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臨終録02:曾布川 次男
曾布川 次男(3)
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町の周囲には2mほどの木の杭が地面に穿ち防壁となっていた。
見渡す限りには町への入り口はなかった。
柵の向こう側からは人々の喧騒が聞こえており、人里へ来た安心感を感じた。
目の前に町があるのに入れないもどかしさで、曾布川は疲れた足を速め柵に沿って進めた。
山の上から見た所、それほど大きな町ではなかった。
だが、人の足では決して小さなものではない。
「くそっ、目の前にあるのに!」
結局、街の入り口につくまで20分はかかった。
町の門扉は開かれており、きっと夜には閉められてしまうのだろう。
曾布川は、町をいざ目の前にして少しだけ未知への恐ろしさを感じた。
柵沿いに歩きながら、町の喧騒を聞いていた時から、違和感を感じてはいた。
いざ町の中を目にし、そこを歩く人々を見たときに、その違和感が分かった。
通りを歩く人々のだれもが、外国人の様相をしていた。すくなくとも日本人とはかけ離れた、白髪、金髪、灰色などの髪の毛に、薄い色素の肌。
だが、その口から滑り出てくる言葉は、日本語。
(どうなってんだ、こりゃぁ)
言葉が通じるに越したことはないが、あまりにも不可思議な事ばかりの連続で、曾布川は頭を掻きむしった。
「くぅ、腹が減ってんだ、悩んでもしかたねぇっ!」
腹をくくると町の中へ歩みを進めた。
町の人々は誰も曾布川のことを気に留めず、日常を過ごしていた。
5m幅の道の端々には住人らしき人々が井戸端会議を繰り広げていた。
見た目は外人、しかし言葉は日本語。一体ここはどこなんだ。
ぐるぐると頭の中を回る疑問に蓋をしながら、道を進んでいく。
地面は踏みなさられた土、並ぶ住宅は木造建築。電柱らしきものはなく、目に映る文化レベルは遥か昔のよう。
住宅の軒先にはランプのような器材が吊るされている。
住人が来ている服の素材も決して良いものではなく、どこか伝統衣装のような、職人のような仕立て感はあるが、お金をかけた嗜好品ではない、いわゆる工業製品の均一さがない。きっと手作りなのだろう。
タイムスリップでもした感覚。
通り沿いには住宅ばかりが並んでおり、店といわれるものは見当たらない。
人とすれ違うたびに、視線が追ってくるのを感じる。
容貌や服が明らかに異なる人間は、小さな町では目立つ。山頂から見た所、この周囲に町はなかったのだから、異物には多少敏感なのだろう。
元よりはぐれ者として生きてきた曾布川にとって、その視線は馴染みあるもの。小雨ほどにも気にならない。
町の中央には大きな広場があり、たくさんの露店が軒を連ねていた。
そこには多くの人が活発に蠢いており、大勢の喋り声は雑音と化していた。
仮設されたテントの下には各々商売に励んでおり、果実、野菜、金物、衣服、良くわからない石などが並べられている。さきほど通ってきた通りとは打って変わり、露店の間は人と人の方がぶつかり合う程度には混んでいた。
町人たちがやり取りしている金銭は親指ほどの四角い板状の金属。
紙幣やコインのような金銭は見当たらない。
(どう考えても日本の金は使えねぇだろうな。)
いい加減、腹のすき加減が限界に来ていた曾布川は、完全に体力がなくなる前に、果物を盗み食いをしようと考えた。人込みに紛れれば多少は見つかりにくいだろう。そう考え、自らが悪行を働くべく露店を選定する。
目線を張り巡らせると、黄色い屋根の露店にひときわ群れを成しているのを見つけた。
そこは不思議な光景が広がっていた。
露店の主人は女性がひとりで、どさりと積まれた果実の奥に座ったまま。
客は女性に声をかけると、金銭のやり取りを行わず、持ち帰っていった。
曾布川は、ゆっくりとその露店へ近づいて行った。
店の前に立ったところで、女性店主は気だるそうな顔のまま、いらっしゃいませの一言も言わない。
「なあ、さっきから見ていたんだが、これは無料なのか?」
声をかけると初めて店主は曾布川を見て、何か納得したかのように表情を取り戻した。
「あんたあれだね、よそから来た人だねぇ。そんな珍しい恰好ってことはポードヌスの人かい?」
「ん、まあな」
名も知らぬ地名を出されたが、話を合わせることにした。
「だったら、驚くだろうね。リフは国策として『マヌサ』『イグリィ』『クーシー』は無料で配られているんだよ。この町ではクーシーしか回ってこないんだけどね。まあ、だからといって持っていき放題ってのはよろしくないんで、私みたいな暇を持て余したボランティアが店番をしてるんだよ。よかったら、あんたも持っていくかい?」
願ってもない提案だ。
曾布川とて犯罪を好き好んで犯したいわけではない。
このような訳の分からぬ土地でやらかすなど、最後の手段だ。
「いいのか?」
「あぁ勿論だよ。ひとり2,3個くらいだったら問題ないさ」
生き残る活路が見いだせた。
「それじゃあ、遠慮なく貰っていくぜ、ありがとよ」
見たこともない果実を2つ手に取ると、ひとつ疑問を投げかける。
「ここは毎日やってるのか?」
「勿論さ、主食なんだから無かったら困るだろさ」
「なるほどな……あと、水はどこにあるんだ?」
これが主食なんどピンとは来なかったが納得した体を装って、水の場所を尋ねる。
これさえあれば生命線は保たれる。
しかし店主から出てきた言葉は期待通りのものではなかった。
「水ならね、旅人用の水道のカギが売っているよ。5000リフくらいだったかね」
