妹プロIFストーリー 柚希END

白石マサル

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第1話

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 卒業式、私はある決心をして佐伯菜々さえきなな率いるギャルグループの前に立っている。

「最後だから言うけど、私、あの佐藤友也の妹なんだよね。アンタたち散々悪口言ってたけど、これでお別れだと思うと清々するよ」
「は? いきなり何なの?」
「もう二度と顔見せないでね。私はアンタたちが一生かけても行けないような高校に行くから会うことはないけどね。ばいばーい」

 言いたいことを言ってスッキリした私は教室を出ていく。
 菜々達は呆気にとられた顔をしていた。

 下駄箱で靴に履き替えていると、めぐが焦った様子で追いかけてきた。

「どうしたのゆず――」
「ごめんめぐ、私急いでるから! またね」

 無理やり話を終わらせて一人で帰る。
 公園に差し掛かった時に後ろから菜々に声をかけられた。

「おい佐藤、ちょっとツラ貸しな」

 ――――――
 ――――
 ――
 
「マジうけんだけど~」
「何すわっちゃってんの~?」
「お腹でも痛いんですか~?」
「「ぎゃはははは」」

 私はお腹を押さえてうずくまる。
 私からワザとけしかけたとはいえ、いきなり暴力なんて本当にどうしようもない奴らだ。

「まさかアンタにあんなキモイ兄貴がいたなんてね~」
「思い出しただけで吐きそうー」
「だからどうしたのよ! それより私を蹴った事謝りなさいよ!」
「は? どうでもよくないっしょ~!」
「そうそう」
「まさかアンタがあの佐藤友也さとうともやの妹だったなんてね~」
「どうしてかくしてたのかな~? 佐藤柚希さとうゆずきちゃ~ん」
「それは、私は私だし! お兄ちゃんは関係ない!」

 自分で招いた状況だけど、お兄ちゃんをバカにされるのは本当にむかむかする。
 本当のお兄ちゃんを知らないくせに。
 そう思いながら力強く反論する。
 菜々たちはそれを嘲笑う。

「いや、関係大ありでしょ~」
「そうそう」
「あんなキモイ兄貴いるやつと一緒に居たくないし~」
「実はアンタもヲタクなんじゃね?」
「きゃはは、言えてる~」
「私は違う!」
「ふ~ん。ま、どっちでもいいけどね~」
「どういう意味よ?」
「アンタ高校兄貴と同じ所行くんだろ? アタシたちは学校ちがうからさ~」
「だから何? あなた達に関係ないでしょ?」
「そ。もう関係ないね~」
「だから二度と友達面しないでね~」

 さっき私が放った言葉をわざとらしく言い返してきた。
 そして足で地面を蹴って私に砂を掛ける。

「兄貴となかよくね~、きゃはは」

 菜々たちは去っていった。
 しばらくして私は立ち上がり砂を払う。
 そして家に向かって歩き出した。
 
 

 帰宅後、軽くシャワーを浴びて砂を落とす。
 ラフな格好になりリビングでお茶を飲んでいると、玄関のドアが開く音がした。
 そして私は泣いたふりを始める。
 お兄ちゃんが「ただいま~」と一言放ちそのまま自分の部屋に向かう。
 泣いたふり終了。
 ソファーに座ったまま、スマホに目を落とす。
 
 〈さっきはごめんね、めぐ〉
 〈ゆず、今日はどうしたの? 急にあんな事言うなんて〉
 〈どうせ最後だし思い切って全部ぶつけようと思ってさ。あースッキリした!〉

 その後は他愛もないチャットを続けた。
 親友のめぐでさえも私の計画は知らない。
 間もなくお兄ちゃんが一階に降りてきた。

「あ、お兄ちゃん帰ってたんだ。おかえり~」
「おう、ただいま」

 お兄ちゃんはたまに、お父さんたちが帰ってくるまではリビングでくつろぐ。
 私の一つ隣で、ソファーに腰を掛けテレビをつける。
 少しの間、テレビの音だけが流ていた。
 テレビを見ながらお兄ちゃんが真剣なトーンで問いかけてくる。
 
「今日で中学最後だったろ? どうだった?」
「う~ん、特別変わった事は無かったかな~」
「そうか」
「カラオケに誘われたけど今月ピンチだから断ってそのまま帰ってきた感じ」
 
 無理をしていないように振る舞うために私は嘘をついた。
 帰宅早々、妹が泣いている姿を目撃、そんな妹が強がっている素振りを見せたのなら……

「柚希、俺の事で虐められたりしてないか?」

 ほら、やっぱりね。 
 テレビを消し、私の方に身体を向け、想像通りの質問をしてきた。
 私は一瞬ビックリするような表情をしてみせ、すぐに笑顔ではぐらかす。

「なに言ってるのお兄ちゃん、そんな事ないよ~」
「さっき公園でギャルグループに囲まれてただろ?」
「……」

 笑顔を無くし目線を下げる。
 見られたくないものを見られたショックで言葉が見つからない。
 そんな悲壮感を演出する。

「見てたんだ……?」
「……偶然な」
「そっかぁ……」

 偶然なんかじゃない。
 あれは見せるためにやった事だ。

 あの時、お兄ちゃんが隠れて見ていたのは気づいていた。
 だからわざとらしく悔しそうに俯き震えているふりまでした。
 
 案の定、お兄ちゃんは食いついてきた。
 少し沈黙した後、私は口を開いた。

「私ってさ、自分で言うのもなんだけど、男子からも女子からも好かれてて、お兄ちゃんが言う所のパーフェクトヒロインだと思うんだ。クラスのトップカーストにも属してるしね。私凄いリア充でしょ? ふふふ」

