴走し、城を抜け出す。
勝手にレベルを上げ、勝手に仲間を連れ魔王を退治しようとする彼を、元老院は放置もとい無関係を装った。

「え、異世界勇者? なにそれ知らないよワシら」

そして勇者は、ちーちゃんと出会ってしまう。

第四章『異世界からの訪問者』


第三章から一転、ドタバタ物になります。
更新は未定です。
早くても別作『モラトリアム・タイムズ~冒険は義務ですから~』の第一章終了後かと。
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