彼女はオタク男

オタクの宿命

「この私の思い、身体ごと、アナタの胸でうけとめてほしいのー」♪

pcモニターに映る、細い身体に煌めいた衣装をまとった、幼さのこる顔に長い髪の毛。

アップに映った彼女にウインクされ、心が弾む。

ヘッドホンから聴こえる彼女の声に、心癒される。

彼女の名前は加藤アイリ。今人気のアイドルである。

その彼女に心も財布も奪われた男、平間ひろし。

pcの前で彼は、いつもアイリに魅了されては、グッズやCDを買った。

オタク男、ひろしの日常は変わり映えする事ない日々。

学校に行き、クラスの男子には、オタクで話しかけにくい存在。

女子からは、決まって飛んでくる言葉。
「まじきも」　「くさ」

ひろしは鋭い女子からの言葉を耳に受けては、心でこう言うのだ。

(俺にはアイリがいる。お前らみたいな女に、なに言われても平気だよ。好きに言ってろ。)

と、思いつつも平気であるわけがない。耳に受けた鋭い言葉は、耳を貫通して心にぶっ刺さる。

今日もへこまされ帰る。

家に帰れば、心のオアシス、加藤アイリが、pcの中で待っている。

そういう日常を彼は過ごしていた。

ある日の事、いつものように家で過ごしていた時、なにげなく、芸能ニュースを見てしまった。

オタク男が絶対に踏み入れてはいけない禁断の場所である。

ひろしはやってしまった。もう遅い。

目に飛びこんできたのは案の定の話題だった。

見たくないニュースを見る時は、気の緩んだ時に見てしまう。

彼の心のオアシスを完膚なきまでに破壊する、絶望の内容だった。

人気アイドル、加藤アイリとイケメンマルチタレント、桜庭ゆうまとの交際記事だった。

ひろしは泣いた。
(なんてことだ。嫌、ウソだよ。こんな記事はでたらめだ。あり得ない。あり得ない。)

あり得る話しである。

いくらアイドルと言っても、若い女。恋愛だってするでしょ。

ひろしはしばらく絶望の中にいた。

いつもなら、アイリのライブ映像を見て、心のオアシスに癒されるのだが今は違う。

そのオアシスが、桜庭ゆうまにより、毒おびた、おぞましい沼池と化したのである。

そして、ひろしの脳ミソは破滅の方向へ向かわせる。

ひろしの心の中には、今、たくさんのひろしがいる。

ひろし1「アイリのグッズなんか全て捨ててしまえ」
ひろし2「まだ付き合ったって決まったわけじゃない芸能ニュースだぜ」
ひろし3「アイリのグッズは売って別の人のファンになれば良いじゃん」
ひろし1「ふざけんな。もう女なんか信じない。」
ひろし2「アイリを信じる。だって、アイドルに命かけてるのに男作るのあり得ない。あり得ない。」
ひろし3「さっきと一緒で」

こんな感じの自分の中会議が始まり、結局、ひろし1の意見が通った。

アイリのグッズ全てがなくなり、心空っぽのひろし

闇落ちした彼はアイリとゆうまを憎んでいた。

ひろし(アイリ、君を一途に愛していたのに男作りやがってー。ゆうま、覚えてろよ。お前がアイリに手をださなきゃこんなことにわぁぁー。)

ひろし(もう嫌だ。なにもかもが。うぁあああ。)

？「そんなに嫌なら違う人生を歩んでみるか？お前の望む姿へ変えてやろう。」

突然あらわれた謎の声。

闇落ちしたひろしは、闇の使いを呼んでしまった。