水にお金が掛かる。
曾布川は、悪い方向にカルチャーの違いを目の当たりにした。
見渡す限りには町への入り口はなかった。
柵の向こう側からは人々の喧騒が聞こえており、人里へ来た安心感を感じた。
目の前に町があるのに入れないもどかしさで、曾布川は疲れた足を速め柵に沿って進めた。
山の上から見た所、それほど大きな町ではなかった。
だが、人の足では決して小さなものではない。
「くそっ、目の前にあるのに!」
結局、街の入り口につくまで20分はかかった。
町の門扉は開かれており、きっと夜には閉められてしまうのだろう。
曾布川は、町をいざ目の前にして少しだけ未知への恐ろしさを感じた。
柵沿いに歩きながら、町の喧騒を聞いていた時から、違和感を感じてはいた。
いざ町の中を目にし、そこを歩く人々を見たときに、その違和感が分かった。
通りを歩く人々のだれもが、外国人の様相をしていた。すくなくとも日本人とはかけ離れた、白髪、金髪、灰色などの髪の毛に、薄い色素の肌。
だが、その口から滑り出てくる言葉は、日本語。
(どうなってんだ、こりゃぁ)
言葉が通じるに越したことはないが、あまりにも不可思議な事ばかりの連続で、曾布川は頭を掻きむしった。
「くぅ、腹が減ってんだ、悩んでもしかたねぇっ!」
腹をくくると町の中へ歩みを進めた。
町の人々は誰も曾布川のことを気に留めず、日常を過ごしていた。
5m幅の道の端々には住人らしき人々が井戸端会議を繰り広げていた。
見た目は外人、しかし言葉は日本語。一体ここはどこなんだ。
ぐるぐると頭の中を回る疑問に蓋をしながら、道を進んでいく。
地面は踏みなさられた土、並ぶ住宅は木造建築。電柱らしきものはなく、目に映る文化レベルは遥か昔のよう。
住宅の軒先にはランプのような器材が吊るされている。
住人が来ている服の素材も決して良いものではなく、どこか伝統衣装のような、職人のような仕立て感はあるが、お金をかけた嗜好品ではない、いわゆる工業製品の均一さがない。きっと手作りなのだろう。
タイムスリップでもした感覚。
通り沿いには住宅ばかりが並んでおり、店といわれるものは見当たらない。
人とすれ違うたびに、視線が追ってくるのを感じる。
容貌や服が明らかに異なる人間は、小さな町では目立つ。山頂から見た所、この周囲に町はなかったのだから、異物には多少敏感なのだろう。
元よりはぐれ者として生きてきた曾布川にとって、その視線は馴染みあるもの。小雨ほどにも気にならない。
町の中央には大きな広場があり、たくさんの露店が軒を連ねていた。
そこには多くの人が活発に蠢いており、大勢の喋り声は雑音と化していた。
仮設されたテントの下には各々商売に励んでおり、果実、野菜、金物、衣服、良くわからない石などが並べられている。さきほど通ってきた通りとは打って変わり、露店の間は人と人の方がぶつかり合う程度には混んでいた。
町人たちがやり取りしている金銭は親指ほどの四角い板状の金属。
紙幣やコインのような金銭は見当たらない。
(どう考えても日本の金は使えねぇだろうな。)
いい加減、腹のすき加減が限界に来ていた曾布川は、完全に体力がなくなる前に、果物を盗み食いをしようと考えた。人込みに紛れれば多少は見つかりにくいだろう。そう考え、自らが悪行を働くべく露店を選定する。
目線を張り巡らせると、黄色い屋根の露店にひときわ群れを成しているのを見つけた。
そこは不思議な光景が広がっていた。
露店の主人は女性がひとりで、どさりと積まれた果実の奥に座ったまま。
客は女性に声をかけると、金銭のやり取りを行わず、持ち帰っていった。
曾布川は、ゆっくりとその露店へ近づいて行った。
店の前に立ったところで、女性店主は気だるそうな顔のまま、いらっしゃいませの一言も言わない。
「なあ、さっきから見ていたんだが、これは無料なのか?」
声をかけると初めて店主は曾布川を見て、何か納得したかのように表情を取り戻した。
「あんたあれだね、よそから来た人だねぇ。そんな珍しい恰好ってことはポードヌスの人かい?」
「ん、まあな」
名も知らぬ地名を出されたが、話を合わせることにした。
「だったら、驚くだろうね。リフは国策として『マヌサ』『イグリィ』『クーシー』は無料で配られているんだよ。この町ではクーシーしか回ってこないんだけどね。まあ、だからといって持っていき放題ってのはよろしくないんで、私みたいな暇を持て余したボランティアが店番をしてるんだよ。よかったら、あんたも持っていくかい?」
願ってもない提案だ。
曾布川とて犯罪を好き好んで犯したいわけではない。
このような訳の分からぬ土地でやらかすなど、最後の手段だ。
「いいのか?」
「あぁ勿論だよ。ひとり2,3個くらいだったら問題ないさ」
生き残る活路が見いだせた。
「それじゃあ、遠慮なく貰っていくぜ、ありがとよ」
見たこともない果実を2つ手に取ると、ひとつ疑問を投げかける。
「ここは毎日やってるのか?」
「勿論さ、主食なんだから無かったら困るだろさ」
「なるほどな……あと、水はどこにあるんだ?」
これが主食なんどピンとは来なかったが納得した体を装って、水の場所を尋ねる。
これさえあれば生命線は保たれる。
しかし店主から出てきた言葉は期待通りのものではなかった。
「水ならね、旅人用の水道のカギが売っているよ。5000リフくらいだったかね」
水にお金が掛かる。
曾布川は、悪い方向にカルチャーの違いを目の当たりにした。
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