 そしてギャルグループ――佐伯菜々についても話し、その間、お兄ちゃんは黙って聞いていた。

「お兄ちゃんって悪い意味で中学の時有名だったじゃん? いつも一人で居てマンガ読んだりゲームしてたりしてて、話す時もぼそぼそと何言ってるかわからないキモヲタクだって」
「ああ……」

 それを聞いたお兄ちゃんは遠慮気味に相槌を打った。

「私とお兄ちゃんて全く正反対じゃん? だから私がお兄ちゃんの妹だって分からなかったみたい。お兄ちゃんも学校では絶対に私に近づこうともしなかったしね」

 そしてこの間、お兄ちゃんと買い物に行った時、ギャルの菜々に見られていた事を伝える。
 次の瞬間、迂闊だったという顔をしている。
 お兄ちゃんは思ったことがすぐ顔に出るからわかりやすい。

「次の日にギャルグループがウチのグループに接触してきて、私がお兄ちゃんの妹だって皆にバラしたの。皆凄いおどろいてたなぁ」

 それでいじめられてたのか? という問いに私は違うと答える。
 すると、ならどうして? という表情をしていたので私は嘘の理由を話す。

「中学最後だからこれまでの分も含めてのお礼参りだってさ。今時お礼参りなんて笑っちゃうよね~」

 私が知ってるお兄ちゃんなら、こんな状況放っておくわけがない。
 私がお兄ちゃんを好きなくらい、お兄ちゃんは妹の私が好きなんだから。
 それは今も昔も変わらない。
 
「柚希! どうすればリア充になれる!?」
「……ええええぇぇぇぇ!?」

 よっし! やっぱりお兄ちゃんは根っこの部分は昔と同じだ!
 こうしてお兄ちゃんがリア充に成る為の特訓が始まった。




 この数日間、お兄ちゃんは驚くほど変化を遂げた。
 というよりも、昔のお兄ちゃんに戻ってきたっていうべきかな。
 
〈友也さん、別人みたいにカッコよくなってびっくりしちゃった〉
〈もしかしてめぐ、惚れちゃったの~?〉
〈かもしれない~。思わず掲示板に書き込んじゃった~☆〉

 掲示板か……使えるかもしれない。
 
 そんなやり取りをベッドで仰向けになってめぐとしていると

「柚希、起きてるか?」

 と、お兄ちゃんがノックしてきた。
 私はドアから少し顔を出した。

「どうしたの?」
「昼間の事で少し話があるんだが、いいか?」
「……」
 
 お兄ちゃんが私の部屋に来るなんて何年ぶりだろう?
 わざわざ来るって事は、もしかしてめぐの事かな?
 だとしたら好都合だ。
 
「入って」

 お兄ちゃんを部屋に招き入れ、私はベッドに腰掛ける。
 お兄ちゃんはキョロキョロと部屋を見回す。
 

「それで話って何?」
「めぐの事に関係してるんだけど」

 やっぱりめぐの事だ。 
 めぐは一年女子でも指折りの可愛さだと思う。
 そんなめぐが好意を寄せるイケメンの先輩がお兄ちゃんという構図が出来たら、私の計画にプラスになるかもしれない。

「もしかしてめぐに惚れちゃったの~?」
「いや、そういうわけじゃないんだ」
「な~んだ、つまんな~い」

 当てが外れたかぁ。
 そう思ったのもあってわざとらしく唇を尖らせてみせる。
 だけど、それなら何でわざわざ私の部屋に来たんだろう?

「めぐが柚希の話を聞いて協力してくれる事になっただろ?」
「うん、心強い味方が増えたね」
「最初に協力したいって言われた時、柚希俯いてたよな?」

 さすがお兄ちゃん。
 あの状況でそこまで観察してたなんて。

「そうだっけ?」
「その後柚希は本当にいいの? って問いかけた」
「迷惑掛けちゃ悪いしね」
「それでもめぐが力になりたいって言った時さ」
「柚希、お前……笑ったよな?」

 え? アレに気づいたの? もしかして計画の事ばれたのかな?
 でもそれだけで驚いた素振りを見せるわけにはいかない。

 そう思い私は笑顔を張り付けたまま

「凄く嬉しかったからね!」

 と答えた。
 だけどお兄ちゃんは確信めいたように

「そうじゃない。俯いた状態の時、口角だけあがったんだよ」

 と告げた。
 
「……」
「全部、計算してたんじゃないか?」

 驚いた、まさか本当にそこまで気づいていたなんて。

 公園でのいじめもめぐの協力も全て計算して演出した。
 でもこの段階でお兄ちゃんが気づくことは計算外だった。

「やっぱり兄弟だね……」

 計画がバレた以上は仕方ないか。
 こうなったら全部話してしまおう。
 これはこれで都合がいいし。

「うん、全部計算通りだよ」

 そう言って私は隠すことのない素の表情を顔に張り付けた。
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